だから仮病と言われてしまう
妙な熱が続いています。
微熱とも言えない、でも高熱でもない。これは病院にいけば熱と判断されるだろうかな、というとっても中途半端な熱です。
咳も出ない、頭痛もない。節々の痛みもないのです。これは風邪ではないかもしれない。
思いっきり高熱が出たら出たで、もうぐったりと眠れますし、微熱ならそれなりに動いて解消できますが、この感じは初めてです。
やりたいことがあり、動きたいのに身体がついていかない。じゃあゆっくり休むか、というと眠れない。
さて、夕方が近づいてきますとそわそわします。夕食が問題です。
うちは、掃除や洗濯、犬のお世話なんかはみんなで分担をしていますが、料理に関しては私だけがやります。
できないわけじゃないけど敢えてやらない、という人たちだと思っていたので、私が体調を崩せばなにかしらは食べていけると思っていました。
それがなんと、カレーの作り方も忘れてしまったようです。
うちの家族は放っておくと家計なんて顧みずになんでも買いたがります。
今回も、私が作れないことをいいことに、こういう時こそテイクアウトだろう!と盛り上がります。
うちは保護犬を迎えてからまだ三ヶ月しかたたないので、家に一人残せません。なので、外食ではなくテイクアウトです。
私が主役なのだから、私が食べたいものを採用しよう。
と家族は言います。私の家では、誰かが体調を崩すとなぜかその人は主役と呼ばれます。
好きな食べ物を好きなだけ用意してもらえるからです。
一方で私はまったく、食べたいものが浮かびません。
私に食べたいものがないなんて、こんなおかしなことはそうそうないでしょう。
いつも我慢しているものはどう、と聞かれ、ポテトチップス、アイスクリーム、とんこつラーメンと、いろいろ思い浮かべてみました。しかし、まったく胃の中に入れたいと思わないのです。
強いていうなら、カレーうどんかなあ。
柔らかくて味の濃いものが良さそうです。
しかし、カレーうどんをテイクアウトしている店は見当たりませんでした。もううちで作っちゃったほうがいいのでは、という流れになった時。
ふわふわのチャーハンが食べたい。
ふと思いました。つい最近、東京に詳しい友人に、とてもおいしい小さな町中華に連れて行ってもらいました。
そこのエビチャーハンが忘れられないのです。
エビと、小さく散った卵だけが入ったチャーハン。同じものがあるわけではないけど、それを想いながらまた食べたい。
なんだかこうやって改めて書くと、ぐったりはしていながらもやはり食い意地がすごいです。もうチャーハンしか食べたくない、そんな頭になったころ。
町のすみっこにあつラーメン屋を見つけました。どうもチャーハンが人気なようです。すぐに母と弟が車を飛ばしました。少しすると電話がかかってきて餃子とチャーハンをテイクアウトする、と言われました。
つづいて、もつ焼きとメンマがあるがどうするか、と聞かれ
それもお願いします。
と叫びました。あとで聞けば、母はその声を聞いた時に
こいつ、果たしてもう治っているのでは。
と疑ったそうです。
駐車場に車が入る音がして、私の胃は動き始めました。弟が下げたテイクアウトの袋からはラードのいい香りがします。あつあつの箱を持ち上げると期待はすっかり膨らみます。
開けるとふわふわのチャーハンがしっかり詰められており、おおお、と声が出ました。私はこういうとき、皿に分けずにケースからいただくのが好きです。さっそく、食べ始めることにしました。
スプーンをさすと、さきほどまで黙っていたチャーハンも風船が弾けるように湯気を出しました。米粒どうしはよい距離感を保ち、持ち上げるとそばからほろほろと崩れます。
スプーンにふんわりと残ったものたちを口の中にひょい、と入れると先ほどまでの気だるさが嘘のよう。ほどよい塩加減に喉が踊ります。米にまぎれた卵や小ねぎの風味が塩味を追いかけるように香ります。そして、次の一口。止まらず食べました。
それだけ食べるなら、すぐに治るだろう。
はじめはそんな風に笑っていた家族たちも、餃子やもつ焼きを続けて口の中へ入れる私を見て、少し恨めしそうに言葉を変えました。
そんなに食べるなら、もう治ってんじゃないの。
こんなときでもよく食べるから、すぐに仮病を疑われるのです。
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