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苔生す残照

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卒業記念に描いたものです。
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2018年5月の記事一覧

《苔生す残照⑿》

《苔生す残照⑿》

「さっき話したあの写真、裏の詞はね、はじめは、私は朱音を思って書いたんだ。朱音の天下が続きますようにって。あの頃の朱音は私にとっては憧れの的みたいな感じだったから」
「天下って」
「だってあの頃は、みんな朱音に夢中だった」
「それは言いすぎじゃない? 俺はそうとは感じなかったけど」
「どうだか。あの頃は、あの小さな教室が私たちの全部だった。朝登校して下校するまで、どれだけの時間をあの校舎で過ごした

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《苔生す残照⑾》

《苔生す残照⑾》

「そういえば、懐かしいものを見つけたんだけど。ちょっと見てくれないか」
 朱音は不思議そうに頷いてから、梯子を降りはじめた。腕まくりをした手で、肩にかけてあったタオルをとり滲んだ汗を拭う。
 降りてきた朱音に写真を手渡すと、彼女は目を細めそれを凝視した。
「門馬さんってどこに映ってんの。面影だけじゃ、雰囲気違うからわからない」
「これ」
 指でさしたのは門馬朱音の隣に立つ薄い笑みを浮かべた少女だっ

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《苔生す残照⑽》

《苔生す残照⑽》

 ある日の放課後、大司と共に秘密基地に向かった。
 その後、板をつぎはぎにした小屋の中でカードゲームをしたり漫画を読んで時間を潰してから、夕暮れごろには帰った。その時、偶然次の日の宿題で必要なものを忘れたことに気付いて、大司と別れて教室に向かった。生徒がみな帰った校舎は人気がなく不気味だったから、駆ける足はいつも以上に急いだ。窓枠の影が濃くなるにつれて、長い廊下が果てしないように思えた。
 教室に

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《苔生す残照⑼》

《苔生す残照⑼》

 いったい誰が、という疑問もよぎったが、おおかた話しを振った大司だろうと見当づける。そのおかげで掘り返すことには苦労はなかった。トランクに入れておいた園芸用のスコップで数分もしないうちに菓子の空き缶を掘り当てた。土を払ってそれを開ければ、その中には意外なものが入っていた。粉々になっている白い一輪ざしの花瓶と、くしゃりと握りつぶされたような手紙だった。
 手紙にはこう書かれていた。

 加絵へ
 お

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