見出し画像

雪山に紡ぐセーター 番外編 「実録!東京都渋谷区DX抗争」

自分は、DXという名前のついた職種の仕事をしている。(ここは実話)
ひと昔前は、IT革命という言葉が流行ったこともあったが、今はDXとい言葉がとにかく流行っている。DXとは、デジタルトランスフォーメーションの略で、これからの国際的競争社会を勝ち抜いていくためには、とにかく古いやり方を変えてデジタル化しなくてはならない。というような意味らしい。
国も1兆円規模の予算を組んで、民間企業のDX化をとにかく後押ししているらしい。
もちろん、デジタル化するのは、役所や企業だけではない。そう、暴力団もデジタル化を進めているのだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――
ここは渋谷のとある雑居ビル。
薄暗い事務所の中に、黒いスーツを着た男が革張りの椅子に座っている。
黒いスーツの中には黒シャツ。肩幅は前にも横にも広く、一方的な威圧感を身にまとっている。
「どないなっとんじゃ!!!」怒号が飛ぶ。
そう。ここはいわゆる暴力団事務所、関東最強の武闘派集団と言われている祖父江組の事務所だ。怒号を飛ばした男。祖父江組長の周りは、ホスト風の白いスーツや今風のパーカースタイルなど、様々な格好の男達が直立不動で立ちすくんでいる。サングラスをかけ、黒スーツに白シャツ、角刈りサングラスというトラディショナルなヤクザスタイルの男が前に出た。

「押忍!先月のブツの売上を報告させて頂きます!」

男は手元のノートパソコンを操作する。プロジェクターが動き出し、画面が投影された。
東京都内の地図が映し出され、地図の上に棒グラフが並んでいる。

「地図上のグラフをご覧ください!渋谷地区、前月比124%!新宿地区、前月比113%の記録をなっております。

「おう!伸びとるやないか。」

「押忍!ありがとうございます!続いて、ブツの購買データを分析しました。」
「過去5年間の売上を、年代・性別別に分析したグラフがこちらです。」
画面が切り替わり、拡大された渋谷・新宿での売上をしめす棒グラフがカラフルに色分けされていく。

「グラフに表示されている通り、10代・20代女性の購買者が年々増加していることが分かります。そこで、彼女達をターゲットとして、TikTokによるマーケティングを開始しました。うちの組に所属している脱力系配信者、「シャブ男くん」「シャブ子ちゃん」のショート動画を配信しています。再生数も順調に増加中です。」

革張りソファーに座った、親分格の男がうなずく。胸板にためた空気を一気に吐き出し、激を飛ばした。

「おう!バズらせたらんかい!!!」

周囲の男たちが一斉に声をあげる
「押忍!バズらせます!」

その時。若い男が部屋に駆け込んできた。

「大変です!親分!敵対する青山組の、サイバーカチコミにやられました!」

「なにい!」

「サーバーに侵入されてしまいました!データが次々に抹消されています!取引先データ、仕入れルートの情報が抜かれるとヤバイことになります!」
男達がざわつく。

「慌てる必要はない。こんな時のために先生に来てもらってるんや!」
「高木先生!お願いします!」

部屋のドアが開き、新たに1名の男が追加された。

「はい、お任せください」

男は、手にしたノートPCを開くと、ものすごい勢いでキーを叩きはじめた。
独り言をつぶやきながらしばらくPCを操作した後、眼鏡を人差し指でクイと上げながら、状況を説明しだした。

「この程度であれば十分にファイルの復旧は可能です。」
そう、彼は「デジタル用心棒」。敵対する組織や、国家権力のサイバー攻撃に対抗し、そして時には攻撃を仕掛けるための人員として組に雇われている。

「おおお。さすが先生!」男達に安堵の声が漏れる。

「逆に、相手が作った侵入経路を利用して攻撃を仕掛けましょう。」
腕を組んで目をつぶっていた祖父江組長が、カッと目を見開いた。

「野郎ども!反撃や!」
「押忍!!おやじ!!!」周囲の男たちが答える。

「得物を出すんや!」

部屋の片隅に置いてあるロッカーを開くと、そこには数十台のノートパソコンが乱雑に積み重ねられていた。

男達はノートパソコンを取り出すと、机に並んで座り、一斉にカチャカチャと操作をはじめた。

「やんのか、オラー!」
「いてまうぞ!!」

部屋の中に、男たちの叫び声と、キーボードの操作音が響く。
用心棒/高木がメガネをあげながら静かにつぶやいた。
「青山組のサーバー、ファイヤーウォールを突破しました。侵入成功。これで相手は丸裸です。」

ファイヤーウォールに開いた穴から、武器を持った男達がなだれ込む。
青山組のサーバーに保存されている顧客リストや、海外の仕入れ先とやり取りしたメールデータ。芸能人と一緒に撮影された写真などが、次々と奪われ、あるいは削除されていく。

「青山組、組長討ち取ったりーーーーー!」

先ほど、ブツの売上を報告していた男、角刈りの山口がノートPCを手に、祖父江組長に駆け寄った。画面には、青山組長のクレジットカードの使用履歴が映し出されている。

ウマ娘、艦隊これくしょん、アイドルマスター。。。
いわゆる萌えゲーへの重課金の記録に加えて、Vtuberへの投げ銭。
何百万という金が萌えにつぎこまれている。

画面を見た祖父江組長は、ニヤリと笑い、つぶやいた。
「あの野郎、やっぱり組の金に手をつけてやがる。」
いくら組長といえども、組の金を何百万も抜き取り、2次元美少女に課金していたとなれば、ただではすまない。

「これで、青山はおしまいや!とことんやったるでーーーー!!」

事務所の組員達の士気は一層盛り上がり、キーボードを叩く音が激しく事務所内に響き渡る。

~~~~~この日を境に、青山組を壊滅・吸収した祖父江組は関東県内での支配力を高め、その地位を盤石なものにしていくこととなる。
皆さん、お分かりだろうか。この世を支配するのは暴力ではなく。情報なのだ。

「次回予告」

次回は、DX化された高校生半グレ集団の抗争をルポタージュします。
「東京マンジWindows」 こうご期待!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?