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4-3 労働ごっこ

眠眠スネークの東京サバイバル
2024年4月15日~21日






 15月曜、起きてチェックアウトする。勿論有休。飲み会や旅の予定を入れては翌日を休みにし始めたがこんなペースではとてもじゃないが消化しきれない。もっと休む勇気を持たないと。
 良い天気。夏日で暑い。地元の名物小山うどんを食べたがサイドメニューのなまずの天ぷらがふわっふわで美味しかった。

 前回もお邪魔した酒屋で門外不出を買って帰る。そこまで甘くなくキレがあり食事にもよく合う洗練された地酒という印象。全国どこでも出回ってる鳳凰美田よりこちらの方がレアやしお土産には良いわ。

 昼過ぎには東京戻り昼寝する。夜はアベマで久々にベイビーわるきゅーれを見た。やはり髙石あかりが良い。アダムスファミリーみたいな顔してるけど売れてるよね多分もうこの人。ベイビーわるきゅーれは今年連ドラ化もするとのことで活躍期待してます。あと彼女達の部屋の本棚にハンターハンターあったわ。またブルーロックをだらだら見てから寝た。




 16火曜、夕方テレワークを終え歯の治療7回目へ行く。前回の虫歯治療で仮埋めされていたところに銀歯が入った。が、懸念していた通り痛みは消えず。この歯医者への不信感も消えることなく最早大炎上や。

 僕は決して感情的にはならないが納得するまで引き下がる気はない。先生曰く「虫歯治療で神経近くまで掘ったので熱伝導率のいい銀歯では冷たいものがしみることはある」とのこと。数カ月経てば慣れてくるのでしばらく我慢するしかないと言う。ふざけるな。
「今ビール飲むのが全く楽しくないんですよ、こんなことなら虫歯治療なんて頼むんじゃなかったと思ってます」と言うと隣にいた院長先生も見兼ねて割り込み「自分も何十年も昔に治療した虫歯が未だにしみるんだよ、よくあることなんだよな。ビールはのどごし!流し込むしかないのさ、ハハハ」と笑ってきたが、なんのフォローにもなってなかった。その地獄を僕にも味わえと言うのか。間違ってる。

 差し歯の噛み合わせも未だ違和感あり再度調整してもらったが、もう完全に面倒臭い患者になっちゃったな。でも自分の体に関することで神経質になるのは当然のこと。妥協も泣き寝入りも絶対したくない。僕が人より細かすぎるのは認めるが、それでもそれが何十万も払ってる客に対する態度かね。誠意が感じられなかった。客と諭吉に対しての感謝の気持ちが感じられないのよ。

 皆当たり前のように仕事をして、当たり前のようにお金を受け取り、当たり前のようにごはん食べてるがそれは決して当たり前のことではない。たまたまひとつのレールに乗っかりたまたまここまでやってこられただけでそれはサバイブとは違う。困窮し絶望しサバイブするという経験を経てからでないと現代人は感謝する気持ちが芽生えないのかね。僕にはよくわからないよ。

 夜は先日の先輩に誘われ雀荘へ。おにぎり食べてもお茶を飲んでも歯が痛いのでいちいち気が滅入る。泣きたくなるよ。
 この日の戦績はトップ1回3着3回で結果プラスマイナスゼロ。よく耐えた方。ただ他家に国士を上がられたのでその祝儀分だけマイナスやった。僕のハイライトはホンイツトイトイ役ドラ3の倍満が一回のみ。切るスピードが早いメンツで心地良かったがそれでもたった4半荘じゃ物足りないな。コンビニで缶酒買って帰り晩酌してから2時に寝た。




 17水曜、間もなく無職になるということで日雇いアプリのタイミーを使ってこの日バイトをする、午後の半日だけやけど。バイトするなんて勿論17年ぶり。うちから徒歩十分ほどの近所にある、とある企業の社員食堂でなんと『食堂のおばちゃん』をやってきたよ。
 20年前と違い僕ももう舐めたガキじゃないのである程度の常識はあるつもり。いつか居酒屋をやりたいと思ってる僕としてはキッチンスタッフにも興味があったし、幸運にも優しい社員さんとすぐに打ち解けることが出来た。焼鳥屋のバイトがキツくて一瞬で辞めた大学時代とは知識も経験も心構えも違うのよ。

 この日のタイミースタッフは僕の他に女の子が一人。見た目は芸人のゆりやんやった。「僕タイミー自体が今日初めてなんで色々教えてください」と挨拶したがリアクション薄く、コミュニケーションが極端に苦手そう。日雇いバイトのメンツってこんなんやったよなと二十年前の記憶が甦った。西村賢太の世界。
 しかもゆりやんちょっと遅刻してきたんやから先輩流石やで。さらに前回使った毛髪落下防止の衛生キャップを家に持ち帰り捨ててしまったという。するとさっきまで僕に超優しかった社員さんが急にブチギレたんやから切な過ぎた。「あれは今度も持ってきてねって言ったよね!?」と。
 なんやねんこの世界は。どう考えてもゆりやんが悪いぞ。何してんねん。しかもはっきりと謝らない。いや、謝れないんや。自分ですらもうどうしたらいいのかわからない模様。

 うちだって最近入ってきた新人達はたまたま優秀なので可愛いがってるがどうしようもないクズなら僕もキレてまうやろう。教育するのも仕事とはいえ限度がある。でもキレるのもそれはそれでしんどいよね。
 うちの会社はまだ人事部門が機能しているので明らかにヤバイ奴はふるいにかけられ落とされるが、タイミーは検便さえ通過すれば誰でもここで働ける。しかも毎日違う奴がやってくるんやから社員さんの苦労を考えると地獄や。そりゃキレ癖も付いてしまう。とてもじゃないが健全とは言い難い。でもそれがアルバイト雇用という世界なのかといきなりから考えさせられてしまった。

 改めて気合いを入れこの日の夕食150人分の定食を準備していった。まず僕とゆりやんは小鉢を盛り付けていく。電子ばかりを使ってゴボウサラダを80gずつ取り分ける。VIVANTの堺さんになった気分。ビニール手袋をしてひと掴みで80gとなるように全神経を指先に集中させた。これは楽しい。
 僕も後輩達によく言ってるが『仕事はスピード』なので正確さを保ちながら効率よく動けるように頭をフル回転させた。ゆりやんに負けるわけにはいかない。これは二人の戦いやった。

 ひとつ気になったのは80gずつ150個の小鉢に取り分けたとしてこのゴボウサラダは果たして余るのかということ。150人分ぴったりの分量で作られていたとするなら気を付けないと足りなくなってしまう。でも常識的に考えてちょっと多めに作ってるよな多分。となると今度は余らせていいのかどうかという疑問が生まれる。できれば逐一確認したかったが今ですら辟易としている社員さんに余計な質問はしたくなかった。考えろ。自分で考えるしかない。
 例えば想定より客が増え151人目が来た場合のことや、皿ごと落としてしまって交換が必要になるとか、様々なケースを鑑みると絶対余らせておいた方がいい。使い切らなくて良かったというパターンの方がどう考えても多い気がした。余ったら賄いで食べるとか、持って帰っていいよとかそういう嬉しいケースだってあるやろう。使い切るより余らせた方が良い。僕はそう判断したよ。結果特に操作した訳じゃないが案の定5人分ほど余ったわ。

「終わりました!」と胸を張ってゴールテープを駆け抜ける。これが模範解答ですよねと言わんばかりに少々余ったことを社員さんに伝えた。すると二人いた社員さんのうちここまで一切話し掛けてこなかったお姉さんがずいずいやってきてその余ったゴボウサラダを思いっきりゴミ箱に投げ入れたんや。

「余らせないように調整するんだよ!!!!!」

「えーーー、、、」

 怒られた。捨てられた。間違ってたというのかこの僕が。
 難しいな。まさかこの時点で捨てるという選択肢があるなんて想定してなかったぞ。であるならひとこと「余っても捨てるだけだから150ぴったりになるように盛り切ってくれればいいから」と何故最初に言わなかった。アルバイトむず過ぎる。信頼関係がないのでルール説明すらままならない。何をやっても裏目の可能性がある。ただこのお姉さんを鬼教官たらしめたのも確実にタイミーなんやろうな。そう思うと哀れやった。

 社員さん同士で話してる会話を聞く分には二人とも全うで良い人に思える。優しい男性の方はM瀬さん、怖いお姉さんの方は僕と同世代か。二人ともキッチンのプロで慣れた手つきで調理しているのは楽しそうやった。タイミースタッフという異分子さえいなければ何のストレスもないんやろう。

 お姉さんも最初は怖かったが僕の「あなたと戦うつもりはない」という必死のアピールが所作から伝わり意思疎通でき出したと思う。小鉢の盛り付けのあとは冷凍の鮭を鉄板の上に100枚ほど並べた。確かにこんな機械的な作業は調理師じゃなくバイトにやらせるべきやな。こういう作業なら僕は永遠に出来るので普通に楽しかった。ただ残念なことにゆりやんはどうしようもなかったね。
「そんなペースじゃ営業時間に間に合わないよ」とどやされるもろくに返事もしない。ゆりやんのいないところで社員二人も「あの子ヤバい」とぼやきが止まらなかった。

 結局ゆりやんは洗い場に回される。追いやられたと言うべきか。食洗器の熱気がむんむんでとてもキツそうやった。本来なら初回かつ男である僕がそちらに充てられて然るべきやったがこうもあっさり格差が生まれるなんて彼女は納得できるのか。どう考えても体力的にキツいのに時給は同じなんやで。そう思うとこちらはラッキーやったが、そんなゆりやんと同じ奴隷賃金で僕は今一体何してるんやろうとふと我に返りそうにもなった。まさしく日雇いバイトとは奴隷である。人権なんてないよ。双方それを合意の上で契約してるんやもんな。

 そうこうしているうちに営業時間になる。ぞろぞろと社員さん達が行列を作り出す。お盆に味噌汁、ごはん、小鉢、メイン皿と取っていくのはうちの社員食堂と同じシステムやった。そして僕はなんとメイン皿にチキンソテーを盛り付けトマトソースをかけ手渡していくという大役を任された。まさかいきなり接客させられるとは思ってなかったよ。「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」と必死で店員の役を演じるも慣れないし、舌が回らない。どう頑張っても「あざっしたー」になってしまう自分の口に驚いた。
 利用客は若い社員が多かったが見知らぬ僕に向かって笑顔で「ありがとうございます」「いただきます」と言ってくれる子が沢山いて嬉しくなったよ。僕も食堂のおばちゃん達にこれまで優しく愛想良くしてきて良かった。一人の笑顔で救われる命があるんや。

 通して4時間の労働が終了。接客は慣れてないので勿論テンパったが体力的にしんどかったのは後片付けのラスト1時間か。少々立ち眩みしそうになったもん。これぞ労働や。汗まみれ。
 結局150食も出ず10セット以上余ってたと思う。まさかと思ったが残り物は全て廃棄に回された。あつあつほかほか炊き立ての白ごはんが大量にゴミ箱に捨てられる光景は直視できなかったな。心が痛い。飲食店の裏側を初めて目の当たりにした。うちの食堂でも毎日廃棄はあったんやろう。自分が知らなかっただけや。それでもやはり理解に苦しむね感情的に。廃棄による衛生上のメリットとは。判りそうで判らない。せっかく作ったんやからキッチンスタッフで食べようよ。賄いに期待してこの仕事を選んだが、残念やった。

 定食の準備をしていた時は楽しかったがそれ以外は辛かったよ。心も体も大いに疲れた。怖い社員さんの顔色を窺い気を遣うのが何よりストレスやった。4時間働いて6500円ゲット也。これが高いのか安いのか、何が適正賃金なのかもうよくわからないよ。今やってるサラリーマンの給料だって同じ。専門的な仕事になればなるほど価値が高まるのはわかるが、今日の仕事が誰でも出来る楽勝な作業とも思わない。
 ゆりやんも何か言ってやれ、と帰り際雑談したが「ほんとタイミーって楽しいですよね」という発言には驚いた。あれだけクソミソに扱われて負の感情がないのか。意味わからんほど潔いよ。ハート強すぎるって。仕事終わりの彼女の笑顔が痛い程眩しかった。

 帰宅ししばらく動けず。立ち仕事って大変ね。みんなすげーよ。お腹減り過ぎてるので一服してから立ち上がる。労働するとこんなにもビールが飲みたくなること久々に思い出した。近所の天ぷら居酒屋へ行き一番搾りで乾杯。うま過ぎた。
 僕はいつまでこんなカイジみたいなことを繰り返し続けるんやろうな。誰かに雇われてる以上この蟻地獄からは抜け出せない。天ぷらで3杯飲み3920円也。バイト代はすぐに消える。汗水垂らせば垂らすほどその報酬はビールに消えるという不思議なシステム。よく出来てるよ。

キンキンに冷えてやがる
犯罪的






 18木曜、夢の中で京都の幼馴染メンバー達に色々と説教される。ほっといてくれとその時は思ったがわざわざ夢の中まで忠告有難う。

 情けないことに全身が筋肉痛や。この日はいつも通りテレワーク。
 この今の仕事を時給換算すると大体2500~3000円くらいか。M瀬さんならさらに倍近くあるのかな。僕にとっちゃあ昨日の作業の方が何億倍も辛かったのでそれと比べると今の仕事がやたらボロく思える。ただ、今の給料が不満で仕事を辞める僕って果たして一体いくら欲しいのか。お金のことを考えるとくらくらするよ。別に僕は高給を望んでいるわけじゃない。自分より能力が低い人達に自分を評価されたくない、そんな会社に雇われていたくないという我がままよ。ギャンブルは好きでもお金が好きというわけでは決してない、と自分では思ってる。

 この日の夜もまた同僚達と麻雀へ。切るのが遅すぎるメンバーがいて平常心保てなかったな。初心者でもないのに一打目から何をそんなに考えることがあるのか、Mリーガーじゃあるまいし。
 トップ1回ラス1回でまたプラスマイナスゼロ。たった2半荘じゃ切な過ぎる。缶酒買って帰り0時から晩酌した。

 歯が入り体が元気になった証でもあるが、飲みに旅行に麻雀にタイミーにと課外活動が増え眠眠書く時間が全くない。全ては眠眠に昇華させるための活動なのにこれじゃあ本末転倒や。





 19金曜、麻雀の翌日なのでという訳の分からない理由で有休にしていたがM瀬さんを一人にさせておけない打ち合わせが入り僕も急遽参戦することに。
 自分しか知らない知識、自分しか判らない領域があると大勢の大人達にマウント取れるのでビジネスが楽になるよ。大したことじゃなくてもいい。手っ取り早く自分にキャラクターを付けそれを磨き続けるというのは仕事をする上で大切なことである。あまりやり過ぎると引き継ぎが大変になるけどね。

 昼過ぎに仕事を終える。シャワー浴びちょっと横になったが眠れず。18時半には後輩の星矢と待ち合わせて雪が谷で飲む。この半年でやたらと一気に仲良くなった。年は近いがうちに来て確かまだ1年程やったか。音楽や映画の話が出来るのが仲良くなった大きな理由と僕は思ってるよ。眠眠を楽しく読んでくれてる時点でやっぱりちょっと変わってるよね。この長文が半分冗談であるということをちゃんと理解してくれる貴重な存在である。
 もう二度と口外することはないと思う悩み事をこの日星矢に打ち明けた。誰かに言いたかったのよ、スッキリ。一軒目、生ビールがやたらと美味い店で二人でつるつる飲んだ。その後別の飲み会終わりのニュートンも合流し焼鳥屋へ移動する。そこで完全に出来上がった三人は記憶を捨てダーツバーへ。昔取った杵柄でダーツ楽しかったな。3時に眠くなり解散した。






 20土曜、昨夜酔っ払って帰宅し、何を思ったか外した枕カバーを頭から被り「この服着れないよ!どうして!」ともがいたこと思い出しゾッとした。本気で枕カバーを服と勘違いしてた。朝、床に落ちてる枕カバーを見つめ、あれは夢じゃなかったんだと落胆した。

 競馬もせずに夕方までだらだら寝続ける。夜はニコちゃんに誘われて長原の海鮮屋でしっぽり飲んだ。鯛の白子はぷりぷり、鯵のなめろうは青唐入りでぴりぴり。旨かった楽しかった。2日連続ホッピーに癒された。

 しかしたった一回のバイト代なんてなんの足しにもならないな。皆僕が間もなく無職になることを忘れてないか。もうお金ないよ。1円もない。アベマで怪獣8号のアニメを見て3時半に寝た。






 21日曜、適当に馬券買って2万4000円負けた。もうお金ないよ。1円もない。

 コンビーフ塩焼きそばを作った。ちくわに岩下の新生姜突き刺してつまみにした。美味かった。

 G1お休みの週なのでのんびり。人生初の入院がついに近付いてきてる。どうしよう。
 医療ミスで死んでしまうかもしれないので思い残すことがないように沢山お酒を飲んでおこうと思う。





ニューコンミート塩焼きそば









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