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白昼のセサミクッキーが私を救う

考え事をしていた。

ぼーーー・・・。


たぶんこんなことを考えていたと思う。私は、何がしたいんだろうか。私はこれからどうなっていくんだろうか。


そんなことは、考えても何も解決しないということは承知のうえで、それでも頭から離れない問いたちに目を回されて、はっと覚めた。


絵を描いているところだったけれど、こんな風では仕上がらないと思い、早々にあきらめてクッキーを焼くことにする。どんなクッキーがいいか、と考えている時間。こんなにワクワクすることはほかにないんじゃないか。


ふと、幼いころに食べたセサミクッキーを思い出した。


確かあそこはパン屋さんだったっけ。デニッシュが有名なパン屋さんで、ブルーベリーデニッシュを買うために長蛇の列ができていた。私の母が、一度思い立ち、そこでデニッシュを買うといって出かけて行ったのについていったのだ。


店内に入ると発酵バターの濃い、いい香り。甘酸っぱい果物ジャムの匂いも重なって、おなかが鳴る。見回すと、デニッシュ、デニッシュ、デニッシュだらけで、目がぐるぐるする。少しデニッシュから離れてみたい、と隅っこのほうを見に行ったらクッキーがあった。セサミクッキー。丸くて、少しポッコリとしたクッキーの上面に、びっしりと小さなごまが集まるようにしてのっている。


はい、みんな集合~!わーい!


みたいなかんじで、うれしくなって、母にそのクッキーを買ってもらうよう頼んだ記憶がある。確か4枚ほど袋に入っていて、かわいいリボンで結ばれているようなパッケージだった。


帰り道、車の中でそれがうれしくて、何度も「食べていい」と聞いたはずだ。私の母は、食べていいか、と聞いたときに絶対にダメとは言わない人で、もうちょっと待ってて、とか、ご飯が食べれなくなるでしょ、とか言ったことがなかった。


いつでも、「食べたいなら食べな」という。


でも、そのリボンを解いてしまうのがなんだかもったいなくて、食べていい、と言われてもその封を開けなかった。家でこっそりと秘密基地(キャンプ用のテントを床の間に組み立ててそこを秘密基地と呼んでいた)に入って、一人隠れるように食べたのを思いだす。





小さいころに出会った食べ物というのはどうしてあんなに面白いんだろう。どうしてあんなにいとおしくて、いつまでも覚えているんだろう。記憶の中にあるたべものを決して超えることができないと知りながらも、今日も思い出して作ってしまう。そんなクッキー、1枚。




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