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J2第8節 松本山雅FC戦 レビュー

第11回甲信ダービーは雨の中での一戦となった。
多くの甲府サポーターが松本に乗り込んだ一戦欲しいのは勝ち点3のみだ。

1.スタメン

甲府
前節から2人の変更。
三平、野澤に代えて鳥海、中村を先発に起用。
大卒ルーキーの鳥海は初スタメンとなった。
ベンチには小林が今シーズン初めて入った。

松本
こちらも前節から2人の変更。
阪野、野々村に代えて横山、大野を起用。
高卒ルーキーの横山は初スタメンとなった。
また、外山と下川のサイドを前節から入れ替えた。

2.ゼロトップ

立ち上がりは甲府がアグレッシブに押し込んでいく姿勢を見せる。
開始40秒あまりでCKを獲得するが、この直前にはクロスに対し、ペナルティエリア内に5人入っておりメンデスもエリア内に入る構えを見せた。

流れの中では可変は見せない松本だが、ゴールキックの場面だけは立ち位置を変化させる。
高さのある鈴木の基本立ち位置はメンデスと被るだけに、新井と関口の間にポジションを移し競り合いで優位に進める狙いを持つ。

良い入りを見せた甲府だが、いきなり失点してしまう。

試合後の鈴木国友選手のコメントより。

『1点目ですが、凌くん(外山)のクロスは秋田戦もそうですが、いつも良いですし、僕はファーにポジショニングを取って合わせるだけでした。相手からファールではないかと主張もありましたが、僕としてはしっかり体を当てて決めることができました。あの時間帯での先制点も磐田戦の改善点だったと思います。』

試合の入りからパワーを持って入ることが予想された松本に対し、何でも無いクロスを合わされ簡単に失点を許す。
外山のクロスの質、合わせた鈴木のヘディングの強さが生んだ得点。
甲府はファールを主張していたが、論点はそこではない。
メンデスが完全にボールウォッチャーになっており、荒木も後方には相手選手がいなかっただけに挟み込む形も取れたはずである。
クロスに対しては、長谷川がきちんと寄せているだけにクロスへの対応は改善しなくてはいけない。
開幕戦でも右サイドからのクロスにメンデス、荒木の間を突かれて失点している。
審判の判定という外的要因に問題を提起するよりも、自分たちで改善できる内的要因に目を向けなくては同様の失点を繰り返すだけになってしまう。

立ち上がりの失点は今シーズン初黒星を喫した町田戦を思い起こさせたが、今節はチームとしての成長を見せた。
ズルズル行かなかった最大の要因は今シーズン初めて採用したゼロトップにある。

最前線に鳥海を起用したが、前線に張るだけでなくフラフラと中盤まで降りてくることと山本が中盤に上がることで数的優位を活かし、ボール保持が安定する。
松本は人を捕まえにいくようにプレスにいくチームだが、可変する甲府の選手を捕まえきれない。
下がってボールを受けるだけでは、ボールは持てても相手の前でボールを回すだけになってしまっては意味がない。
鳥海は相手DFラインの背後へも飛び出す姿勢を見せることで、DFラインを下げさせることにも繋がり、松本守備陣を混乱させた。

16分には甲府が得意のセットプレーから同点に追いつく。

CKのきっかけはボランチの脇でボールを受けようとした鳥海がDFラインの背後へ飛び出し上げたクロスから。
セットプレーの守備に課題がある松本だが、この場面でもDFとGKの接触からこぼれ球への反応が甲府より遅れたことによるもの。
野津田のキックの質、長谷川の反応の速さとシュートの精度は素晴らしかったが、この場面では松本の方に問題があったように思える。
甲府としては得点場面よりもCKを獲得するまでの流れをピックアップして見ていく方が意味があるように思える。

飲水タイムを経ていきなり松本に大きなチャンスが訪れる。
ゴールキックから再開したが、新井のクリアミスを横山に拾われミドルシュートを打たれる。
岡西が反応し防いだが、18分にイエローカードをもらった場面に続き不用意なプレーである。
熱くプレーすることは大事だが、冷静さを失う場面が続いている。

31分に松本は直前に負傷した篠原に代えて野々村を投入する。

32分に甲府はビルドアップからゼロトップを上手く活用してのチャンスを作る。

横山、河合をビルドアップで引き出し山本、中村、野津田、鳥海が松本のボランチ付近でポジションを取る。
新井から中央の鳥海へ縦パスが入り、前を向くと野津田を経由し泉澤へ。
この際、荒木が内側へスプリントすることで橋内が下川の後方へカバーに行けず泉澤がカットインすることに繋がった。
甲府としては理想的な攻めとなった。

35分に甲府が逆転に成功する。

左右から揺さぶる形となり、最終的に荒木のクロスに対し5人ペナルティエリアに侵入する形を作れた。
長谷川周辺のスペースはは野々村の管轄となるが、関口がブロックすることで長谷川をフリーにすることができた。
また、大外から中村も入ってくることで外山が絞ることもできていなかった。
荒木のクロス、長谷川のヘディングと質の高いプレーであったが、人数を掛けることでズレが生まれフリーとなることができた。

37分にも甲府にチャンスが訪れる。

泉澤のクロスが関口に当たり、クロスバーに直撃する。

39分には甲府に3点目が入る。

セットプレー、クロス対応に難がある松本に対して、甲府のストロングポイントが噛み合い得点を重ねる形となった。
セットプレーではマンツーマンで守る松本だが、メンデスのマークに付いていたのは投入されたばかりの野々村。

試合後の柴田峡監督のコメントより。

『いくつかの約束事を確認して臨みましたが、やはり確認事項ができていないということは、当然問題があると思います。クロスからの失点はもう一回見直しますが、リスタートに関しては、マンツーマンと決めていたのに完全に外れていました。相手がブロックをしてきたわけではなく、ただルーズなだけ。マークは野々村でしたが、篠原が怪我をして入って、すぐの失点でした。彼は新人ですし、授業料を払って少しずつ成長してもらわないといけません。ただ、あまり甘い顔をしていても仕方ないので、詰められるところは厳しく詰めていきたいと思います』

投入直後に2失点に絡む形となり、野々村にとっては難しい試合の入りとなった。

一方で、松本はクロス対応に関しても問題はあったが、一番危険な泉澤に一対一で仕掛けられる状況を甲府としては作れていた。

試合後の大野佑哉選手のコメントより。

『僕とシモ(下川)でなるべく僕がつり出されないようにと話をしていて、なるべくシモにみてもらう形にしたかったんですが、甲府は後ろから繋いでくると予想で、シモをどこかで相手の荒木選手にプレッシャーに行かせないと、こちらがズルズル下がってしまうので、そこをずらした時に泉澤選手のところが空いて、ロングボールを入れられて1対1を作られてしまいました。シモをずらすタイミングや僕がスライドするスピードだったり連携を深めなければいけないし、それが無理なら一回引き込んでからプレスをかければよかったんですが、前半は少し戸惑ってしまいました』

中盤での数的不利を解消するためにシャドーが内をケアすることでサイドが空いてくることになるが、サイドでも荒木、野津田がポジションを変えながら立ち位置を変えることを捕まえきれずWBが釣りだされることで泉澤と大野が一対一となる状況を作る。
そこへ山本を中心に泉澤へ長いボールを展開し、仕掛けられる展開へと持っていく。
右サイドでも関口に引っ張られ空いたWBの裏へ長谷川を走らせる形を作り出していたように、意図的にWB裏を突く形をチームとして用意してきていた。

試合後の柴田峡監督のコメントより。

『前半は幸先良く先制することができました。ただ、その後は前半のうちに3失点。クロスやリスタートからの失点でしたが、そのようなシーンは前節もありましたし、今節はそれを武器としてくるチームだと分かっていました。トレーニングもそれなりの時間をかけてきたつもりですが、トレーニングが悪かったのか、相手が素晴らしかったのか、選手がきちんと対応できていなかったのか。いずれの要素も絡み合ってのことだと思いますが、非常に不甲斐ない失点だったと思います。』

前半は甲府のストロングポイントと松本のウィークポイントが噛み合ったことで、甲府がリードして折り返すこととなった。
その中でも鳥海、長谷川と若手が躍動。
新布陣であるゼロトップが機能し、今シーズン初めて逆転して前半を終えた。

3.パワー不足

試合後の柴田峡監督のコメントより。

『後半はこのままやっても変わらないので、ある程度プラン通りではありましたが、阪野を入れて今まで通りのサッカーをしました。なかなかボランチのところでボールを拾えていなかったので、ボランチを3枚に増やしました。』

後半から松本は横山に代えて阪野を投入し、システムも変更する。
また、下川と外山のサイドを入れ替える。

試合後の柴田峡監督のコメントより。

『前半は逆サイドへのクロスでやられていましたが、外山が対応できていなかったと思います。泉澤選手と対峙する選手を変えるというよりは、そこの対応をしっかりとするためです。クローズにゲームを進めていくことを覚えてないと、また同じような失点をしてしまいます。そういう意味では、彼にも高い授業料を払ったと思います』

泉澤からのクロスに逆サイドの選手が合わせる形をいくつか見せたが、そこへの対応を修正してきた。
また、甲府のゼロトップにより数的不利となっていた中盤の枚数を増やすことでセカンドボールの争いを修正。

試合後の柴田峡監督のコメントより。

『まずはボランチを3枚にして、相手の出口を塞ぐことと、セカンドボールをしっかり拾うこと。守備のスイッチはシャドーが入れること。攻撃は改めてサイドを起点に攻めていくこと。中に人が多い分、外が開いてくると思っていました。外を起点にして、食い付いたらまた次を考えれば良いと。相手を見ながらサッカーをするのと、1-3ではなく0-0というメンタルで入るように話しました。』

前半は中盤が4対2の状況で数的優位を保てていた甲府だが、2トップが縦関係になり、中盤が3センターの形となったことで中盤が数的均衡となり一方的な甲府ペースとは違った展開となっていく。

立ち上がりこそ甲府の前線からの規制も機能していたが、徐々に松本が甲府に外を意識させることで中央が空く展開となる。
これにより、アンカーに入った佐藤を起点にボールを持てる展開となっていく。

試合後の伊藤彰監督のコメントより。

『プレッシャーの掛け方、アンカーの選手に対して甘くなったところはあると思う。サイドから出てくるボールへの掴みが後手になったところ、もう少しパワーを持って入らないといけない』

それでも立ち上がり15分は松本に大きなチャンスは作らせず、甲府が試合をコントロールしている展開が続く。

63分に鳥海が足を攣ったことをアピールするが、ここから流れが松本へと傾いていく。
1分後、松本が1点返す。

甲府の左サイドで外山、前、大野と繋ぎ、外山のクロスから下川、阪野が絡み佐藤のシュートを岡西が弾くも鈴木が詰めて得点を奪う。
外山を右に移したこと、前線のターゲットを増やしたことの効果を発揮しての得点となった。

68分に甲府は鳥海、長谷川に代えて有田、山田を投入する。
前半勢いを生んだ立役者2人だが、足が止まってきたことでの交代となった。
この交代が試合の流れを一変させる。
有田、野津田、泉澤が前線に並ぶ形となったがいずれもボールが無い状況で裏へ飛び出すことが少なく、足元でボールを受けたい選手たちであり、その結果松本の良さである前へ前へと出ていく守備がしやすい状況となる。
また、守備でも規制が掛からず佐藤に自由を与える形が多くなっていく。

松本が押せ押せで来る中で、甲府は78分に野津田に代えて野澤を投入する。
まずは同点に追いつきたい松本は、81分に外山と河合に代えて表原と米原を投入する。
これにより前が右WBに移り、米原がアンカー、その前に佐藤と表原が並ぶ形に変更する。
そしてこの交代も成功する。

耐えるしか無くなった甲府だが、82分に決壊する。

スローインから前がDFラインの後方へロングボールを送りこみ、鈴木が抜け出し得点となる。
まず問題はスローインに対しての備えが不十分であったこと。
松本がすぐに始めたため、出し手と受け手に対して数的不利な状況は致し方ないと思う。
問題はその前方。
松本は表原と阪野が受けに来ていたが、甲府はメンデス、荒木、山田と人が余っていた。
ここはきちんとコーチングしていれば対応できたはずであり、メンデスがポジションを下げられていれば前がパスを送り込んだスペースはそもそも存在していなかった。
続いてはパスに対してのアクション。
守備の原則はチャレンジ&カバー。
この場面で見れば山本がチャレンジ、新井と岡西がカバーの役割となる。
山本のチャレンジが失敗したらカバー役が挽回しなくてはいけない。
それが守備の備えである。
新井、岡西の判断が中途半端だったのに対し、鈴木は抜けてくると信じてスピードを緩めていない。
この差が得点に繋がった。
そもそも新井が鈴木に前に入られていることで先手を取られており、メンデスが前に出ているなら全体が左サイドに寄っていなければいけない。
松本は鈴木しかいないのに対し、甲府は山本と新井だけでなく、関口もいる。
ちょっとした隙なのかもしれないが、ここまで細部に拘らなくてはいけない。
それを疎かにしたからこその失点であり、前節の失点も同様の隙であったことを考えると痛いで済まして良いものではない。
厳しいことだが、ボールを繋ぐことよりもよっぽど大事なことである。
また、鈴木より先に触れないまでも退場覚悟でファールで止める勇気も必要ではあったのではないか。
勝負にこだわるとはそういうことではないのかと思う。

試合後の鈴木国友選手のコメントより。

『3点目は相手の背後のボールへの処理があまり良くなかったですが、タカくん(前)と目が合ってのパスだったので狙い通りやれたかなと思います』

前半の得点含め、松本は特別なことをして3点取ったわけではない。
油断というより隙である。

追いつかれた甲府は86分に泉澤と中村に代えて金井と浦上を投入する。
金井はそのまま泉澤のポジションに、浦上は右のCBに入り新井が真ん中、山本がボランチに上がった。
得点が取りたい状況で起用できる選手が、守備的な選手しかいないことは厳しいと言わざるを得ない。

結果的に負けなくて良かったという試合となってしまった。
ハイプレスを持ち味とする一方で、足が止まりそこから畳み掛けられる傾向にあった松本だが、皮肉なことに前半に甲府の可変が上手く行き過ぎた結果、松本のハイプレスが機能しなかったことで終盤まで松本がパワーを残す展開となってしまった。

試合後の伊藤彰監督のコメントより。

『逆転したことは評価するが、失点しないこと。取り切れずに同点に追い付かれたことは反省材料。チームがバラバラになってはいけない。相模原戦は一つになって戦わないといけないと思います。』

采配は結果論であるが、やることが全て上手くいった松本と上手くいかなかった甲府。
後味の悪い引き分けとなってしまった。
単純に甲府が松本のパワーを跳ね返せなかったことによる失点。
J1で戦えるチームを作りながら昇格を目指しているはずが、タレントの質はJ2でも屈指であるとはいえ降格圏に沈むチームのパワーに屈した。
上手くいかない状況が続くと違う方向を見てしまうことも、信じるものを見失ってしまうこともある。
だが、そうなってしまってはチームは崩壊してしまう。
とはいえ、今やっていることの積み上げだけでは勝てないことも示した一戦である。
やってきていることが間違ってはいないからこその前半であったが、やっていることだけでは勝ちきれないことを示した後半となった。

4.MOM

鈴木国友
圧巻の得点力を示した。
鈴木国友さえいなければ、甲府が勝っていただろう。
今後も得点数を伸ばしていきそうな勢いも感じ、松本を引っ張っていく存在となるかもしれない。

5.あとがき

またも悔しい結果に終わってしまった。
20本以上シュートを打っても勝てず、前半で2点リードを奪っても勝てず。
どうすれば勝てるのか。
サポーター以上に選手、スタッフは必死に考えている。
チーム状況は最悪に近いかと思うが、試合後の伊藤監督のコメントにもあったように、チームがバラバラになってはいけない。
サポーターを含めて今こそ一丸となり、戦わなくてはズルズル落ちていくだけである。
試合後には私も悔しくて感情的になったが、ただの観戦者が感情的になって文句を言っても何も起こらない。
鬼門アルウィンでは勝てないものと割り切って次に向かうしかない。
伊藤ヴァンフォーレがこれからも長く続いていくために、来年J1に行くために、サポーターとしてできることはチームを信じて応援することのみである。

松本にとっては結果的にいい印象で終えられた試合だったのではないか。
後半だけを見ると勝ちきれなくて悔しさもあるだろう。
選手の質は降格圏に沈むチームではないことは示した。

次節はすぐにやってくるだけに、気持ちを切り替えて次に臨むしかない。
次こそは勝てると信じて!

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