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X Talk 4.3-人生は研究だ!試行錯誤で切り拓く

獣医学研究者による対談シリーズ、“VET X Talks” (ベット・クロストークス)。4人目のゲストとして、岐阜大学の前田貞俊先生をお迎えして
います。

前回は、「やってみたい」という気持ちを大切に、研究を続ける重要性について聞きました。その際、「自分で考える」という姿勢が大切だと言うのが今回のメインテーマです。前田真吾先生のモットー、「人生は研究だ! Life is Research!」も語られます。


研究をもっと魅力的に

--:「トランスレーショナルリサーチセンター」は、獣医療が他分野と連携した研究を進めるのが目的ですね。
 
前田貞俊先生(以下、貞俊先生)もう一つ狙いがあります。獣医学を学んでいる若い人たちに、研究に興味をもってもらう場にしたいとも考えています。(センターでの経験を通じて)学生が研究の道に進んでもらえたらな、と思っています。
 
前田真吾先生(以下、真吾先生)それ、すごくいいですね!きっと学生さんも興味を持ってくれるんじゃないでしょうか?僕が学生だったらめちゃくちゃワクワクしちゃいます!
 
貞俊先生:前田君が(学部の)学生だった頃は、高学年の半分以上の時間は研究にあてていたよね。でも今は違うじゃない。「コアカリ」(= コアカリキュラム:必須科目の講義や実習)が忙しくて、研究する時間が本当に減った。「詰め込み」とまでは言わないけど、あまりにも型にはまった教育になって、自由に発想する時間がなくなったらまずいよね。
 
真吾先生:おっしゃる通りです。今の学部生は授業が忙しくて、研究する時間が全然とれません。
 
貞俊先生:だから、研究に興味をもつチャンスがないよね。僕たちは次世代の育成もしていかなきゃ!獣医学が目指すものが見えてこないと、若手が「やってみよう!」っていう気にならないじゃない?

そこを何とかできないかなと思っている。トランスレーショナルリサーチセンターをきっかけに、学生が研究に興味をもってくれるような環境づくりをしていきたいと考えてるんだ。
 
--:目指すSharing Medicineは、目標として学生さんにも分かりやすいし意義も感じてもらえそうですね。
 
貞俊先生:そうあって欲しいと思います。それから、何の研究でもいいんですが、研究をやって食って行けるようにしないと…。
今の時代、将来への不安を感じる若い人が多いように感じます。もし研究者として花開かなくても、身に付けたスキルが臨床や獣医療以外の分野でも活かせるようにしたいと思います。(研究に携わっても)全員が研究者にならなくても良いんです。


「人生は研究だ!」 = 試行錯誤で切り拓く

真吾先生:その通りだと思います。まさに今、僕もまったく同じことを考えてまして…。このことを一言で表すようなキャッチコピーをずっと考えていたんですね。そしたらある時ひらめいたんです。それが「人生は研究だ! Life is Research!」です。
 
貞俊先生:お~、いいね!前田君が言わんとしていることがすぐわかった。
 
真吾先生:研究者なら分かってくれるんですよ。世の中、分かってないことが多い。分かってることなんて、ないのかもしれない。
 
貞俊先生:何となく、分かってる風で過ごしちゃってる(笑)
 
真吾先生:そんな不確かな世界で、人生では常に新しい課題に直面するわけです。その都度、決断の連続じゃないですか。仮説を立てて試行錯誤の毎日。人生も仮説・行動・検証の連続で、研究とまったく同じです。
 
以前のVET X Talksでは、料理も実験とよく似ているという話をしました。
料理を上手に作れなかった時、「どうしてうまくいかなかったのか?」、「次は、何をどう変えたら良いのか?」って考えて、試行錯誤することでおいしい料理ができあがる。原因を考えて、やり方を微調整して、また試して…。最終的に結果につなげていくって、研究の基本じゃないですか。
 
貞俊先生:だから、研究の思考というか、考え方の型のようなものを知っていれば、より人生を楽しむことができるよね。
 
真吾先生:ホントにそうなんですよ。自然にそれができる人もいるとは思います。起業家みたいな人は、そうなのかもしれません。でも、僕も含めて普通の人には、試行錯誤によって人生を切り拓くようなことってなかなかできないと思います。
 
先生がおっしゃるように、将来への不安を感じている学生さんや若い人たちって多いですよね。でもそれって、実は年齢問わずみんな同じ。そして、不安に思うと“正解”にすがりたくなります。でも、世の中って分かってないことだらけで、正解なんてないじゃないですか。
 
貞俊先生:ないね。
 
真吾先生:動物病院で診察していると、正解を求める飼い主さんにしばしば出会います。「先生のご判断にすべてお任せします」「先生がベストだと思う治療でお願いします」というような。
 
そんな時はまず、「この病気(特にがんの場合)の治療に正解はないんです」と伝えるようにしています。その上で、「選択肢にはAとBとCがあります。Aの治療にはこんなメリットとデメリットがあります。Bの治療ではこうで…」というように、ひとつひとつを丁寧に説明するように心がけています。それぞれの飼い主さんにとって、ベストな選択をして欲しいんです。
 
「私に任せておけば大丈夫!」みたいな先生もいるとは思います。ひょっとしたら、そんな風に力強く話してくれる先生の方が良いという飼い主さんが多いのかもしれません。でも、僕は治療法に絶対の正解はないと思っています。飼い主さんには、「選ぶのはあなたです」とお話しています。「この先生、説明が長いな」と思われているかもしれませんが(笑)
 
学生さんに伝えているのは、「分からないことがあった時に“ググる”のは良い。でも、“それっぽいこと”を言っている人の意見をそのまま真に受けるのはちょっと違うと思う」と。「その人にとっては正しいことかもしれない。でも、それはあなたにとっての正解ではないかもしれないよ」って話しています。


人生の決定権と責任は自分に

貞俊先生:帝国主義が台頭する時って、演説のうまい人がいて、その人が民衆の心を掴んじゃうわけ。その時、社会背景にあるのはやっぱり不安。自分で考えて決断することを放棄しちゃうと、そういう人にすがっちゃうんだろうね。今はネット社会だから、特に気を付けなきゃいけないね。
 
真吾先生:今でいうと「インフルエンサー」ですね。「ひろゆきさんが言ったから!」とか(笑)
 
貞俊先生:「ホリエモンが…!」とかね(笑)
 
真吾先生:インフルエンサーと呼ばれる人たちが言っていることは、確かに腑に落ちる場合が多いんです。とはいえ、全部正しいわけじゃないですよね。彼らもそれを分かって言ってるんだと思います。

でも、聞いている人たちの中には、すべてを信じてしまう人もいるかもしれません。その結果、失敗した時にそのインフルエンサーを攻撃することもあるようですが、信じると決めたのは"自分"なんです。研究に携わることで、「人生の決定権と責任は自分にある」ということを再認識できます。
 
それから、研究って特別なものではなくて、大学とか大学院に行かなくてもできるものだと思います。料理人や職人も研究者ですし、スポーツや趣味、恋愛にも研究の要素はあるはずです。だから僕は「人類みな研究者!」と考えていて、それぞれの“自分の研究”を追求してほしいなと思っています。ただ、研究には考え方のベースみたいなモノはあるので、そこは(大学や大学院で)学べたら良いんじゃないかと思います。
 
貞俊先生:理論立てて物事を考え、それを文章にして表現する。そこから、「本質は何か?」という思考に向かうことを、大学時代に身に付けて欲しいね。
 
「これがあるから、こういう結果が出る」、つまり“始め”があって“終わり”があるんだけど、その間にある仕組みやプロセスを考えて理解するのがすごく大切なんだよね。だけど、ネット社会・情報化社会だとそこをオミット(=省略)しちゃう。「めんどくさいから」
 
真吾先生:すごく分かります。結果よりも過程が大切ですよね。でも一方で、そこがめんどくさくて飛ばしちゃいたい気持ちもよく分かります。実際、僕にもそういうトコロはありますし(笑)
 
貞俊先生:俺もあるね~(笑)気持ちは分かる。でも、大切なんだよね。そこ(仕組みやプロセス)を学ぶことで、色々なトコロに応用できる。「人生は研究だ!」ってことにつながる。恋愛にも研究の要素があるって言ったけど、研究のやり方を知っていると、人生が…、何というんだろう…。より華やかになる(笑)
 
真吾先生:豊かになる(笑)
 
貞俊先生:そうそう、豊かになるよね(笑)

絶対的な"正解"は存在しない不確実な状況の中、「自分で考える」ことの大切さは研究だけでなく人生にも大切だというお話でした。今回は哲学的な内容でしたが、そのことを前田真吾先生にぶつけると"なるほど"と納得の答えが返ってきました。日本語の博士(はくし)は英語でPh.D.と略します。正式にはDoctor of Philosophy、つまり皆さんは「哲学博士」なんですね。

最終回の次回は、「知る」ことと「分かる」ことの違いと言う、またちょっと哲学的なお話から、テクノロジーが結んでくれる出会いについて語っていただきます。

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