複数の伏線と久保建英から始まったビジャレアル史上最注目20/21夏の移籍市場
2020年8月13日時点で2020/2021シーズンの夏の移籍市場を世界で最も賑やかしているサッカークラブはどこか?と聞かれたら、それは間違いなくビジャレアルということになるだろう。
ビジャレアルの日本における応援団体「ビジャレアルジャパン(2009年設立、2011年クラブ公認)」で代表をしている私「艦長(ビジャレアルが黄色い潜水艦イエローサブマリンと呼ばれていることから名乗っている)」は、2003/2004シーズンからビジャレアル一筋でトップチームから下部組織まであらゆる情報を追いかけていて、これまでSNSやブログ、メルマガを通じてほとんど日本に出回らないマイナーなビジャレアルの情報を発信してきた。
過去に移籍市場において世界的にある程度名の知れた選手、例えばリケルメやフォルラン、ソリン、ピレス、トマソン、ニハト、ロッシ等を獲得したこともあったが、これほどまでにビジャレアルが世界から注目されることは今まで一度もなかった。
なぜならビジャレアルは決してビッグクラブのような潤沢な資金を持つわけでもなく、フェルナンド・ロッチ会長が掲げる下部組織の育成を中心としたクラブ経営方針の下で人口約5万人の小さな街クラブとして身の丈に合った補強を行ってきたからだ。
ところが今年の夏は思わぬ事態に発展し、ビジャレアルが熱い夏の移籍市場の渦中にいる。
ビジャレアルが大注目されている原因とこれまで経緯をTwitterでの投稿を中心に振り返っていきたい。
1.すべてのきっかけはウナイ・エメリの新監督就任
ビジャレアルは2019/2020シーズンをカジェハ監督の下で、コロナ禍の試合中断明け以降の快進撃もあり20チーム中5位で終え、来季のヨーロッパリーグ(EL)の本選出場権ストレートインを手にした。
今季限りで退団となるMFブルーノ・ソリアーノ(3年の大けがで離脱していたが今季奇跡的にシーズン終盤で1128日ぶりの公式戦出場復帰。現役引退)、MFサンティ・カソルラ(スペイン代表時代の盟友シャビ監督が率いるカタール・スターズリーグのアル・サッドにフリーで移籍)、GKマリアーノ・バルボサ(2005年の加入から2015年再加入と長く活躍。退団)が試合後にねぎらいの胴上げをされて、最後は選手スタッフ全員で記念写真撮影。
ロッチ会長の信頼も厚く、来季も契約が残っているカジェハ監督の続投が有力視されていたが、ビジャレアルの選手は最終節の38節の試合を前に、カジェハ監督が今季限りでビジャレアルの監督を退任することを把握していた。最終節でゴールを決めた選手がカジェハ監督に駆け寄り抱擁。ビジャレアルファンもこの時カジェハ監督がチームを去ることを確信したのだった。
最終節の翌日、ビジャレアルはカジェハ監督の退任を発表した。
私個人的には来季もカジェハ監督であればまた同じようなサッカースタイルで退屈だな、そこまで見なくていいかなと思っていたので退任には賛成。
ビジャレアルをずっと追っている身としては、カジェハ監督ではビジャレアルが輝いていた時代のような魅力的なサッカーを体現できないし、終盤勝てるようになったのは新加入選手がフィットし手慣れてきたのとカソルラを中心としたベテラン選手が奮起したことが大きく、戦術、交代、対戦相手の対策どれをとっても一流の監督とは思えなかったのである。
しかし、あれだけロッチ会長が寵愛していたカジェハを一定の成績を残しているにもかかわらず契約満了前に退任させるということはよほど差し迫った事情があるのかなと推測していた。その答えはカジェハ監督退任発表の2日後すぐに明かされることになる。
ウナイ・エメリの新監督就任。期待が込められた3年契約だ。
・監督歴
2004-2006 ロルカ・デポルティーバ
2006-2008 アルメリア
2008-2012 バレンシア
2012 スパルタク・モスクワ
2013-2016 セビージャ
2016-2018 パリ・サンジェルマン
2018-2019 アーセナル
2020- ビジャレアル
ビジャレアルにとってはスペインで数々の実績を残した十分すぎる監督であり、また、ロッチ会長としてはエメリがバレンシア監督時代からビジャレアルの試合を度々見に来ていた研究熱心さも評価してのオファーだったのだろう。
さて、エメリ監督の就任で、なんとなく来季の体制としては元教え子の選手を中心に補強しながら新チームを構成していくのではないかという予想ができていた。既にセビージャ監督時代のイボーラ、アルベルト・モレーノ、バッカ、バレンシア時代のアルビオル、パコ・アルカセルがチームに在籍していることは大きなアドバンテージともいえるだろう。
ところがこのエメリ就任でビジャレアルを取り巻く環境事態が大きく変化し始めていたことをこの時はまだ知る由もなかった。
2.なぜ久保建英はビジャレアルに加入することになったのか?
7月は特に大きなニュースも公式からの発表もなく時が過ぎていったが、フロントは来季に向けた準備を着々と水面下で進めていた。
ビジャレアルの来季の補強ポイントは下記の通り大きく3つある。
1.カソルラの代役(ボールをキープできて得点力とパス精度の高い攻撃的なMF)
2.ブルーノの代役(危険をすぐに察知してカバーリング対処ができて視野の広い守備的ピボーテ)
3.絶対的CBコンビのパウ&アルビオルのバックアップ(現在のフネスモリ、チャクラは非常に不安定)
とりわけビジャレアルとしてはプレイ面だけでなく精神的支柱でもあった1と2については獲得急務で、プレシーズンの早い段階でチームに合流してもらい馴染んでもらう必要があったのである。
1についてはダビド・シルバやかろうじて久保建英の名前もあったが、最有力はレアル・マドリーからレガネスにレンタル移籍して活躍した成長著しいオスカル・ロドリゲスが大本命。実際1000万ユーロの完全移籍(レアル・マドリー側の買戻しOP付)でクラブ間合意までこぎつけていたのである。
ところが、エメリ監督はオスカル・ロドリゲス合意の際に、レアル・マドリー側に久保の獲得可能性があることを知り、久保獲得をクラブに猛プッシュ。8月6日にはスペイン各大手メディアからビジャレアルとレアル・マドリーが久保移籍で合意とのニュースが一斉に出て瞬く間に世界に知れ渡った。
思わず私も思いの丈を投稿すると非常に大きな反応をいただいた。
また、長年現地スペインで活動していたサッカージャーナリストの小澤一郎さんも、ビジャレアルの番記者であるハビ・マタ氏のインタビュー動画を公開し、久保移籍がほぼ確実な旨、そしてその背景を詳しく聞かせてくれた。
そこからしばらく焦らされたが、ビジャレアル公式Twitterで匂わせ投稿から久保建英の獲得が発表されると、ビジャレアル史上最高のリツイート、いいねの数値を叩き出した。もちろん日本での注目が一番ではあるが、世界中から祝福コメントが来ているように反響の大きさを物語っている。
日出ずる国=日本
ルービックキューブのスペイン語がCUBO=KUBO
正式発表。そして私も祝福のケーキと自室のビジャレアルルームの一部公開。ちなみに余談だがケーキはいつ発表されても間に合うように慌てて8/6に用意していたが、なかなか発表されなかったため写真だけ撮って次の日にはもう食べ終わっていた。
久保建英獲得の効果が凄まじく、あっという間にビジャレアル公式Twitterが50万フォロワー達成。既にビジャレアルのSNSの影響力、ファンの醸成に大きく貢献している。
なお、そもそもビジャレアル初心者の方は、小澤さんの下記記事がわかりやすくておすすめ。
カソルラの後任としてエメリ監督の強い要望から急転直下、久保建英を獲得できたビジャレアルの次の補強は、中盤の底でかじ取りするピボーテのポジション。大活躍したザンボ・アンギサがそのまま来季もビジャレアルにいてくれたら安泰だったのだが、フルハムからの買い取り金額が2500万ユーロとビジャレアルにとっては高額で買い取り期間内に決断できずにいて暗礁に。
ここでも誰も予想できなかったさらなる大きな事態に発展することになる。
3.まさかのパレホ、コクラン両獲り。しかも驚くべき破格の条件で
ビジャレアルにとってライバルクラブはどこかと聞かれれば同じバレンシア州の強豪クラブであるバレンシアということになる。
クラブの格・歴史としても知名度としても断然上位の存在であり、レバンテやカステジョンとともにビジャレアルはバレンシア州のクラブの1つだが、やはりバレンシアは別格。
しかしここ数年バレンシアはオーナーによるお家騒動で選手やスタッフ、ファンはとても辛く・悲しい思いをして過ごしている。
詳しくはこちらのナランハさんのnoteの2つのまとめをご覧いただくと惨状をより理解できることだろう。同じリーガエスパニョーラのクラブを愛する者として早くバレンシアが正常化されることを願っている。
ビジャレアルにとってこのバレンシアのお家騒動で構想外となっている選手が、今ビジャレアルが求めている補強ポジションと偶然にも合致し、パレホとコクランというバレンシアの中心選手をとんでもない破格の経済条件で獲得する運びとなったのである。
Bonjour⇒フランス語でこんにちは⇒フランス人
雄鶏⇒フランス語でCoq⇒Coquelin(コクラン)
29歳のコクランは本来2000万ユーロは下らない市場価格だが、不満分子を放出したいバレンシア側が価格を下げてまさかの650万ユーロ+条件達成時のボーナス200万ユーロ、4年契約での完全移籍が成立。決め手はアーセナル時代に仲の良かった同僚カソルラに電話でビジャレアルのことを相談して、安心できたことだった模様。
カソルラに「黄色いユニフォーム似合っているかい?」ってお茶目に聞いている。そしてパレホの発表が同日に行われることになった。
以前パレホが出演した?らしいスペインのTV番組「La Resistencia」
しっかり写真の右側にパレホの名前が書いてあって匂わせの範疇を超えている。
バレンシアのカピタンでもあった31歳のパレホだが、不満分子の中でも特に目立つ存在だったため、契約はまだあったもののまさかの契約解除によるフリー移籍。もはや何が起こっているのか説明するほうが難しい。ビジャレアルとは4年契約を締結して30歳を過ぎた選手には異例の提示。期待が伺える。
ちなみにパレホはエメリ監督がいることと、9年もの間慣れ親しんだバレンシアの居住地を離れることを考えておらず、子供のためにも生活拠点や環境を極力変えずにサッカーを続ける選択肢が取れる同じバレンシア州の車でも通えるビジャレアルが最終的に決め手となったようだ。
その後パレホはビジャレアルでのメディカルチェックと入団発表を終えると、個人会見でバレンシアファンに現状を説明した。見ていて悲しくなってくる。
ところでバレンシアからマンチェスター・シティに移籍した若手のホープであるフェラン・トーレスが言い残したといわれるパレホについての告白が話題になっているが、私は下記のジャウメ・コスタが述べているようなパレホの優しい人間性やカピタンとしての重責による言動だったと信じたい。
ということでまとめるとビジャレアルにとっていくつもの巡りあわせにより、主力3選手の獲得が一気に発表されて大きく賑わったわけである。
・カソルラ、ブルーノといったレジェンドの退団
・カジェハの退任とエメリの新監督就任
・エメリの補強方針による久保建英獲得への方向転換
・レアル・マドリー側は「リーガ1部」「育成が上手いクラブ」「欧州の大会という経験」でビジャレアルを選択し久保自身も最善として決断
・バレンシアのオーナーによるお家騒動
・コクランがアーセナル時代にカソルラと仲が良くて相談して決断
・パレホはエメリ監督の新プロジェクト&バレンシアでの生活スタイルを維持したい
・ビジャレアルは今季CLもELも残っていないので早く新シーズンの準備を迎えられたこと
カソルラの代わりにオスカル・ロドリゲス、ブルーノの代わりにサンタマリアが濃厚だった7月末から、とんでもないスピード感で物事が決まっていったのであった。
あまりの惨劇にバレンシアの心配が募るばかりである。
4.今後のビジャレアルの補強ポイント
まずは獲得ばかり発表されていたが、元々構想外でずっとレンタルでたらい回しにされていたFWエネス・ウナルの放出が発表された。
その他放出候補だと、ピボーテの層が厚くなったのでモルラネスあたりが残れるか危うくなってきた。
LSBも現状アルベルト・モレーノ、キンティージャ、ジャウメ・コスタ(バレンシアからレンタルバック)、エンリク・フランケサ(ミランデスからレンタルバック)、アルフォンソ・ペドラサ(ベティスからレンタルバック。ただしビジャレアル出禁)と5人いるため、エメリの好みで2人に絞られるだろう。予想としては教え子のモレーノとコスタを優先しそう。実力的にはキンティージャを試してほしいが。
ビジャレアルBも新陳代謝が進んでおり、FWシモンのカルタヘナへの武者修行が発表された。
また、既にトップチームでもプレイ経験があるRSBのアンドレイ・ラティウのADODへのレンタル移籍も発表済みである。
この先トップチームも下部組織のBチームも新シーズンに向けて出入りが激しくなることだろう。
トップチームは久保建英、コクラン、パレホと順調過ぎる補強を行ってきたが、CBの補強も引き続き急務となっている。
今ビジャレアルでゼネラルディレクターを務めるロッチ会長の息子ネゲロレスはバレンシアからこれ以上補強する予定は現時点で無いと発言しているようで、噂になっていた元ビジャレアルのガブリエウ・パウリスタの獲得の線は薄くなった。ただし、崩壊真っ只中のバレンシアなので何があってもおかしくない。
ガブリエウが獲れなくても、層の薄いCBは間違いなく獲得するはずで、エメリ監督がどういう人材を求めているのか注目したい。
背番号も気になるところ。
8/10と11がメディカルチェック、8/12から全体練習となっているビジャレアルだが、どのようなプレシーズンマッチを組むのかも今後を占ううえで楽しみだ。
最後にビジャレアルにとって新しいシーズンはまさに転換期。
大活躍したレジェンドたちが去った11/12、あの時の補強は結果的に大失敗に終わった。
今回はその時の反省を生かして、ビジャレアルがさらに成長するフェーズに突入してくれることを願っている。
今回はビジャレアル史上最も熱い移籍市場の動きだったので一連の動きをまとめてみたが、今後も状況を見てタイミングが合えば久保建英選手や移籍情報を中心にビジャレアルの情報をお届けする見込みなので、もしよろしければフォローやスキをお願いいたします。
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