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ブラウン管の向こう側/歴史コラム「佐竹氏」

 わたしの出身地の山の中に、かつて炭鉱で栄えたが石炭を掘り尽くしてしまい丸々廃墟となった街がある。商店、学校、団地、病院、そして墓地──テレビの心霊番組華やかりし頃、そこも最恐の心霊スポットとして紹介された。当時高校生。しょっちゅうバイクで通りかかるその場所にどんな悪霊、死霊がいるのか!リポーターは有名女性霊能者の方と大槻ケンヂ氏。大ファンだったわたしは、ブラウン管に釘付けとなった。
リポートはロケバスの中からスタート。特攻服に例のメイクで大槻ケンヂ氏は気合いに満ちている。「では、早速降りてみましょう!」すると、
「イヤッ!!ダメッ!!」
霊能者の方が大槻ケンヂ氏を本気で制止した。
「ここはダメッ!!霊が多すぎます!!」
霊能者の方は丸まってテコでも動かないモードになってしまった。
「イヤッ!!ダメッ!!絶対降りないわ~~」

おわり 

──ロケバスから一歩も降りずにおわりかよ!撮れ高とは。
翌日、大槻ケンヂ氏がいた場所の空気を吸いたく、バイクにエアガンを積んでその場所に行き、霊が多すぎるという場所に向かってBB弾を乱射した。

それからほどなくして夏休み。夏期講習で学校に行くと、「駅前にウッチャンナンチャンがいた!」とクラスメートが話しているのが聞こえた。

ウッチャン・ナンチャン──!

夏期講習をバックれて駅前にバイクを走らせた。なぜウッチャンナンチャンがこんな辺鄙な街に来たのか。「ナンチャンをさがせ!」でもやるのか。是非この目で見てみたい…できればテレビに映りたい…どんな陰キャでも、テレビに映りたいと思うほどテレビとウッチャン・ナンチャンは絶対だったのだ。
駅前に着くと既にウッチャンもナンチャンも居なかった。しかし、カメラとテレビ局の様な人、そして見たことのある女性がいた。

「あれは、大神いずみだ!」

4チャンネルのアナウンサーがいるという事はつまりこれはたぶん「ウンナン世界征服宣言」(日本テレビ 1992~1995年)の撮影なんだ!と思った。どんな企画の撮影をしているのか全く分からなかったが、大神いずみの後ろでカメラにピースしたり変なおどりをしたりブサイクなのにテレビに映ろうとして必死にやった。

それ以来毎週欠かさず金曜夜11時半には「ウンナン世界征服宣言」を見て、VHSビデオにも録画した。俺がテレビに出るのはまだか…まだか…テレビにさえ出ればクラスの人気者になれる…友達もできる…ひょっとして彼女ができるかも…!

そしてついにその時は来た!

【ウンナン世界征服宣言 緊急企画 日本一ブサイクが多い街で美人を探せ!】

え?

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Wikipediaを見ずに書く歴史コラム「佐竹氏」

わたしの出身地が日本一ブサイクが多いとされているのは歴史的裏付けがある。これは地元の図書館にあったまんががソースなので間違いない。
時は戦国時代。この地(常陸国)を治めていた佐竹義宣は、関ヶ原の合戦の際どっちかというと東軍だけどあまり東軍のために働かなかった為、徳川家康に石高を減らされ出羽国(秋田県)に転封となった。
「殿…悔しゅうございます…」
「…わたしも鬼佐竹と呼ばれし男。ただではこの地を去らぬ!」
義宣は、美人の産地と名高い、領内の美人を洗いざらい見つけてはかたっぱしから出羽国への伴としたのだ。
名高い「秋田美人」の興りである。

そしてこの地には、あくまで佐竹氏の主観による美人以外の民が残された。

おわり
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【ウンナン世界征服宣言 緊急企画 日本一ブサイクが多い街で美人を探せ!】

わたしは日本一ブサイクが多い街で生まれ育った、という事をこの時初めて知った。

大神いずみの後ろで必死にピースや変な踊りをしていたわたしの姿は全部カットされていた。

おわり

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