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X Talk 4.2-点と点を情熱でつなげる

獣医学研究者による対談シリーズ、“VET X Talks” (ベット・クロストークス)。4人目のゲストとして、岐阜大学の前田貞俊先生をお迎えして
います。

前回は、イヌやネコに自然発症した病気の研究をヒトの病気治療に活かす「トランスレーショナル・リサーチ」についてお話し頂きました。獣医療と医療が共に発展していくことで、動物と人間、みんなが健康で幸せに過ごせる世の中になるよう期待したいですね。

今回は、「やってみたい」という情熱をエネルギーに、"継続する"ことの大切さについて語り合って頂きました。


“たまたま”の産物?

--:前回おうかがいしたように、トランスレーショナルリサーチセンターでは、獣医学と医学や薬学などが連携して研究をされるわけですね。前田(貞俊)先生が何十年も温めて来られたアイデアとのことですが、実現に至ったきっかけは何だったのでしょうか?
 
前田貞俊先生(以下、貞俊先生)岐阜大学の方向性が大きく変わったのがきっかけでした。地方の国立大学は今、生き残り競争が熾烈になっています。国からの運営費交付金が減額される中で、(結果が分かりやすい)プロジェクト型の研究に予算がシフトしています。

研究型の大学は、「ノーベル賞が狙えるような研究をやってください」という雰囲気です。(国のスタンスは)「大学がどう生き残っていくかは、自分たち(≒大学)で決めてください」という状況にあります。
 
そんな中、岐阜大学では「獣医(学部)があるじゃないか」という話になりました。One MedicineとかOne Healthなどと言われることも増えてきて、「じぁ、トランスレーショナル・リサーチに力を入れよう」と、センターの設立が決まったんです。実は、“たまたま”という部分が大きかったんです。
 
前田真吾先生(以下、真吾先生)そうなんですか?!先生が主導したのかと思ってました。
 
貞俊先生:ホントに “たまたま”。僕が言い出したわけじゃないよ。トランスレーショナル・リサーチに対する “想い”はずっと持ってきたけど。


“点”を繋いで“新大陸”発見へ

貞俊先生:振り返るとさ、僕は研究なんてよく分からずにこの世界に入ったんだよね。色んな人に出会い、叱咤激励されて、悔しい思いもたくさんしてきた。

で、ようやく今になって(トランスレーショナルリサーチセンターの仕事で)メチャメチャ忙しくなったけど、まったく苦にならない。だって、20年経ってやりたいことができるチャンスが巡ってきたんだよ!自分が(直接的に)仕掛けたわけでもないのに。
 
真吾先生:このプロジェクトが前田(貞俊)先生の発案じゃないって聞いてびっくりです!
 
貞俊先生:正直に言うと、僕が働きかけたことで形になったモノはこれまでなかったんだよ…(苦笑)昔から色んな企業に「これやってみませんか?」って提案してきたけど、全然進まなかったし…。
だから半分諦めてたんだけど、今になってすべてがつながった!

僕が修士の学位をとったのは糖鎖(*1)の研究なんだけど、東海国立大学機構(*2)に糖鎖研究の国際的な拠点が設置されたんだ。これもまた、「何かの縁?」と前向きに思ってます。

*1 グルコースやマンノース、フコースなどの単糖がグリコシド結合によって鎖状に連なったもの。糖鎖はタンパク質や脂質に結合して細胞の表面や内部に存在し、細胞の識別など様々な生命現象に重要な役割を果たす。
*2 岐阜大学と名古屋大学、二つの国立大学法人統合による国立大学法人

真吾先生:え!?前田先生って糖鎖の研究もしてたんですか?!
 
貞俊先生:そう。だから、糖鎖の研究も絡めて岐阜大学の強みを出して行こうと考えてるんだ。東海国立大学機構には糖鎖研究で世界をリードしている研究者が在籍しているので、そことも連携しようと思ってる。糖鎖って一部の人しか研究してない領域だから、これも、これまでやってきたことが「つながったな」と。
 
それから、TARC(ターク;*3)の研究も20年以上やってきて、「もういいかな?」って思うこともあったんだよね。でも、何かのきっかけでまたつながって今に至る(笑)。「切っても切れない」って言うか、面白いもんだね。

だからこそ、異分野で交流することに意味がある。全く違った側面から1つの現象を見ることで、ヒントをもらうことがある。

*3 アレルギー症状に関わるリンパ球に作用し、アトピー性皮膚炎などのアレルギー症状を悪化させるたんぱく質。CCL17とも呼ばれる。

真吾先生:僕も先生の下でTARCを研究していた時から10年経って、またTreg(*4)で今の研究につながっています。先生にも同じようなことがあったなんて、本当に面白いです。

*4 制御性T細胞とも呼ばれ、白血球の中で免疫反応を抑える役割を担うリンパ球の一種。

前回話したSharing Medicineも、先生はずっとおっしゃっていましたよね。それが今、(トランスレーショナルリサーチセンターとして)結実したっていうのは、僕自身(Tregをターゲットにしたがん治療の臨床研究)でも似たような部分があるなあ、と思っています。

--:失敗も含め、やってきたこと、経験してきたことすべての「点と点が線でつながる」ような時が来る。そんなことを、Season2の茂木朋貴先生やSeason3の佐伯亘平先生が共通しておっしゃっていました。前田(真吾)先生の移行上皮がんや前立腺がんの臨床試験もそうですよね。

トランスレーショナルリサーチセンターが設立されたことで、前田(貞俊)先生は点と点が線でつながった先に“新大陸”(*5)を発見されたということですね。その大陸で、前田(貞俊)先生の目指す宝物に向かって、今まさに冒険している。それはすごくワクワクしますね!

*5 VET X TalksのSeason1(水野拓也先生との対談)で、獣医学研究で未知のものを探すことを「新大陸を探す航海」に例えた。


エネルギーは情熱

出典: https://www.amazon.co.jp

貞俊先生:そう簡単にはうまくはいかないでしょう…。でも、一歩一歩進んでいます。そうはいっても僕、本来はせっかちな人間なんです。前田君ならわかると思うけど(笑)
 
真吾先生:ですね(笑)せかせかしながら、フリスクをシャカシャカ食べている姿を覚えています(笑)
 
貞俊先生:フリスクは今でも大好物(笑)せっかちだから、すぐ答えを知りたいんだけど、簡単には知れないじゃん。だから、それ(≒知る努力)を継続していかなきゃならない。

それには、やっぱり情熱だよね。留学した時だって、「何とかなる」って英語が喋れないのに行ったからね。知りたい、やりたい、見てみたい、っていう気持ちが強くて飛び込んだ。
 
真吾先生:むちゃくちゃ大事ですよね!実際にやってみたい、見てみたいって言う気持ち。
 
貞俊先生:で、今はやることがいっぱいあるんだけど、ホントに充実してるね。53(歳)になって、こんなに充実した生活を送るって想定していなかった。この話(トランスレーショナルリサーチセンター構想)が出てくる前は、「このまま朽ちていくのかな~」って…。
 
真吾先生:前田先生の中でも点と点がつながった瞬間があったということを伺って、鳥肌が肌立ちました。このVET X Talksでも、人生における経験に無駄なものはないっていう話がよく出ます。前田先生のトランスレーショナルリサーチセンターは、まさに酸いも甘いも色んな経験があった先に具現化したということなんですね!

「実際にやってみたい、見てみたい」という気持ちをエネルギーに、色んな"点"を見つけて行く。その点がつながった先に、前田貞俊先生は「トランスレーショナルリサーチセンター」という新大陸を発見したわけです。情熱をもってコツコツ続けることって、やっぱり大切ですね。

次回は、新大陸を探す航海に重要な、「自分で考える」ということの大切さを中心に話が進みます。

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