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プリミティブな衣・食・住を体感できる国立博物館、北海道ウポポイへ。カムイ(神さま)を感じに。

2020年7月12日、北海道に国内5か所目となる国立博物館「ウポポイ」がオープンしました。

ウポポイとはアイヌ語で「おおぜいで歌うこと」。国立アイヌ民族博物館を中心に、アイヌの伝統文化や伝承的な自然の中で生きる知恵を復興し、未来へと引き継いでいくことを目的に作られました。

環境問題や自然との共生が取り上げられる中、限られた資源を大切にして自然と共に生きてきたアイヌの知恵やプリミティブな感覚は、これからの時代を生きる私たちにたくさんのメッセージを与えてくれます。

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雄大な自然の中で、どんな体験ができるのか、何を感じることができるのか、取材してきました。一緒にアイヌの世界をのぞいてみましょう。

取材協力:(公財)アイヌ民族文化財団

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自然と調和する・「縄文」にも通じる生き方

アイヌ民族は日本人が同化政策を行う明治以前までは、vihula!でもたびたび取り上げる古代ハワイアンと同様に、文字を持たない民族でした。狩猟採集を主とし、カムイと呼ばれる神と共に、自然の中で人も動物も植物もすべてが調和して生きる文化を持って暮らしていました。

縄文文化との親和性も挙げられることが多く、考古学的には関連性は見出しにくいとされるものの、沖縄と同様にイレズミなどの成人儀礼や習俗、価値観や、死と再生への考え、自然観や祭祀などは共通する縄文イデオロギーがあるのではないかと言われています。

いずれにせよ、わたしたちが自然と共に生きていた時代に交流があり、共通する文化的要素をつい最近まで継続して保ち続けていたのがアイヌ文化です。

そこにはどこか懐かしいような、わたしたちのThe sense of primitive(プリミティブ・原始の感覚)を取り戻す鍵がたくさん存在しています。


ウポポイでは知るよりも、まずは感じてみよう。

ウポポイはアイヌの文化がそうであったように、文献によって何かを学ぶというよりも、音楽を聞き、踊りを見て、暮らしの道具を実際に作って使ってみて体験しながら感じることを目的にした体験プログラムがたくさん用意されています。

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(※ウポポイHPより 9月1日~10月31日のプログラム)

特に体験交流ホールで行われる短編映像や、夜に建物に映し出される壮大なプロジェクションマッピング・「カムイ シンフォニア」、展示鑑賞室での映像は、どれも豊かな自然とその中で生きる人々の繊細な表情が美しく描かれ、音楽と映像でその世界に入り込んだような体感をさせてくれるものになっています。

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あいにく取材に訪れた日は雨模様でしたが、そこに映し出されるカムイと創世記の世界観は、ハワイの創世神話クムリポや古事記と不思議なほどに似ていて、八百万の神々とその創造物である人間の物語でした。

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短編映像では子供たちにもわかりやすく生き物の大切さや自然と共に生きる価値観が描かれ、見終わった子供たちは口々に空を見上げては「あの雲はカムイが乗っているかな。」「あの鳥はカムイかな。」と話していました。

「トイレにも神様がいる」と考えるちょっと前までのわたしたちの暮らしと、決して遠いものではないのかもしれません。


プリミティブで美しい暮らし

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国立アイヌ民族博物館には展示物も情報もぎっしり。どのようにして狩猟を行ったのか、自然の植物や動物からどのようにして衣服を作ったのか、住居や祭祀、アイヌの人の一生などを、非常に直感的にかつ深く理解できるように設計されています。

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こちらも映像が多く用いられ、その世界観の中に入りこむような疑似体験ができます。

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アイヌにとってカムイは1つではありません。様々な自然のものをカムイとする中でも、クマは山のカムイとして非常に位が高く、アイヌ語でクマの呼び名は82もあるといいます。

(※ウポポイ公式instagramより)

暮らしの道具の細工の美しさにも驚かされます。男性は小刀で様々な道具に美しい細工を施し、女性は刺繍で衣服に美しい模様を施していたといいます。

その洗練された芸術性はヨーロッパや世界中で注目され、各国の美術館でも展示されています。縄文土器の芸術性に注目が集まるように、プリミティブということは決して粗野であることではないということが体感できます。

アイヌの日常着、アットゥシ(樹皮衣)。
気の遠くなるような時間、樹皮を剥いで温泉につけて柔らかくして、乾燥させ、指でさき、糸にして、織って、塗って、刺繍をして・・・永遠と作業が続いたことでしょう。

それを「作業」だと思うのは現代のわたしたちの感覚なのかもしれません。そのプロセスすべてが生きることそのものであり、植物や大地のカムイに感謝をしながらの祈りだったのかもしれません。

近代までは貨幣がなかったアイヌの社会。働くことと、暮らすこと、生産することと消費することは分かれていなかったのでしょう。楽しみながら働き、暮らしながら学び、カムイと自然と家族と集落の人々と、すべてと調和して生きる知恵を積み重ねていました。

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丸一日、まるでアイヌの村に迎えてもらったような体験ができるウポポイ。ウポポイから出て北海道の自然を眺めると、空に、雲に、山に、カムイを感じるような感覚になることでしょう。

閉塞感のある今だからこそ、おおらかで雄大な自然の中でのアイヌの文化は、わたしたちに様々なヒントをもたらしてくれるように思います。

まずは本を読むことからでも、始めてみませんか。


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