犬と猫の多飲多尿について
「最近水を飲む量や尿量が増えている。」
比較的よく遭遇する症状で、そんな症状がある場合には実は病気が隠れている可能性があります。
これらの病気の中には初期には元気や食欲が正常なことも多く、
一見調子が良さそうに見えても安心できません。
今回は犬と猫で多飲多尿を引き起こす病気と、その中でも特に頻繁に遭遇する病気について解説していきます。
この記事は
ペットが中高齢に差し掛かってきたので、よくある病気について知っておきたい方
最近ペットの飲水量や尿量が多いと感じている方
に向けたものとなっています。
この記事を読むことで、
犬と猫の正常な飲水量と尿量について
多飲多尿を示す代表的な疾患について
知ることができます。
<犬と猫の正常な飲水量と尿量>
個体差やストレスなどによって変化はしますが、大体の正常量は以下の量になります。
☆1日の正常な飲水量
犬:体重1kgあたり90ml以下
猫:体重1kgあたり45ml以下
☆1日の正常な尿量
犬:体重1kgあたり20~40ml
猫:体重1kgあたり20~30ml
1日の正確な尿量を把握するのは難しいですが、飲水量はペットボトルなどに入れた水を器に継ぎ足していけば、1日で減ったお水の量を測ることが出来ます。
犬で1日1kgあたり100ml以上、
猫で1日1kgあたり50ml以上飲んでいるようであれば多飲と考えます。
ただし、元々あまり飲まない子が急に飲むようになった場合、正常範囲内の量でも問題である場合があります。
<多飲多尿を引き起こす代表的な病気>
多飲多尿を引き起こす代表的な病気には、
糖尿病
子宮蓄膿症
尿崩症
副腎皮質機能亢進症(主に犬)
甲状腺機能亢進症(主に猫)
高カルシウム血症
心因性多尿
慢性腎臓病
などがあります。
これらの中でも特に発生頻度が多い病気について簡単に解説します。
1)糖尿病
糖尿病は犬と猫で多飲多尿を引き起こす代表的な病気です。
猫では人間と同様に肥満との関連が指摘されています。
また、特に去勢オスでの発生頻度が高いとされています。
糖尿病は糖尿病性ケトアシドーシスという病気を併発して命に関わる場合があるため、しっかりと治療が必要な怖い病気です。
多飲多尿以外の症状として、多食や体重減少が認められることが多く、ケトアシドーシスを併発すると元気や食欲の低下・下痢・嘔吐・脱水などを引き起こします。
また、犬では糖尿病性の白内障を高頻度に併発します。
治療の基本はインスリン治療となります。
他に併発疾患などがなければ予後は良好ですが、生涯にわたってインスリン治療が必要となることが多いです。
ケトアシドーシスの場合は緊急的な入院管理下での治療が必要となります。
2)副腎皮質機能亢進症(犬)
クッシング症候群とも呼びます。
副腎皮質という場所からコルチゾールという物質が過剰に生産されることで色々な症状を認める病気です。
原因には主に2通りあり、
1つ目は副腎にホルモンの分泌を促させる働きをしている下垂体が腫瘍化(主に良性)することで、副腎に過剰なホルモンの放出命令が出ることで生じるもの。
2つ目は副腎そのものが腫瘍化することで自律的に過剰なコルチゾールを放出するものです。
多飲多尿以外の症状としては、多食・腹部膨満・筋肉の萎縮・皮膚が薄くなる・毛が薄くなる・呼吸が荒くなる(パンティング)などがあります。
治療は原因によって違いますが、
下垂体に問題のある場合は、内服薬による管理・下垂体に対する放射線療法・下垂体切除などが選択肢となります。
副腎腫瘍では外科的な副腎の摘出が第一選択となります。
適切な治療が実施できればどちらも予後は良好であると考えられています。
3)甲状腺機能亢進症(猫)
主に高齢の猫で認められる疾患で、頸部に存在する甲状腺から過剰な甲状腺ホルモンが分泌されてしまう病気です。
甲状腺ホルモンには全身の代謝を促す作用があるため、過剰に分泌されることで全身の代謝が促進されて様々な症状が出ます。
すごく食べてる(多食)のに、体重が減少してくるというのが代表的な症状ですが、食欲が低下する子もいるので、そこだけで判断はできません。
その他では、嘔吐や下痢といった消化器症状・ウロウロ落ち着かない・攻撃性の増加なども認めることがあります。
治療には内服薬による管理や食事療法などがあり、外科的な甲状腺摘出が実施される場合もあります。
高齢の猫で生じやすい病気のため、重度の慢性腎臓病を併発していることもあり、その場合にはあまり予後は良くないとされています。
重度の慢性腎臓病の併発がなければ、一般に予後は良好です。
4)子宮蓄膿症
避妊手術をしていない犬猫で認められる子宮の感染症で、子宮内で細菌(多くは大腸菌)が増殖することで膿が溜まってしまう病気です。
猫では少なく、比較的犬で多い病気です。
多飲多尿以外の症状として、元気や食欲の低下・腹部膨満などがあり、子宮に溜まっている膿が外陰部から出てくる開放性の場合と、出てこない閉鎖性の場合があります。
閉鎖性の方が症状が重篤になることが多く、発見も遅れがちです。
治療は速やかな外科的摘出(子宮卵巣摘出)が最も安全かつ確実です。
麻酔をかけることのできない場合などではホルモン剤と抗菌剤による内科的治療が行われる場合もありますが、一度良くなっても再発する可能性があります。
発見の遅れなどから症状が重篤な場合には特に命の危険がある病気です。
5)慢性腎臓病
犬・猫どちらでも多くの症例で認められ、特に高齢の猫に多い疾患です。
腎臓は糸球体という場所で血液から老廃物を濾過し、尿を生成します。
そこで濾過された尿を原尿と呼び、その中には生体に必要な成分(水分・電解質・ブドウ糖など)も含まれているため、次に送られる尿細管という場所で必要な成分を体に再吸収します。
慢性腎臓病の初期には、この尿細管による水分の再吸収が不十分となり、たくさんの薄い尿が出ます(多尿)。
それにより、飲水量も増加します(多飲)。
慢性腎臓病は、その原因・ステージ・高血圧の有無・タンパク尿の有無などによって治療は異なりますが、
主に食事療法・投薬治療・点滴などが治療のメインとなります。
<まとめ>
飲水量・尿量が増えたら病気の可能性があるため、元気でも様子を見るのは危険
少しでも気になったら実際に飲水量を測定してみよう!
多飲多尿を示す疾患の中には命に関わるものも多数存在する
犬では特に糖尿病・副腎皮質機能亢進症・子宮蓄膿症が多い
猫では糖尿病・甲状腺機能亢進症・慢性腎臓病が多い
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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