J2第26節 ヴァンフォーレ甲府vsギラヴァンツ北九州

甲府は前節福岡に敗れ、7戦勝ち無しで2連敗となった。
昇格に向けて厳しい状況に追い込まれてしまっているがきっかけを掴む一戦としたい。

一方の北九州も順位こそ3位につけているが、5試合勝ち無しと足踏み中。
ここ5試合は得点も1つしか取れていない。
甲府同様にきっかけを掴みたい。

前回対戦はアウェイ北九州での1戦で、甲府が3-0と快勝。
リーグ戦での対戦成績は3勝1分1敗と勝ち越している。
だが、ホームでは1勝1敗と五分となっており、前回のホーム戦では敗れている。

7戦勝ち無しの甲府と5戦勝ち無しの北九州。
どちらがきっかけを掴む一戦となるか。

1.左の矢、右の矢

スタメンはこちら。

甲府は前節から6人、前回対戦から3人変更。
注目は太田修介。
最もチャンスに絡みながら決めきれないでいる。
人一倍悔しい思いを抱えている選手であり、ヴァンフォーレへの思いも人一倍強く、責任を背負い込み過ぎている現状。
しかし、決めたら最も流れを変えられる選手であり、きっかけとなりうる存在。
太田のゴールで再浮上のきっかけを掴みたい。

一方の北九州は前節から1人、前回対戦から3人変更。
注目はディサロ燦シルヴァーノ。
21節の水戸戦で途中交代から3試合欠場。
水戸戦を境に勝ち無しが続く中、前節復帰したが勝ちきれず5戦勝ち無しが続く。
10得点を挙げ、得点ランキング3位につけている。
得点後の「レレマスク」はお馴染みとなった。
ディサロのゴールで流れを掴めるか。

立ち上がりは甲府は丁寧に後ろからビルドアップをしていくのに対し、北九州はシンプルにディサロをDFラインの背後へ走らせる形を取る。

甲府はボール保持時にはDFラインを右にスライドさせ、山田をアンカーにし武田を1列上げる形を取る。
左サイドは内田、武田、泉澤でローテーションする形が多かったが、今節はあまり見られず。
一方の北九州は守備時には鈴木が1列下がり4411の形で前線からプレッシャーをかける。
しかし、立ち上がりの甲府は北九州のプレッシャーを回避しながら前進できていた。

北九州はボール保持時に2列目のサイドの2人が中にポジションを取り、サイドの幅はSBが取る形。
お互いにピッチを広く使いながらボールを動かしていくチームであるが明確に違いはあった。

甲府は後ろからのビルドアップで相手を食いつかせることにより相手DFを縦に広げ、泉澤や宮崎がピッチ幅一杯に広がることにより横にも広げる。

一方の北九州はゴールに近いところから選択肢を探っていく。

まずは一発でDFラインの背後を突くことを狙う。
ダメならその動きに連動し、守備ブロックの間に降りてきたあるいは留まっている選手への縦パスを狙う。
上の図ではディサロが裏へ抜け、鈴木が降りる形だが前線4枚は入れ替わり、立ち替わりでDFラインの背後ないしは守備ブロックの間を狙っていた。
次いで横パスやバックパスに切り替える。
このようにゴールに近いところから選択肢を探していくので前線に人数をかけ、迫力ある攻撃ができる。

飲水タイム明け相手GKのFKから再開するが、その流れから甲府は良い形で先制に成功する。

動画の始まる前から見ていきたい。
相手GKのFKに対し、新井が相手FWに競り勝ちこぼれ球を今津が前線へクリアする。
そのボールに対し、ラファエルが追いかけ一度収めるも2人に囲まれ失ってしまう。
しかし、太田も加勢し奪い返すと山田からDFラインへ戻し、GKからやり直す。
左CBの今津が左足で泉澤へ楔のパスを入れ、泉澤がラファエルとのワンツーに抜けだし最後は逆サイドの宮崎が決めた。

この場面ポイントは3つ。
①ラファエルが時間を作ったこと
②今津の左足でのビルドアップ
③ピッチを広く使ったこと

まず1つ目。
ラファエルがラフなボールに対して粘ることにより、太田がサポートに来る時間を作った。
これにより太田だけでなく味方のサポートも得られ、陣形を整える時間も作れた。
この陣形を整えることが大事である。
仮に失ったとしても陣形が整っていればカウンターから危険な場面を作られるリスクは減る。

次いで2つ目。
今津は今シーズン大きく成長した選手の1人である。
だが、後ろからビルドアップをしていく中で、左のCBとして起用された時は今津の所で停滞してしまうことも今まであった。
特に比較対象が左利きでビルドアップを得意としている中塩なだけに、尚更ミスや停滞する場面が気になってしまった。
しかし、この場面では泉澤に起点となる素晴らしい縦パスを左足で通した。
左サイドの選手が左足を使えればよりピッチは広く使えるため、後方からショートパスを繋ぎながら組み立てるチームには必須なスキルである。

最後に3つ目。
起点となったラファエルの位置は右サイド。
ここからGKまで戻し、左サイドの最も深い位置まで侵入し、逆サイドの選手が走り込んだ。
ピッチの横幅、縦幅をほぼ使っての得点だが、伊藤監督の目指すサッカーを体現する上で相手を広げ、動かすことは必要となるだけに良い形からの得点となった。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『(宮崎)純真については慣れないポジションの中で、パフォーマンスはすごく良いと思います。本来であれば前線の選手でサイドハーフであったりとかトップであったりとか。そういう中でウィングバックをやりながら自分の特徴を伸ばしてくれています。これは本当に今日のゴールで報われたなと思いますし、これからも彼には期待していきたいと思いますし』

左サイドで泉澤が優位性を保てることは証明し続けている。
宮崎の背後へのランニングやドリブル突破を仕掛ける場面が増えてくればより泉澤も活きてくる。
宮崎が第2の矢となれるかによりサイド攻撃の脅威は増す。

2.小佐野魂

良い形から先制に成功したが、すぐに追いつかれてしまう。

攻撃に人数をかけ、ペナルティエリア内に積極的に入れてくるからこそこういう事故のような得点も生まれる。

同点に追いつかれてすぐに甲府が勝ち越す。
7試合勝てていない中で最もチャンスに絡み、最も決めきれ無かったのは太田であろう。
責任を背負い込み、もがいているのが伝わってきていたがやっと報われる時が来た。

まず、この得点で見逃せないのはラファエルの献身性。
クローズアップされるのはボールを奪った武田、ドリブルで運びラストパスを出した泉澤、得点を決めた太田であろう。
だが、ラファエルが相手を誘導するプレッシャーをかけ、相手が剥がそうとドリブルで前進し、横パスを出すがズレたところを武田が奪い取った。
そこからスプリントし泉澤のドリブルに対し、斜めのランニングによって相手DF3人を泉澤と共に引きつけ太田にスペースを与え、最後シュートブロックに来た相手DFを一瞬遅らせた。
ラファエルのこの2つのプレーは得点を取るのに必要不可欠であった。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『北九州さんがカウンターに弱いというところがあるので、そこのカウンターで得点を奪えたことは良かったと思います。』
『(太田)修介に関しても、今シーズンすごく調子が良く、懸ける想いがある中で、2点目を決めたところ、チームとしても勢いがついた。』

試合後の太田選手のコメントより。

『自分自身も欲しいゴールでした。泉澤 仁選手がすごく良いボールを出してくれた。チームメートに感謝したい。ファーストタッチでボールを良いところに置くことだけを考え、GKが出てきたのでよく見てシュートを打った。勝てなかった7試合は僕が決定機を外していたので責任を感じていた。強い気持ちで臨んで結果が出て良かった。』

得点を決めた太田にも触れなくてはいけない。
前回の北九州戦で2得点を挙げて以降、8試合中7試合に出場し伊藤監督の信頼を得ているが結果を出せず、チームもその間1勝しかできなかった。
得点後のピッチを叩きつけて喜ぶ姿がこれまでの悔しさや歯痒さを表していたのではないだろうか。

恩師の小佐野さんの力を借りた得点だったのかもしれない。
覚悟を決め、望んだシーズンで覚醒まであと一歩のところまで来ている。
現時点でもチーム内得点王だが、まだまだ得点は増やせる。
小佐野魂を胸に太田が甲府のエースとなるまであと少しなのかもしれない。

3.レフェリング

今節の主審は家本政明氏。
最も有名で、最も評価が分かれるレフェリーだろう。
家本さんを有名にしたのは2008年のFUJI XEROX SUPER CUPだろう。
甲府に関わることであれば、2015年のベガルタ仙台戦で前半終了のホイッスルを吹きながら提示したアディショナルタイムに満たないとして、一旦引き上げた選手を再度ピッチに戻したことを覚えている方も多いだろう。
どちらも詳しくはこちらをご覧ください。

この中にも記載されているが、家本さんはサッカーの聖地と言われるイギリスのウェンブリースタジアムで日本人で初めて主審を務めたり、世界最古のサッカーの大会であるFAカップでイングランドサッカー協会に所属していない審判が初めて主審を務めた。
世界的にも評価されているレフェリーである。

とりあえず審判を批判する方も多いように思う。
しかし、サッカーのルールというものは難しく、完璧に把握している方はほとんどいないと思う。
いまだにキーパーチャージという言葉も聞こえてくるのもその証拠である。

上記のように大きなミスを何度か犯しているレフェリーではあるが、人間誰しも失敗はある。
ヴァンフォーレの選手にしても同じである。
過去の失敗でダメというレッテルを貼らず、今どうなのか見てあげる必要がある。
現在の家本さんはJリーグでもトップのレフェリーの1人である。
たくさんの批判の中、這い上がり力をよりつけてきたことは、称賛こそされど過去のミスをいつまでも言われることではない。

家本さんの特徴としてあまり試合を止めない傾向にある。
笛を吹かないからファールを取っていないわけではない。
試合の流れを止めないようにプレーを続けさせている。
アドバンテージを取ってプレーを続けさせたか、ファールを取らなかったかは審判の動作を見ていただければわかる。
両腕ないしは片腕を前方に伸ばした時はアドバンテージを取っている。

詳しくはこちらをご覧いただければと思います。

笛を吹くことやカードを出すことにより試合をコントロールするレフェリーもいるが家本さんは違う。
事実ファールで試合が止まることも少なく、カードも1枚も出なかったが試合は荒れる気配は一切無かった。

小ネタを1つ。
前半29分頃ピッチで飛べなくなった鳥を保護する優しい一面も見せた。

家本主審の一貫した判定は試合を引き締めた。

4.前線からの規制

引き締まった前半から一転、後半は自分達から試合を難しくしてしまう。
後半開始すぐに北九州が同点に追いつく。

試合後のディサロ選手のコメントより。

『1回奏哉くん(藤原選手)が右足でクロスを上げようとして、当たって跳ね返ったのをもう1回奏哉くんが取って、1回左足で下げようとしたと思うんですけど、その下げたボールに対してのワンタッチのタイミングでも狙おうと思ってポジションを取っていたら、またいで右に持ち出したのでもう1回ちょっとだけディフェンスから離れて、ボールが来たらいいなというくらいの感じで待っていたら、えぐったところからボールが来たので、ちょっと後ろ気味にボールが来たんですけど、ちょっと空中で止まりながらうまくボールを流し込めて良かったです。』
『僕が出ていなかった期間が3試合あったので、僕が出た試合で言えば3試合ぶりくらいですかね。今は2試合に1点くらいのペースなので、そのペースは崩さないで取りたいと思っていますし、今日は取りたいと思っていたので点が取れてよかったです。』

試合後の小林監督のコメントより。

『主導権を少しずつ持ちつつ、自分たちでボールを運んで点を取れた。特に2点目については5枚のディフェンスを釘付けにしてもう4枚の9枚のディフェンスで、そのサイドをえぐって行ったという今までにないことができたんですね。今までは、相手のディフェンスの前でボールを回してるだけだったんですけど、今回は幅があって3人目が奥にいてというところでいくと、トレーニングでもちょっとそういう事をやったり、そういうイメージを持ってやれと言っていたので、そのことについてはすごく評価をしたい。特に右サイドについては、すごく評価をしたいなと思っています。』

追いつかれて以降、一方的な北九州ペースとなる。
ボールが全く奪えなくなり相手に攻め込まれ続ける。
では、前半と後半何が変わったのか。
北九州がよりエネルギーを増し、速いテンポでパスを回し始めたことも要因ではあるが、最も大きな変化は甲府の選手交代であった。
先発したラファエルを後半頭からドゥドゥと交代した。
この交代が北九州に攻め込まれ続けた要因となった。
プレッシャーのかけ方がこの2人では異なっている。
松田、バホスを含めて比較してみたい。

①ラファエルの場合

ラファエルの場合はプレッシャーに行く時は、リターンパスのコースを切りながら相手を誘導し守備の方向付けをする。
また、自分の背後に出さないよう意識している。
ただ、強度は低く単発でボールを奪えるタイプでは無い。

②ドゥドゥの場合

ドゥドゥの場合はあまり周りと連動しながらというよりは、個人で直線的にボールを奪いに行く選手である。
奪いきれるパワーがある反面、周りに合わせてプレッシャーに行くわけでは無いので奪いどころが定まらずドゥドゥ自身の背後を突かれてしまう。
また、山形戦のように五分五分のボールも奪いに行くため怪我に繋がるリスクも高く、ファールも多い。

③松田の場合

松田の場合はラファエルとドゥドゥの良いとこ取りのような選手である。
相手を誘導することもでき、個人でも奪い切れるパワーを持っている。
また、2度追い、3度追いも厭わない。

④バホスの場合

バホスの場合は気分次第だろう。
あまり守備に期待してもしょうがない。

このようにラファエルからドゥドゥに代えたことにより守備の規制が掛からず、ボールを奪えないがために押し込まれる展開が続いてしまった。

5.執念

「勝つ」
これがプロとして最も求められることは間違いない。
いいサッカーをしていても勝てなかった。
チームとしての執念と伊藤監督の攻撃的な采配が勝ち越しゴールを呼ぶ。

試合後の武田選手のコメントより。

『シュートを打つと思っていたので、(シュートがミスになってボールが来て)驚きのほうが大きかった。バホスがファーにシュートを打って、そのこぼれ球に詰めようと思っていました。』

バホスのミスキックが武田の元に飛んできたラッキーな形。
しかし、この試合何が何でも勝ち点3をという執念が呼び込んだ得点なのかもしれない。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『最後のところのパワーを選手たちが出してくれた、戦術云々というよりも最後のゴール前の守り、自陣のゴール前と相手のゴール前でしっかりパワーを出していこうという入りが出来ました。』

試合後の太田選手のコメントより。

『本当に欲しかった勝点3。チーム全員、スタッフも含めて取れた勝点3。うれしいという言葉しか出てこない。』

試合後の武田選手のコメントより。

『うれしいし、ホッとしたところもあるけど、これからも負けられない戦いが続く。これは自分たちが7試合勝てずに招いた結果。今日の勝利に満足することなく、このあとの試合につなげないといけない。』

試合後の伊藤監督のコメントより。

『内容が悪かったゲームで勝つよりも、内容が良い中で勝つ方が良いと思いますし、逆に内容が良くて負けているということは改善しなければなりません。「勝ち切る」ということは我々が昇格を目指すにあたって必要だと思いますし、このような変則的なリーグの中で、ターンオーバーしながら色々な選手を試しながらやってきているので、その中でも言い訳せずに勝ちを奪っていきたいですし、全体的にすごく成長してきている選手もいます。チームとしてやることがはっきりしてきたのですが、「勝つ」という部分が足りなかった部分なので、上位の北九州さん相手に勝てたことは選手たちも自信になりますし、「ほっとした」という言葉に尽きると思いますし、これからやはり「勝つ」という部分を突き詰めていきたいと思います。 』

試合後の小林監督のコメントより。

『正直言って、3点目を取りに行きました。5人カードが切れるという今年はそういうルールですので。少しでもゲーム経験をさせたり、パフォーマンスが良かったりという選手を送り込んで、前半戦はそういうのがプラスに出ていましたけど。今日はそこがプラスに出なかったということでいくと、私自身も反省をしなくちゃいけないと思っています。でも、そういうところでプラスになっていけば、選手はそういう経験をバネに前に進んでくれれば良いなと思います。私ももう少し慎重に、尚且つ大胆にやらなくちゃいけないなと思います。そういうことは反省しつつ、長崎戦に向けて準備をしていきたいと思います。』

北九州も勝ち点3を狙いにいった試合であったが、甲府の執念が上回った。

ただし、勝ち点と引き換えに積み重ねてきたものはあったが、より多く出せていたのは前半である。
後半はほとんど出させてもらえず最終的にはドゥドゥやバホスに頼る形になった。
これを続けてしまうようでは積み上げてきたものは何だったのかとなってしまう。
いいサッカーをして前半リードしていたことを忘れずに続けて行く。
その中でドゥドゥやバホスのコンディションが上がり、チームに上手く組み込むことが必要となる。

苦言のようになったが、勝つことはやはり素晴らしい!

6.あとがき

本当に久しぶりの勝利。
今節は勝つことが最も必要だった。
勝ったことをこれで良かったのかと悩めるのは贅沢なことのように感じる。
しかし、それだけ素晴らしいサッカーをしながら勝てていなかった。
この試合の後半がやってきたことの自信に繋がることなのか、やってきたことでは結果が出なかったがドゥドゥやバホスがいれば勝てるとなるのか。
この試合がきっかけとなるのかあるいはきっかけはまた別にあるのか。
それは次の試合以降に見えてくるはず。

甲府の良さも北九州の良さも見え、レフェリングも安定しており見応えのある試合であった。

MOM 宮崎純真
得点はもちろんのこと、背後への飛び出しやドリブルと求められていたことを表現できた。
驚きは守備面。
ほとんど右サイドを破られることは無かった。
人材難で苦しんできた右WBの救世主となれるか。
反撃のキーマンとなるかもしれない。

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