見出し画像

「献奏」

葬儀演奏歴20年のあずです。
みなさん、献奏(けんそう)という言葉はご存知ですか?

故人が好きだった音楽や故人との思い出の曲を葬儀式の中で演奏し故人に捧げることを献奏といいます。

葬儀で演奏することそのものを献奏と言う方もいらっしゃいますが、私はBGM演奏ではなく、演奏がメインになり音楽を通して故人を偲ぶ場面を献奏として定義しています。

音楽葬において献奏は必須の演出ですが、仏式や神葬祭といった式でも行います。ただ、特に好きだった曲がない場合には無理矢理献奏はしません。大切な曲があるからこそ献奏をする意味があるのです。

楽譜用直線ライン(のばして使う)

献奏の効果

思い出の曲を聴くことで悲しみの感情を涙とともに吐き出し、故人とのゆかりのある人たちと気持ちを共有できる時間になります。
この葬儀という場で泣くことに大きな意味があります。葬儀は悲しみをこらえるのではなく、しっかりと悲しむ儀式として取り組んでほしいのです。死という現実と向き合い、悲しみを受け止めることによって心の回復を早めることができるからです。
これはグリーフケアの第一歩と言われています。
※グリーフケア:身近な人死別を経験し悲嘆に暮れる人が、その悲しみから立ち直れるよう支援すること。
さらに気持ちを共有することで、悲しみが和らいだり、不安の解消にも効果があります。

楽譜用直線ライン(のばして使う)

献奏の場面はこんな感じ 

あらかじめご遺族からいただいたリクエスト曲の中から最も思い入れのある曲を選んでいただきます。

【献奏場面の一例】
葬儀司会者よりアナウンスが入ります。
「故人がこよなく愛した曲がございます。生演奏にて献奏したします。
○○様の在りし日のお姿を偲びいただきながらお聴き下さい。曲は○○。」

ここで式場の照明を薄暗くなるくらいに落とします。
そしていよいよ演奏。
一番緊張するところです。シーンとした中でたくさんの方が演奏に耳を傾けています。
音楽葬の場合はフルコーラス演奏したり、数曲メドレーにして演奏しますが、仏式の場合はあまり時間がとれないため(火葬場に向かう時間が迫ってきているため)なるべくコンパクトに曲をまとめます。

イントロ→Aメロ→Bメロ→サビ→エンディング
時間にして2分以内くらい。

淡々と演奏するのではなく、メリハリをつけて一つのドラマを作るように演奏します。曲の起承転結ですね。どれだけご遺族や参列者の心に響く演奏ができるのか演奏者の力量が問われるところ。

演奏がおわる頃には、すすり泣きがあちこちから聞こえてきます。

演奏がおわると照明が明るくなり献奏は終了です。明るくなる前に司会者が一言添えることもあります。

楽譜用直線ライン(のばして使う)

演奏者にとって献奏の難しさとは

①緊張に勝つこと
葬儀という厳かな雰囲気。しかも会場にいるすべての人が演奏に耳を傾けています。緊張に負けたらいい演奏になりません。
とにかくこの雰囲気に慣れることと、不安要素がなくなるくらい練習すること。これで大丈夫なはず。ただ次に挙げるようなこと(②)が起きたときは…。

②献奏が初見のこともある
ご遺族が急に思い出し「そういえばおじいちゃんってあの曲が好きだったかも!これを献奏でお願いします。」
だいたい↑このように言われるときは式が始まる直前が多い気がする…。
もちろん練習する時間はありません。読経中に譜読みをすることしかできません。運がよければ席を離れてYoutubeで曲を確認できるときもあります。
知っている曲なら多少は安心ですが、まったく聴いたことがない曲ですと緊張します。リクエストをされたご遺族は良く知っているんだろうな、と思うといい加減には弾けません。
このような状況になってくると曲に集中するあまり緊張することを忘れます(笑)

③曲の分析力・アレンジ力
楽譜通りに淡々と演奏していたら人の心には響きません。弾く曲を分析して、メリハリのついた音楽にしなくてはなりません。音の強弱、音の数、音域、おかずの入れ方などなど考えて演奏します。
※おかずとは:音を伸ばしているときに「合いの手」を入れること。

私の場合は、献奏のための練習時間のうち、実際にピアノを弾く時間は全体の3割ほど。7割は楽譜とにらめっこ。原曲を聴いて曲のポイントや盛り上がる部分、伴奏形、音色の使い方(電子ピアノが多いのでどのタイミングで音を切り替えるか)などひたすら考えています。方向性が決まってからピアノを弾いて音を確かめていきます。

画像4

献奏の反響

【ご遺族から】
・とても心に響きました。
・最後に思い出の曲を聴くことができてよかった。
・一緒に過ごした日を思い返せた。
・涙がとまらなかった。

【参列者から】
・さっきの音楽すごく良かった。
・私の身内の葬儀のときにも演奏してほしい。
 (実際、ご主人が亡くなっときご依頼いただきました)

【葬儀社のスタッフから】
・鳥肌がたった。
・心にグッとくるよね。
・演奏が入る高額プランにグレードアップになった。
 (献奏を聴いたことがある方に勧められて)

画像5

まとめ

音楽には記憶を呼び起こす効果があります。
カラオケでよく歌っていた、青春時代によく聴いていたなど思い出の曲を聴くと一瞬でそのときの記憶が蘇ります。音楽療法でも使う手法ですが葬儀にも効果があります。

音楽を通して悲しみの気持ちや故人との思い出をたくさんの人と共有する。共感こそが遺族の心を救います。

このように音楽は目に見えませんが人の心にとても影響を与えています

私は音楽の力を最大限生かした使い方をこれからも発信していきます。

障害を持ったお子さんや介護施設で暮らす高齢者の方々への音楽提供活動費に使わせていただきます。たくさんの方の笑顔のために。お気持ちいただければ嬉しいです。