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「House of Hammer」を観て①「BONES AND ALL」との関連を考える

前記事の「Bones and All」映画感想文において、そのテーマであるカニバリズムを語る上で、ルカ・グァダニーノ監督&ティモシー・シャラメと「君の名前で僕を呼んで」で関わりの深いアーミー・ハマーのことを考えずにはいられませんでした。

アーミー・ハマーは2021年、カニバリズムDMとレイプ疑惑スキャンダルで一気にハリウッドから干されました。

この”カニバリズム”映画が製作される過程で、彼のスキャンダルは何かしらの影響を与えていたのか?

その関連を考えるにあたって、まずはそのスキャンダルのことを知らないと始まらないと思い、昨年9月に放送されたドキュメンタリー番組
「House of Hammer」
を観てみました。

ということで、今回はアーミーのスキャンダルについてザッと時系列を追い、映画「BONES AND ALL」製作にどういった意味があったのか?勝手な想像ですが考えてみたいと思います。



アーミー・ハマーのスキャンダルの流れ

Discovery+で製作されたアーミー・ハマーとその家族に関するドキュメンタリー「House of Hammer」。各回約1時間の3回シリーズ。

その第1回がアーミーのスキャンダルに関することをメインに語られます。
(第2話がハマー家の系譜を遡り、歴代男性の残虐性に彩られた歴史を紹介。第3話は2話の続きからアーミーの話に戻って、セカンドレイプやキャンセルカルチャーについてなどに波及していく)

第1話は主にアーミーの3人の犠牲者が登場し、どういう手口で彼と知り合い、会うことになり、性被害に至るかが当事者の口から語られる。

カメラに向かって話す形式。リアリティ・ショーで出演者がカメラに語る時のような。

最初に出てくるのは、

Courtney Vucekovich コートニー・ヴチェコヴィチ

テキサス、ダラス在住の女性。30歳。
美容関係のアプリを運営している実業家。
(美容関係といっても化粧品の開発、販売とかではなく、着飾った自分の画像をアップするアプリっぽい。着飾って写真上げてるインスタグラマーと変わらない感じかと)

この第1回目では、彼女が自分とアーミーとの関係を時系列に沿って語る部分が半分以上を占めている。
彼女とアーミーとの関係を時系列で書いていくと…

2019年11月or12月
ダラスのバーで出会う。最初は誰か知らなかった。友達に映画「ソーシャル・ネットワーク」に出ていた人と教えられる。
翌日アーミーからインスタ申請メールが来る。

2020年3月 コロナ ロックダウン
メッセージのやり取りが頻繁になる(←コロナで暇になったから?)
とにかく褒めまくってくる。悩みを話したり弱みを見せ合って絆を強めることに(←まさしくグルーミング(手なづけ)の期間)
同時にSM的なことに興味があることも示唆したり、バーベキューにして君のアバラを食べたいなどのジョークともつかないメッセージも来る。
しかし彼に妻子がいることを知り躊躇。妻とは2年間別居していると言われる。

7月 アーミー妻と別居報道(←これで彼が言っていたことが真実だと思う)
コートニーが不在時にダラスの彼女の会社を訪れメモを残していく。「君にかぶりつきたい」と。今思うと気味悪いが、この時は何かのメタファーでロマンチックだと思った。

8月 誘われてLAに会いに行く。
LAから移動して砂漠のリゾートで二人きりの時間を過ごす。
(番組内で再訪して、あそこでご飯を食べたとか、バイクに乗ったとか、スターと過ごした自分の自慢話を写真と一緒に紹介してる感じでちょっと違和感)
1日目 夜は普通に「E.T.」なんかを観る。
2日目 ホームセンターに行きロープを探しだしたアーミー。幸い売り切れ。
夜にマギー・ギレンホール主演のThe secretaryを観ようという。
(秘書がボスによって支配と従属のSM的関係にされて行く映画)

その後、言いたくない”何か”をされた。
傷心でダラスに帰る。

(性被害に遭ったかもしれない女性に言うとセカンド・レイプになるようで申し訳ないんだけど、この場面でちょっと昂って何度も目の下を拭う仕草(しかし殆ど涙は見えない)。そもそも最初からメイクバッチリ、カメラ慣れ、話も流暢、芝居じみていて素人さんって感じは無い。それでここまで引っ張って、一番の核心部分を話さずに「録画止めて!」となり、上手くはぐらかされた感、いや彼女がどうこうよりも番組制作側に上手いこと振り回されてる感が凄かった…。それと如何にアーミーが悪人で恐ろしい人間であるかを、かなり盛って話しているようにも感じる演出、構成なのも確か。淡々と事実を述べるドキュメンタリーというよりはTVショーという感じ)

その後、アーミーが別の女性の腰に手を当てて歩く写真がスクープされる。

9月 別れ話をするために再びLAを訪れる。(”小さなプールの家”となぜか強調して)彼に会って別れたと。
翌日、友達とLAを散歩中にアーミーが偶然を装ってスクーターで現れる。
これをまたロマンティックだと思う。(←いやアカンやろ!ってツッコミ入れたかったw)

二人でセドナに行くことに。アーミー、今度はカバンに入ったロープ持参。
モーテル滞在。アーミー、酒を飲んで少し酔っぱらう。
ロープはマネキンだけ。人にはしたことない(君が初めて)と言われる。
NO以外(拒否の言葉)は言ったが、「NO」とだけは言わなかった。(←それがストップするサインならちゃんと言わないと!)
ロープで縛られた(←どこをどうとか具体的なことはわりと濁した感じで言及)
終わるまで 動けない 首に跡が残った
したくないことをさせられた。(←結局具体的な内容はちっともわからない)屈辱的な気分にさせられた。

3日後 母親に会わせてくれた(←こんなにも愛してると懐柔するため?)
2日後 しかし結局別れた。

そのうち何か問題が起こると思っていた…と。

*****

Julia Morrison ジュリア・モリソン

ニューヨーク在住。アーティスト兼ライター。

彼女も自分の作品ということで、少し際どい写真をインスタに上げていた。
アーミーからメッセージが来る。首に手を掛けられている写真が好きだと言ってくる。
そこから6ヶ月ほどSNSでのやり取りをする。

グルーミングの時期を経て、どんどん過激に。
SHIBARIやKINBAKU(縛り 緊縛)という日本のSM、ロープワークがあると紹介してくる。実際にロープの束の写真を送って来る。
パブリックスペースで放置プレイして、見知らぬ男たちにされるがままにしてみたいというファンタジーを語ってくる。

アーミーがニューヨーク滞在時に会いに来るように言われたが、彼に妻子がいることを知り、「こういうことをしている相手は私だけじゃないんだろうな」と思い、そこで関係を切った。

彼女はメッセージのやり取りだけで、SM行為等には至ってない模様。

*****
そして年が明けて2021年。

2021年1月12日
大量のDMがリークされる。

@houseofeffie ハウス・オブ・エフィー

という人物とアーミーとのやりとり。

I need to eat your entire body.
I am 100% Cannibal.
生きた動物の心臓を温かいまま食べたことがある。
君をナイフで脅しながらレイプした。これ以上のものはない。

などなど。SNSで一気に広がったが当初は信用されなかった。

2021年1月13日 アーミー反論 ”バカバカしい”

しかしここから最初に出てきたコートニーのところに質問が来る。
(彼女がアーミーと交際していたのは世間に知られていたから)
噂のDMの文章はアーミーのものか?と
そこで”Kitten=子ネコちゃん”と頻繁に使われていたり、文章のクセ、内容はアーミーそのものだと認定。それがさらに広まって一気に有名人に。

そこからその他の被害女性が出て来たり、
過去のインタビュー等でのSM等への関心を表す発言を掘り起こされたり、
SM、緊縛のアカウントをフォローしていることがわかったり、
裏付け作業が繰り広げられる。

撮影予定だった作品から降板、出演白紙などが相次ぐ。

*この時期1月28日「Bones and All」にルカ・グァダニーノとティモシー・シャラメが制作に関わると発表される。

2021年2月 事務所に契約切られ、代理人にも辞められる。

2021年3月 @houseofeffieことEfrosina Angelovaエフロジナ・アンジェロヴァがアーミー・ハマーにレイプされたという顔出し告発動画を上げる。

彼女はヨーロッパ在住の24歳。2016~2020年まで交際していた。(もちろんアーミーは既婚時。たぶんCMBYNの撮影でヨーロッパ滞在時と被ってる?)

告発内容は
2017年4月24日 LAで 4時間レイプされた。
何度も壁に頭をぶつけられた。
同意してない。逃げようとした。
後日、君はチャンピオンの様に全てのことを受け入れたとメッセージ。

セクハラ、性被害者専門の有名女性弁護士Gloria Allredが彼女の代理人になる。

警察によるレイプ捜査開始。

アーミーは性加害者専門の有名男性弁護士を雇う。

*結局証拠不十分で起訴はされなかった。

番組終盤にCasey Hammerケイシー・ハマーが登場。アーミーの叔母
彼女が2015年に書いていたハマー家の暴露本に注目した人物が、TikTokで目をひん剥いてセンセーショナルにハマー家の黒い秘密を拡散。
これが再び火に薪をくべる形で話題になって行く。

シリーズ第2回目は、そんなハマー・ファミリーの歴史、代々受け継がれた残虐性について語られていく…

という感じが第1回目の内容でした。


ーここは番組内容外ー
Angelovaの弁護士グロリアも途中で代理人を辞任。Angelovaが偽証しないという宣誓書へのサインを拒否したから。一方、グロリアがこのドキュメンタリーに相談もなく出演することを知り、裏切りだと感じて解雇したとAngelovaは主張。
(なんだかこの辺りからAngelovaの信ぴょう性が怪しくなってくる)

不起訴になってからもAngelovaは再び話題を提供。
告発前にハマーの元妻からアクセスがあったと暴露。子供の全親権を取りたいからと(←それでアーミーの信用失墜を裏で操作していた?)。

もう誰を信用していいのか分からない泥沼の様相を呈してきた(;^_^A)
ーーーーーーーーーーー

一方アーミーは、
2021年5月
薬物、アルコール、セックス問題の治療リハビリセンターに入所。
2021年12月 センター退所。

そして今年になってアーミーのインタビューが公開。

そこではこんなことが語られる。
13歳の時に若い牧師から性的虐待を受けた。
その性に関する状況に対して無力だった自分→強くコントロールしたい願望が生まれた→BDSMでの支配者側への関心が強まったと告白。

2021年2月
ケイマン諸島(家がある。離婚した家族も住んでいる)のビーチで水死、ボート事故、サメに襲われる、何でもいいから死にたいと思い沖に泳いでいった。子供のことを考えて思いとどまった。

自分のことは、自分勝手でバカな人間だったと反省する発言もしている。
薬物依存から立ち直りハリウッドで返り咲いたロバート・ダウニーJrの助けも得ているという話も。


「Bones and All」とアーミー・ハマーとの関連は?

ということで非常に興味深いというか別の感想もいっぱいあるのですが、それはまた別に書くとして、今回はカニバリズム映画「Bones and All」との関連にだけ注目して考えたいと思います。

グァダニーノ監督は、以下の記事を読むと映画とアーミーとの関連はないと断言しています。

上記の記事からグァダニーノ監督の発言を抜粋↓

「David Kajganich と Theresa Park、脚本家とプロデューサーの2人がこのプロジェクトに取り組み始めたのが、原作本が出版された2015年。何年も前のこと、たぶん「君の名前で僕を呼んで」を撮影していた頃だ」

「そもそも私のすばらしい同胞であるAntonio Camposが監督するはずだった。しかし彼がしないことになったので、私に脚本が回ってきたんだ。だからこの映画と彼のスキャンダルとを関連付けるのは全くバカげたことだよ」

そして脚本家のDavid Kajganich(グァダニーノ作品の常連)の話もコチラに載っている。

彼が最初に原作を読んだ時にグァダニーノのことを思い浮かべたが、その時彼は忙しくて監督はムリだった。それでAntonio Campos監督と話を進めていたが結局彼が降板。そして少しは可能性があるかもと、ダメ元でグァダニーノに脚本を送った「是非読んで欲しい。何かしら君の心に刺さるものがあるからよく考えて欲しい」と添えて。

アーミー・ハマーのスキャンダルの何年も前からプロジェクトが始まっていたことが強調されています。

しかしこの映画の時系列はこんな感じ。

2015年 Camille DeAngelis 原作本出版
2019/04/08 David Kajganichが脚本を担当し、Antonio Camposが監督することを発表

2021/01/28 テイラー・ラッセル&ティモシー・シャラメが主演、ルカ・グァダニーノが監督を務めることが発表。シャラメがプロデューサーになる。*ここでグァダニーノ&シャラメが大きく関わってきている。
2021/05 撮影開始
2021/07 撮影終了

2022/09/02 ベネツィア映画祭で初公開 銀獅子賞受賞
2022/11 アメリカで上映開始

グアダニーノ&シャラメが大きく関わると発表されたのが2021年1月末
映画撮影期間は、アーミーが捜査&裁判、リハビリ施設に入っていた頃。

特に1月末というのは、12日から始まったアーミー・ハマーのスキャンダルが最も話題になっていたド真ん中の時期だったわけです。

もちろん元々この映画のプロジェクトは進んでいたとは思う。しかしこの時期に監督とシャラメが作ることを決意したのは何かしらの考えがあり、逆にこの問題について一切想いを巡らせなかったという方が無理があるのでは?エンタメに関わっていたら嫌でも耳に入ってくるだろうし。

たまたま時期が重なったとしても、普通ならもう少し経過を見てみるとか、映画への影響も考えて時期をずらすとかしてもイイはず。#Me too以降、その辺りには非常に敏感になっているはずでしょうし。しかしそこを敢えてこの時期に積極的に動いているように見えるのは偶然なのだろうか?1月に製作を発表し、半年後には撮影まで終わらせてるのは映画業界では結構早い方だと思う。

その意図を想像すると、”カニバリズム”というものを究極の愛の形と表現してみせて、そのおぞましいという概念を変化させたかったとか。アーミーのカニバリズム表現もただの比喩表現であると矮小化を図りたかったとか。

直接的にアーミーを擁護するのは非常に危険。性虐待を容認する人間だと思われたら二人とも今後のキャリアに支障が出る。なのでこういう形で、関わりは無いと主張しながらもアーミーを援護しようとした可能性もあるのではないだろうか?

あとキャンセル・カルチャーへの危惧もあったのかもしれない。
このスキャンダルによってアーミーは仕事を全て失った。
日本でも事件を起こした芸能人の過去作品を自粛して放送されなくなったりする。存在をなかったことにするキャンセル・カルチャー。

監督もシャラメも、あれだけ評価が高かった「君の名前で僕を呼んで」がこのスキャンダルでキャンセルされるのは悔しいはず。そしてその才能を認めた仲間であるアーミー・ハマーの存在が消されることも映画界の損失だと思ったのかもしれない。なのでこのキャンセル・カルチャーへの挑戦として「Bones and all」を作ろうと決意したのかも。

敢えて”カニバリズム”を扱って議論を呼び起こす。そしてそこから想起されるアーミーのスキャンダルとそこにある問題点。グルーミングや性虐待、そういう問題を批判して切り捨てるだけでなく、そこから議論をし、予防策を講じることなど認知を広げ、多くの人が考えることが大事なんだというキッカケを映画という形で提示したかった…という裏テーマもあったのでは?

しかし「House of Hammer」の第3話ではこのキャンセル・カルチャーについても言及される。

アーミーがリハビリ施設を出た翌年の22年、すぐに新たな映画「ナイルに死す」に出演。
復活したことがPRで印象付けられている、再ブランディングだと。
いままでハマー家の先人たちがしてきたように、金と権力で印象操作をしているのだと。

そしてキャンセル・カルチャーはそもそもレイプ・カルチャーが無ければ起こらない問題だと指摘する。レイプ・カルチャーのほうがもっと大きい問題であると。

その他、この告発した女性たちへのセカンドレイプにも言及したりと、いろいろな問題を提示している番組でありました。

アーミー・ハマーの問題ではどうしても”カニバリズム”や過激な内容に注目が行きがちですが、本質は彼の捕食者としての手口、過程にあると思うので、その話はまた別記事で書きたいと思います。↓

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