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あなたのグラスを割らなくするために

短いnoteを書きたかったのでこのテーマで。

まず、結論から言いますと「グラスは割れます」。

僕も先々月はスパークリンググラスを、先月はロックグラスを自宅で割りました。パートナーが買ったものだったのでその報告をしたのですが、その返事の悲しそうなこと。辛いです。

栄枯盛衰生者必滅、形あるものはいつか壊れる、有形のグラスはいつか割れるものなのです。割れたグラスはそうなる運命だったのです。あきらめましょう。

ならこのnote意味ないじゃん、と思われるかもしれません。はい、まあそうなんですけれど、もう少しだけ僕の話を聞いてください。

レストランで勤務していた7年間、たくさんのグラスを割ってきました。

2000~3000円くらいするブルゴーニュグラスを指にひっかけ棚から落とし、拭きあげた後のボルドーグラスを布巾でひっぱって落とし(しまいには足で受け止めようとして蹴飛ばし)、営業中に一気にグラスを片付けようと持ちすぎたところ一番小さなグラッパグラスが手からすり抜けていきました。

バーではシンクに置いてあったロックグラスの上にタンブラーの底を当ててしまいグラスの口をチップさせてしまったこともあります。

なので“ガラスのハート”だった僕も今ではもうそれくらいじゃ動揺しません。割れたグラスの片付けなんて慣れたものですよ。任せてください。

……あ、ごめんなさい。そろそろ真面目に話します。

今まで僕はたくさんのグラスを割ってきましたが、とはいえグラスを割る量というのは勤務経験が長くなるにつれ少なくなっていくわけですし、実は経験が長くなると、グラスが割れそうだ、というのまで察知できるようになっていきます。

実はこれを応用するとコミュニケーションにも応用できるので、最後はそのあたりにも触れておきます。ちょっとおつきあいください。では、どうぞ。

1脚のグラスが割れたとき、実は300脚のグラスが割れていたかもしれない話

「ハインリッヒの法則」ってご存知ですか。もしかしたらある程度の年齢の方は「ヒヤリハット」の名前の方を聞いたことがあるかもしれません。

“一件の大きな事故・災害の裏には、29件の軽微な事故・災害、そして300件のヒヤリ・ハット(事故には至らなかったもののヒヤリとした、ハッとした事例)があるとされる”
引用元:Wikipedia「ハインリッヒの法則」

この数字の割合にはあまり根拠がないとは言われていますが、それでも国土交通省のYoutubeチャンネルでも紹介されているなど、建設現場や道路での事故をなくすための方法として広く使われています。​ちなみに僕は中学生の時、プールの授業の前に体育の先生から聞いたのが初めてでした。

ということは逆に考えれば、「1脚のグラスが割れた」という事象の裏には割れていたかもしれないグラスが300脚あったわけです。

たまたまグラスを置こうとしたテーブルが傾いているのを先に気づいた。たまたまその日は丁寧に拭きあげていたけれど少し力を入れていたら脚が折れる拭き方をしていた。たまたまサイドテーブルに置かれていたグラスに持っていたお皿が当たらない角度で振り向いていた。

今日はたまたま割れなかっただけで、割れていたかもしれない事象というのは結構存在します。

全くグラス割らない人ってたまにいるんですけれど、そういう人って普段から割るような仕事の仕方をしません。動きが丁寧だったりゆっくりだったりそれでいて間に合わせられるようにしています。

「割れるかもしれない状態」を最初から作らないわけですね。だから割らない。

「どんでん」ってご存知ですか?ホテルの宴会場などで、婚礼など一つの宴会が終わったあとに30分とかですぐ次の宴会の準備をすることを指すんですが、僕がホテルの宴会場でアルバイトしていた頃、そのどんでん中にグラスを割りました。

使い終わったグラスを脇に抱えたラックに入れていくんですけれど、どんでん中ってものすごい勢いなんですよ。先輩たちが「円卓持ってこい!」とか「早くクロス撒いて!カトラリー置けないでしょ!」みたいに叫びまくっている中で片付けするものだから慌てに慌てるわけですけれど、それで急いでグラスをラックに入れるとまぁ割れる割れる。

だいたい脚のところがポキッといくんですが、さすがに割れたグラスをそのままラックにつっこんでいくのもあれだと思って初めて割ったときに先輩に「すいません、グラス割れちゃったんですけれど……」と言ったら「は!?割れたんじゃない、割ったんでしょ!」とだけ怒鳴られて放置された経験がありまして。

もちろん洗い場に持っていくときに「これ割ってしまいました、すいません」と片付けを手伝ってもらいました。ただ、ジョジョのセリフにありそうな「割れたんじゃない、割ったんだ」は言われたその時は「えっ!えっ……!」とショックだったものの、後になって考えてみればまあ割ったんだよな、と思うわけです。

割れてしまうようなスピードや入れ方でラックにしまっているから割れるわけで、先輩にそれを言われてから割らなくなりました。なーんか先輩たち叫んでるけどゆっくりやろ、みたいに開き直ってやってました。実はあれ、慣れると急ぐというより最低限の動きでこなすことで十分間に合うんですよね。

それでも15分どんでんとか流石に焦りましたけどね……。よくグラスを割ってしまうという人はまず自分の動きが必要以上に焦っていないか見つめてみてはどうでしょうか。

1脚のグラスを割らないために300脚のグラスを割ってしまえばいい

1脚の割れたグラスの裏には300脚の割れていたかもしれないグラスがある。

ならこう逆に考えてみればいいわけです。1脚のグラスを割らないために、先に300脚の割れたグラスを見つけてしまおう、と。「なに?グラスが割れてしまう?逆に考えるんだ。『割れちゃってもいいさ』と考えるんだ」。まさにジョージ・ジョースター。

……いや、割りませんけどね。そんなに割ったらクビ確定です。

だから僕は「頭の中で」グラスをたくさん割りました。

たとえば、テーブルのはじっこ近くに置いてあるグラスがあるとします。少し何かの拍子に手が当たってグラスが倒れたら、これ落ちて割れますよね。そういうイメージを先にしちゃうわけです。

具体的に頭の中で手が当たって倒れて落ちて割れるさまをイメージする。そのたびに頭の中でがしゃーんと切ない音がして心苦しくなるのですが、そうなるとそのグラスを少しテーブルの中央にずらしておこうという気になる。そして実際にずらしておけば多少倒れたところでそのグラスは割れることはない。

自宅でワインを飲んだときなんかで気持ちよく酔ったままグラスを洗ってついついシンクに落としてしまったり、グラスの口と底を持ったときにテコの原理でパキっと脚を折ってしまったこと、ワインをたしなむ方なら一度はあると思います。

これも普段から先にイメージしておくわけです。たとえば酔っ払って洗っている最中につい洗剤のせいでつるっと滑って落として割ってしまうようなイメージ。

やってしまった!という経験が強くあるとなかなか人は同じ失敗をしないものです。同じテツは踏まないように気を付けるのが普通でしょうから。だったら先にその「割ってしまった経験」を作っておくということですね。

もちろん、僕もつい最近に割っているわけですからこの方法は万能ではありません。なぜならすべてのケースが無の状態からイメージできるわけではないから。でも、大切なことは今割ったグラスを最後にしよう、ということ。これからの未来であんな悲しい思いがなくなるようにしよう、ということだと思うのです。

他人がどんなときに割ったのかを知っておくのも大切です。それを自分の職場や家での環境に当てはめることもできるかもしれません。だから今回のnoteではできる限り具体的に割れた様子を書きました。

実は僕は今でも危ない位置にありそうなグラスを見ると、それに手があたったりそのテーブルが押されて傾いたりでグラスが落ちて割れるイメージをしてしまう癖があります。

レストランで食事していてそういう場所にグラスがあったりすると本当に落ち着かないので他人のグラスですら位置をずらしたりします。飲んでるときに誰かが眠ってテーブルに頭をぶつけそうになるときに予めグラスを当たらない場所に移動させたりとか、よくやります。

口が災いの元になることが多い方へ

もちろん僕も誰かと話すとき、普段は気を付けて言葉を選びながら会話をするのですが、ずいぶん打ち解けた関係になったりお酒が入ったりすると言葉が雑になることがあります。

そうならないために時折意識している方法があります。それは「頭の中で相手を怒らせる」ことです。

実際に不機嫌にさせないために、先にイメージしちゃうんですよ、相手が不機嫌になったさまを。

どんなふうにしているのかというと、今楽しく対面で飲んでいる人に対して僕が言ってしまったうかつな一言のせいで相手を激昂させてしまいテーブルに置いてあるワインボトルで殴られる、くらいのところまでイメージしたりします。

さすがにワインボトルで殴られたりしたことはないわけですが、この人はもしかしたら怒るかもしれないくらいの軽い緊張感があった方が会話がうまくいくのでそうしています(僕はそれぐらいがちょうどいいのでやっていますが、みなさんは自分のほどよい緊張感に合わせてみてください)。

というかそういうことを気にせずしゃべると僕、けっこうボロが出るんですよね。とたんに失礼になっちゃったり、相手を傷つける言葉を使ってしまったりします。

そういう自分の至らなさを知っているからやっているだけなのかもしれませんが、会話というのは接客会話に限らず人と人のコミュニケーションの中でとても重要な要素ですので気を付けるにこしたことはないと思っています。

見るべきものはその原因

何か良くないことが起きたとき、その起きた出来事だけではなく普段の取り組みにも注目してみるとその原因が絶てて、同じことが起きづらくなるわけですね。

今朝、パートナーに対して心無い一言を言って怒らせてしまった僕が言うのもなんですが、失敗したときに見るべきものはその出来事自体ではなくてそのことを引き起こした原因である、ということが伝われば幸いです。

あなたの周りの大切なグラスたちがこれから割れることのないよう願います。“グラス”よりも大切な“ハート”がそこにはたくさんあるかもしれませんし。

色々と考え込んでしまう日々ですが、ぜひ素敵な一日を。ではまた。

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