認知の癖②丨全か無か思考ーいつも失敗ばかりだと思ったら
前回に引き続き、今回も私が動物病院のスタッフに多いと考えている認知の癖についてです。その名も「全か無か思考」、別名「白黒思考」です。完璧主義といったほうが通りはよいかもしれません。
「全か無か思考」とは
さまざまな物事を「全か無か」、「白か黒か」、「成功か失敗か」などの2極点だけで捉えてしまう思考の癖を指します。僕は動物病院では「べき思考」同様に「全か無か思考」が育ってしまいやすいと考えています。
なぜなら「動物の命・健康」というシビアなものを相手にしているからです。当然のことですが、「命・健康」は各患畜に1つずつしかありません。患畜にとっては「かけがえのないもの」を扱っているのです。
動物の命を救えれば「成功」、救えなければ「失敗」。病気が治れば「成功」、治らなければ「失敗」。そのように2極化して考えてしまうのも無理ないことでしょう。
僕自身、臨床に携わっている際は「治療(オペ)は成功か失敗か」の2極点で捉えてしまいつつ、それを毎回修正することを繰り返しています。
「全か無か思考」の具体例丨佐々木の場合
Case 1.
■状況
BIDで投薬を指示していた薬を、オーナーいわく「やっぱり忘れがちで…」ということでSIDでしか与えていなかったことが判明した。
■佐々木の内面で起きたこと
「BIDで指示をしたのに、SIDとは…全くだめじゃないか。治す気があるのか。」と怒りや呆れの感情を覚えた。「とにかくBIDで与えてくださいね!」と念押しをしてその診察を終えた。
Case 2.
■状況
虚脱の状態で来院した初診症例。当日中に非心原性肺水腫という診断まではつけ、集中治療を開始することができたが急変。救命はできなかった。
■佐々木の内面で起きたこと
「俺の力が足りなかった」と後悔や自責の念にかられた。
「全か無か思考」の罠
「全か無か思考」に囚われてしまうと、人はどのような傾向を持つようになるのでしょうか。思考が極端になり、柔軟性を失うことによって事実を客観的に把握しづらくなります。物事のよい面しか、あるいは悪い面しかみえなくなってしまいがちになります。
「成功と失敗」で考えれば…。
客観的に考えれば成功と思われるケースでも、100%成功というケースは現実的にほぼありえないでしょう。逆に失敗と考えられるケースでも、100%失敗だったというケースはほぼないといえます。
他者に「全か無か思考」が向くと…
Case 1. が他者に「全か無か思考」を向けてしまった例です。怒りや呆れ、皮肉・軽蔑といった感情が生じることで事実を冷静に捉えることができなくなります。
冷静に考えれば、「どうしてもBIDでの投薬ができない事情があるのなら、それを聞いて代替案を提案することが治療を前に進めうるかもしれない」、「SIDなら投薬ができる。その方向で考えてみよう」といった思考となっていたでしょう。
自己に「全か無か思考」が向くと…
Case.2 が自己に全か無か思考が向いてしまった例です。全か無か思考に囚われると、致し方のない結果に対しても自責の念や後悔、罪悪感を必要以上に感じてしまい、モチベーションの低下やバーンアウトなどメンタルヘルスの悪化をもたらします。
メンタルヘルスの悪化にまで至らなくとも、整理されていない感情や思考が頭の中をグルグルと駆け巡っている状況下では、パフォーマンスは大きく低下するでしょう。
「全か無か思考」との付き合い方
全か無か思考がメンタルに悪影響をもたらす場面は、主に「失敗」や「目標・理想の未達成」が発生したときでしょう。
そのようなときには、自分の物事の捉え方がカチコチに固まっていないか、極端に偏ってしまっていないか考えてみることが有効です。特にネガティヴな面に注意が集中していると感じられたときは、黄色信号です。
前述しましたが、100%ネガティヴな要素しか存在しない物事など現実的にはほとんどありません。探せば必ずポジティヴな要素も見つかるはずです。「100%、完全な失敗をしてしまった」との思考が浮かんできたときには、客観性を保てていない可能性が高いといえます。
客観性を取り戻すためには、自分の頭の中の感情や思考を外に出すことが大切です。裏紙にでも書き出して、自分で声にだして読んでみる。人に話してみる。スマホのメモアプリに書き出して、音声読み上げ機能でスマホに読ませるというのもいいですね。各人にあったさまざまな方法があると思います。ぜひ自分に合った方法を探してみてください。
「仕事で失敗は許されない、してはならない」という思い込み、「べき思考」が絡んでいるケースも多くあります。その場合は「べき思考」にもアプローチをしたほうがいいかもしれません。(前回の記事を参照)
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