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同人誌装丁デザイン覚え書き vol.1

この度、片貝いわしさん著の小説本の装丁デザインをお手伝いさせていただきました。この記事はその解説、もとい覚え書きとなります。

実のところ私はグラフィックデザインは全く専門ではなく、自分の同人誌を自力で可愛く作りたい!という気持ちで、独学でデザインをかじっています。
ゆえに専門的な内容ではありませんが、デザインの細部に込められた意図などを解説させていただきました。
本記事を通して、本を手にとってくださったファンの方により一層楽しんでいただけると嬉しいです。

※若干ネタバレ(?)がありますので、通販などで入手予定の方は読後に見ることをお勧めします!


実際の表紙デザイン


印刷仕様

  • サイズ:B6

  • 表紙用紙:ミラーコート紙 220k

  • 加工:クリアPP

  • 遊び紙:タント I-55

  • 本文用紙:淡クリームキンマリ90k

  • オプション:高彩度印刷(表紙)

  • 印刷製本:ちょ古っ都製本工房

著者である片貝さんの依頼でJAさんが表紙イラストを手掛けられていらっしゃいます。うおお、美麗だあ……!
私は字入れと表紙データ作成をお手伝いさせていただくことになり、印刷仕様についても色々ご提案させていただきました。

仕様の各項目に触れる前に、作家からのオーダーをご覧ください。


オーダー内容とコンセプト

表紙に入れるタイトルにはこだわりがないので、英字でも日本語でも両方でも、いい感じにして頂けると………🙏
ちなみに18禁(成年向け)です!

とのこと。特に方向性の指定はありませんでした。内容については、

当初ギャグエロを目指そうとしたけど実際はほのぼの…?で、最後ちょっとシリアスかも……?

プロットがないためデザイン作業時にあらすじは頂けませんでしたが、「出られない部屋モノ」であると伺っています。
コンセプトが決まっていなかったり内容の詳細が得られなかったり、そもそもジャンル外の二次創作となると難しいですが、今回は作家の性格や作風から読み取ることにしました。

元々のイラストはこちら↓

©︎JAさん (@tirauraja)

数種類の背景から片貝さんが選ばれたそうで、斜線のあしらい(=デザイン上の装飾)もお洒落です。

以上の条件から、

  • イラスト、背景、あしらいはなるべくそのまま使用する。

  • CPの本なのでキャラクターを前面に出す!(※)モチーフなどを取り入れる

  • R18らしさを出す。R18アイコンの作成、キッチュ・ポップなデザイン

  • 部屋、密室を連想するような、四角や直線を使用する

  • せっかく依頼したイラストを使った本なので、特殊加工はせずとも、作家にとっていつもより特別になるような装丁に仕上げたい

という方向性で進めることにしました。

※もちろん出さなくてもよい。人物が小さいor居ないと、物語性を重視した雰囲気が伝わると思います。
今回は元々「弱小小説サークルなのにお誕生日席に配置されちまったよ?!」という片貝に対し、「特等席で自CPをアピールしてこい!」という私のけしかけから始まった表紙云々なので、CPの広告力を上げることがコンセプトに組み込まれています。


サイズについて

顔を大きく配置したバストアップ構図になっていますが、実は元々のイラストをご覧になるとわかるように、億泰のベルトあたりまで描いていただいています。

というのも、片貝さんの予定では当初A5サイズを考えていらっしゃいました。しかし既刊がB6で、サイズを統一したいものの表紙がイラストならば大きくすべきか?との二択で迷われたそうです。デザインをする時は常に取捨選択の繰り返しですが、本のサイズは本来最適にするべき本文との相性や用途だけでなく、後続のシリーズにも影響があるため、優先度が高いと考えました。

そこでB6にする代わりにA5実寸で描いていただいたイラストをそのまま配置し、イラストの大きさを確保。小さめなB6サイズでもインパクトを与えられる表紙になったのではないかと思います。
また、表4に全体像を載せることで、塗り足しなどで見切れることなく隅々までイラストを見ていただけるようにしました。

表4(裏表紙)
収まりを良くするため、頭の天辺が少し切れる構図にしています。


表紙用紙と加工

片貝さんからのリクエストで、表紙保護と耐久性の面でPP加工は施したいとのこと。

イラストに粒状フィルムのようなざらっとしたテクスチャーがあるのでマットPPも相性が良さそうですが、コントラストの強い色合いを活かしたり、作品の雰囲気を出したりする上ではクリアPPの方が良いと判断しました。

用紙はミラーコート紙を選択。

これはPRINTGEEK&clocknote.発行のデザイン系同人誌『PLITTER. Vol.9』で「平滑度が高いほど光沢は強くなるはず…!」として実践されていた表紙の仕様を参考にしました。キャスト加工されていて既につるつるな紙にクリアPPを貼ってもっとつやつやにする、という狙いによってシンプルながらインパクトのある仕上りになっていたのを、いつか真似してみたいと思っていたのです。

おわかりいただけただろうか?

実際、どの程度つやつやが感じられるかは本を手にしてくださった方に委ねたいと思いますが、ミラー面は発色が良いとされていますので、結果的に高彩度印刷とも相性がよかったのではないかと思います。


遊び紙・オプション

印刷所は片貝さんより「ちょ古っ都製本工房」さん指定。
価格がとにかくお安く小部数に優しい印刷所さんですが、代わりに特殊加工がありません。片貝さんの歴代既刊も「表紙カラー+モノクロ本文」というシンプルな仕様です。

そんなちょ古っ都さんでどんな特別な装丁が作れるだろう……と考えていたら、あれ……?!扱っている遊び紙の種類が増えてる?!しかもタントの蛍光色がピンク、オレンジ、イエローの3色も入っている!!!

蛍光色は特色を彷彿とさせて特別な感じがしますし、毒々しいほどビビッドな色合いは、狙いたかったR18らしさとの親和性も高そうです。しかも偶然、JAさんのイラストにはオレンジ色の背景とあしらいがあります。
こ、これは……!遊び紙と表紙のアクセントカラーをオレンジで統一しろという神の思し召し……!

ということで、これまで遊び紙に苦手意識があった片貝さんにご提案&快諾いただき決定。
表紙と遊び紙との繋がりを強く意識し、遊び紙印刷を施して扉を兼ねています。

表紙を開いて真っ先に目に飛び込んでくる扉。
タイトルをはじめ、表紙のアクセントカラーとリンクしている。

紙色を活かして、背景の外枠は黒ベタ&服の暗めのトーンに対し、白抜きの字や人物の肌がオレンジ色に映えるよう、表紙と差をつけています。モノクロ印刷だけど2色に見えるようなイメージです。

扉 (p03)

扉の裏は目次になっています。紙色のパワーがすごくて、実物の仕上がりがとても良かったです。
ボカしたタイトルが、作品の中で壁に映った影について話しているシーンとリンクしていて良いと片貝さんに気に入っていただけました。

目次 (p04)

本文用紙は片貝さんのセレクトですが、表2の真っ白なコート紙面とクリーム色の本文用紙の間に挟まることでスムーズに本文に入れるようになったのではないかと思います。


配色と色味の調整

仕様が決まったところで、表紙デザインに入ります。
正直、JAさんのイラストと背景の色彩設計が巧すぎて(巧すぎて)配色はそれに倣うだけでほとんど完成しているのですが……。
デザイン上少し調整した箇所もあるので、解説していきます。

というのも、オリジナルで背景とあしらいに使われているオレンジは赤みが強くて暗いため、このままアクセントカラーにすると遊び紙の蛍光オレンジと統一感が出ないのです。
かと言って、この赤みのあるオレンジは肌色の濃い部分に含まれており、ピンクを経て紫の影色へと繋がっているので、蛍光に寄せすぎて明るいオレンジにしてしまうとイラストとの調和が損なわれてしまいます。
よって調整は最小限にしました。

左:調整前 右:調整後
背景のオレンジ部分はカラーバランスを変えつつも、紫へのグラデーションを維持した。

実際に使った色がこちら↓

特色印刷ではないので必ず沈んでしまいますが、なるべく蛍光色に近付けたいと高彩度印刷を選択。RGBモードで原稿を作っています。

表1ではメインカラーをパープル、サブカラーをグレー、アクセントカラーをオレンジに。表4では配分を変えています。

しかし……、配色を考えてからイラストをじっくり拝見すると、背景でオレンジとパープルを引き立てているグレーが、人物では主に白い物に対して塗られた青みがかったグレーとリンクされていて、見れば見るほど非常に上手い色彩設計だなぁとため息が出てしまいます……。


フォントとあしらい

タイトルに使われているのは直線的で四角いフォルムの日本語フォント「AB-方眼M500」です。

AB-方眼M500

部屋を彷彿とさせるモチーフを取り入れたいということで細めの角っとしたフォントを探し、45°の斜線が元々あったあしらいとマッチするという理由で選びました。

画面の左右外側に配置することで人が囲まれているような圧迫感を出し、なおかつ文字が画面外まで続く加工をすることで、ダイナミックな広がりを持たせています。

左:フォントのみ 右:加工有り

ちなみに字が大きいのはイラストとバランスをとるため、細いフォントを選ぶのはイラストが潰れて見えなくなるのを避けるためと、情報量を増やしてタイトル以外のスペース=イラストが目に入るようにするためです。
タイトルが占める面積を大きく取っているものの、キャラクターの顔が1番目立つようになっていると思います。

また、タイトルに合わせて、背景の切り替え部分(元は白い線が入っている)をフォントと同じ太さの四角で囲い、キャラクター二人を閉じ込めているような表現のあしらいを追加。
人物の後ろや腕の下に回り込んでいるように見せることで、奥行きのあるデザインにしています。

奥のあしらい
手前のあしらい

表4(裏表紙)は先述の通り、イラストの全体像にあしらいとテキストを配置したものです。ほどんど表紙の内容と同じ物を構成し直した感じですね。
追加したのはモチーフアイコン
キャラクターのモチーフを何か取り入れたかったのですが、イメージカラーは既に配色が決まっていたので、ピースマークとドルマークを使いました。

モチーフになるアイコンやイメカラはそのキャラクターらしさをさりげなく伝えることが出来るうえ、キャラに思い入れがある人からは見て嬉しい、デザインするうえでは情報量を増やせて便利、という理由でよく使います。


R18ロゴ

自作したR18ロゴ

成人向けの同人誌は表紙にR18表記が必須です。既成のフリー素材を使ってもいいのですが、表紙をより可愛く見せるため、今回は自作しています。
と言っても、フォントを組み合わせただけです!

ハート型だと成人向けらしさが出ますし、なによりジョジョっぽさがあっていいのではないかと、ベースに使用。「クレー」のハート記号を変形し、レイヤー効果の境界線でフチを追加。
その上に「Freehouse」でR18等の文字を乗せています。
少し時代性を感じられるような可愛いデザインになったのではないかと思います。


さいごに

いかがでしたでしょうか。
本当はボツパターンもあり、それと比べてどういう選択をしたか……という理由も多くあるのですが、今回は実際に使われた部分のみ、駆け足でご紹介させていただきました。
デザインに関しては勉強中で技量はまだまだですが、同人誌をより良く、伝わるべき人に伝わってほしいという気持ちで沢山こだわりを詰めました。
より多くの方に片貝さんの作品を届くきっかけを作り、ご本の良さを伝えるお手伝いが出来ていれば幸いです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


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