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私のマリアカラス

マリア・カラスに初めて出会ったのは、10年前の晴れ渡った冬の日の事でした。

冬枯れの公園で、スポットライトを浴びて燃える様に咲く、一輪の薔薇が私の目に飛び込んで来たのです。

干からびた土からは、太い幹が伸び、無数の棘は、動物が牙を向いて威嚇しているようで恐ろしく、けれども、視線を上げると、花は茎とは真逆の、匂い立つように艶やかな姿でした。

濃いピンクの花びらを幾重にも纏い、まるでオートクチュールの夜会服を着た貴婦人のようです。

足元のネームプレートには
マリア・カラス とあり、
私は、『まぁ、あのプリマドンナの!』と、感嘆の溜め息をつきました。

その姿は私の心を捉え、いつか自分でも育ててみたいと思っていましたが、薔薇は手のかかる植物だと聞いていたので、なかなか踏み切れずにいたところ、コロナが生んだお家時間が、私に機会を与えてくれました。

そのような経緯で、マリア・カラスを育てるようになってから2年が過ぎ、育ててみると、マリアはとても強い品種で、農薬も要らず、ディスカウントで買った苗でしたが、
一緒に買った苗はすぐ病気になってしまったのに、マリアだけは一度も、何のトラブルもなく大きな株に育ち、
季節毎に見事な花を次々と咲かせ、私を楽しませてくれるのです。

以前から、
マリア・カラスがオペラの
ディーバだとは、知っていましたが、彼女自身にも興味を抱き調べてみますと、華やかな存在感とは裏腹の人生が隠されていました。

毒親育ちの上に、
マネージャーを兼ねていた夫も、妻はお金を稼ぐ道具にしか過ぎず、
愛を唄っているのに、本物の愛を知らない女性だったのです。

しかし皮肉なもので、その
人生の悲哀が醸し出す表現力は、彼女の最大の武器となり、様々なタイプのヒロインの、感情を演じわける声と
演技力が、永遠のディーバと言われ続ける所以でしょう。

そして、彼女にはひと目見ただけで、人を釘付けにする華があり、それ故に嫉妬され、又、メス虎と呼ばれるほど、自分を守る為には相手に強烈な牙を向く、気の強さも加わり敵が多く、正直過ぎて世渡り下手でもあったのでしょうか。

天才達は、努力する力も天才だと言われますが、マリアも
然り、努力の人だったと言われています。
喉を酷使した為、最盛期は短く、思うように声が出なくなってからは、更に努力を積み重ねた日々であったと聞きます。

最後に、マリア・カラスを語るに欠かせない、海運王オナシスとの恋を綴ります。

彼女が、自分を利用し続ける夫と離婚に踏み切る気持ちを
固めた頃、オナシスとの出会いがありました。 

夫は、売れない時代に彼女を見出しマネージメントしてくれた人ですから、互恵関係と
言えるでしょう。
しかし彼女は、そんな関係にでさえ、愛のかけらの幻を見ていたようです。

マリアはオナシスと出会い、女として初めて男を愛する気持ちを知ります。

オナシスにも妻がおり、2人の関係は不倫から始まります。
マリアの離婚は時間がかかりましたが成立し、やがてオナシスも妻と別れます。

機は熟し、
マリアが、いつかいつかと、オナシスのプロポーズを待っていた最中、彼がケネディ大統領の未亡人、ジャクリーヌと結婚した事を知るのです。
それも、新聞報道で知ると言う残酷なかたちで。

米国への進出を狙い、自分の野望の為にマリアを捨てたオナシス。
自分の事しか愛せない男、
オナシス。

我が身に置き換えて想像しても、マリアの心の痛みは、
察するに余りある程です。

オナシスと、ジャクリーヌの結婚は、ジャクリーヌ側も、ケネディ亡き後、力のある男に守られたいと、お互いを 利用し合うだけのものでしたから、上手くいくはずもなく、後には破綻し離婚となります。

晩年オナシスは、パリ在住だったマリアを尋ね、

「傷つけた事もあったけれど
、愛していた」との言葉を
マリアに残している事を知りました。

その後、
2人は結婚こそしませんでしたが、親友のような絆が生まれ、穏やかな晩年を過ごしたそうです。
心は結ばれたのですね。

それを知った時、同じ女として安堵し、私まで嬉しくなりました。

薔薇マリアの制作者は、強烈な棘と華やかな花弁を反比例させ、見事にマリアの表と裏を表現している事に感心さ
せられます。

2月。
薔薇マリアは葉を落とし、
凍えながら、春に向けエネルギーを蓄え眠っています。

ねぇマリア 
次のステージは
どんな姿を見せてくれるの?

アンコール!マリア
アンコール!


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