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ブランキー 怒りのジェット湯切り


「そしたら猪木がさあ──」
ある日、現場の休憩時間にアントニオ猪木の話をしていると、全然知らない職人が、自分の家が勝手に住宅即売会で叩き売られててキレた時のロボコップと同じ歩き方で近づいてきた。

「てめえら猪木【さん】だろがコラ!!」



 
──さて社会人には、会話・三大タブーというのがあるそうで【政治・宗教・巨人(阪神)】の話は上司やクライアントとの関係が拗れる原因になりかねないので控えなければならないらしい。一理ある。だが、建築現場ではこれに加え【猪木・矢沢・長渕】についての会話にも気をつけなければならない。

通勤車両に貼るとなぜか駐車場であまり幅寄せされなくなるステッカー


 ある時、現場で知り合った人と音楽ライブの話をしていて「最近誰かのライブ観ました?」と訊いたところ「おとといツヨシのライブ行ってきたよ。」との答え。
ツヨシ?つよし? DATA LOADING……あっ長渕剛か。
「へー。場所はどこだったんですか?」
「桜島(鹿児島県)。」
なるほど!真の長渕ファンは長渕の事をツヨシと呼ぶし、東京から高速バスで10時間かけて桜島に行ってオールナイトライブ観て10時間かけて帰ってくる。そんなタフ・ガイの前で「桑田佳祐」や「ウォータームーン」の話をするのは危険だ!詳しくは検索して下さい。

かように現場ではひとクセもふたクセもある職人たちの地雷を踏まないよう細心の注意を払わなければならないのだが、それでもしょっちゅう衝突が起きる。地雷は巧妙に隠され、なぜこんな所に?という場所にこそあるのだ。

Sさんというすぐキレる事で有名な人が朝の駅前で怒鳴っていた。
「オメーこっちは30分も前から待ってたのによ、どういうつもりだ!」
どうやら待ち合わせに遅刻して来た人を怒鳴っているらしい。
「何で焼きそばなんか食ってんだ!」
どうやら待ち合わせに遅刻して来た人は焼きそばを食べていたらしい。

「何で遅刻してんのに湯切りなんかしてんだ!」

どうやら遅刻しているのにカップ焼きそばの湯切りをした事が許せないらしい。

「どこで湯切りしたんだ!!」

どこで湯切りしたかを知りたいらしい。湯切りが地雷だった!みんな変わっててみんないい。今日も平常運転だ。
わたしは現場への道を急いだ。

おわり



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