ワクワクがいっぱいの作曲家の自伝〜藤倉大「どうしてこうなっちゃったか」


 今年早々に刊行されて「面白い!」と評判になっている、藤倉大さんの自伝、「どうしてこうなっちゃったか」を読みました。


 確かに面白いです。語り口だけでもとても。これだけ「書ける」方はなかなかいない。自然に書いていても面白おかしくなってしまうのかも。才能ですね。
 とはいえ、もちろん、なんと言っても中身が面白いわけで。

 まず、現役の、それもまだまだ若い世代(40代)で、国際的に注目されている方の自伝というのがそもそも貴重です。その方が、これだけ「書ける」ということも含めて。

 この本で、そんな藤倉大さんの何がわかるか、というと、
1 天才であるということ。
  子供の頃、ピアノのお稽古をしていて、他人が描いた楽譜を弾くのがつまらなかった。必然性を感じなかった。自分で弾きたいように弾いたらピアノの先生から怒られた。それで自分で書いてみたら面白かった。曲を書きはじめたらどんどん音符が出てきた。それをピアノで弾いてみたら、いいじゃん!こんな音楽が弾きたかったんだよ!
 ということで、それを現在まで続けている。作曲最優先だから、教えることはほとんどしないし、コンクールの審査員もほとんど受けない。
 才能は情熱の量である、とよく思うのですが、やはり天才というのはまず才能があって、それを情熱で生かすわけですね。当たり前なんでしょうけれど、そのことをこういうふうに自然に書ける方はなかなかいない。

2 早くから外国に渡ったことがよかった。
 藤倉さんは15歳でイギリスに渡り、現地の高校に入学。いらいイギリスが本拠です。
 これは絶対によかったと思う。読んでいると、イギリスの学校はとにかく一芸に秀でていればいい。藤倉さんの場合、英語ができなくとも、音楽ができたからそれでOK。で、高校に入ると、その才能を活かして高校のPR?をするわけですね。何かの時に曲を書いたり演奏したり。そういうことで「この高校にはこんな生徒がいる」という宣伝になるし、優遇されるんです。
 もちろん、これも才能があったから、なんですが、日本の学校に通っていたらとても無理。日本にいたらこれほど飛躍できなかったかも。

3 周囲にいる才能のある方達の描写が素晴らしい。
 学生時代から作曲コンクールに応募し、また憧れの作曲家に作品をおくって認められたりしてキャリアを築いていった藤倉さん。彼の師や、憧れの作曲家たちも一流で、そういう方達の描写も抜群に面白い。あったこともないのに、作品を送ったらいろんなところに紹介してくれたエトヴェシュ。目をかけ、指導してくれたブーレーズ。そういう伝説の人たちがいかに頭がいいか(一を聞いて十を知ると言いますが、100、二百を知る方達なんでしょう)。魅力があるか。坂本龍一さんなんかも、超忙しいのに藤倉さんと会う時はいくらでも時間がある、というふうに振る舞うらしい。多分誰に対してもそうなんでしょう。すごいことです。

4 「どうやって作曲家になるのか」がよくわかる。
 などなど。
 最高のそして絶妙の語り部が、なかなか知ることができない世界を教えてくれた一冊。ワクワクがいっぱいでした。


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