見出し画像

北部弁と中部弁の境界はどこにあるのか調べてみた

ベトナム語の参考書で基準として紹介されることの多いハノイを中心とした北部弁ですが、その南限は先行研究ではタインホア省とされており、それより南のゲアン省では中部弁とされています。

つまり北部弁と中部弁の境はタインホア省〜ゲアン省のどこかにあるはずなのですが、その境界が具体的にどこの地域にあるのかはどの文献にも記載されておらず、依然としてはっきりしていません。
そこで今回私は、タインホア省とゲアン省の中間地点にあるHoàng Maiの地域周辺で境界がどこにあるのかを調査してみました。

ホアンマイは北部弁地域のタインホア市と中部弁地域のビン市とのちょうど間にある

調査方法

調査方法は以下のとおりです。

・各エリアの市場(chợ)や雑貨屋(cửa hàng tiện lợi)で北部弁か中部弁かの聞き取りを行う。

市場を選んだのは、その地域に住む人々が集まり、向こうから話しかけてくることも多いため普段の会話をたくさん聞くことができて調査に適しているからです。地方ではどんなエリアでも必ず市場か雑貨屋があるため、スポットも選定しやすくなります。

・自然状態の発音を聞き取るため、特定のフレーズを言わせたり、直接インタビューをするようなことはせず、自然の会話から特徴を判断する。

これは発音調査していると相手に告げると、相手は変に意識してしまい、普段の発音にならない可能性があるからです。特に中部の人は自分たちの言葉が訛っていることを自覚している人もいるため、調査と言ってしまうと意識的に標準的な発音になる可能性があるからです。あくまで市場で買い物をし、普段通りの会話をしながらの聞き取り調査になります。

・中部弁の特徴は、chi, mô, răng, rứaなどの中部系単語を使うことや、上がる声調(á)や、倒れる声調(ã)などの音域が高い声調が低く、重くなる訛りがあることで判断する。

・北部弁の特徴は訛りがないか、子音でザ行を使う割合が多いか、vângなど北部系単語を使うかで判断する。

北部弁、中部弁ともに分かりやすい大きな特徴があるため、判定はそこまで難しくありません。

・どちらの特徴が優位に発現しているかをランダムに個別に判断し、同じエリアで最低5人以上から同様の傾向が確認できたらそのエリアがどちらの方言が優位なのかを確定する。

通常、言語学の発音調査のインフォマント(情報提供者)は数人でよいとされています。5人は必要十分な数です。

Hoàng Maiエリアを訪れると、ゲアン省の山側のエリアと比べてすでに中部弁の訛りが弱くなっていることに気が付きました。この地域周辺に必ず境界があるはずだと信じて調査を開始します。

中部弁優位エリア

ここから先は

2,009字 / 13画像

¥ 250

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?