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tensorXの櫻井さんを講師に招き、ファシリテーションの基礎を学びました

担当:谷弘

ファシリテーターはどんな役割をする人のことでしょうか?

今回の講師、櫻井亮さんが投げかけた最初の質問です。

会場からは、「場づくりの責任者」「あるべき方向にコントロールする人」などの意見が挙がりました。
「ファシリテーター」という言葉を知っていて、そのイメージを説明できる方は多いと思います。しかし、具体的にどのようなことをするのか、気を付けるべき点などはすぐに浮かばないのではないでしょうか。

ファシリテーションは、価値観の異なる人たちと対話をし理解を深めるために非常に有効な手段です。very50のミッションである「途上国でリーダーシップを発揮する人材」になるため、役に立つスキルになることでしょう。

今回のイベントではtensorX櫻井亮さんを講師に招き、ファシリテーションの基本を学びました。

◆ワークショップの始め方も設計のうち。

ファシリテーション講座は、その場にいる全員の自己紹介から始まりました。一人ひとり、名前と今の気持ちを伝えていきます。

驚いたのは、櫻井さんは「自己紹介もファシリテーターとしての設計です」という話をしたことです。

ファシリテーターで大切なのは、現状をどう仕切るか事前にどう考えるか。

今回は前者を意識し、アドリブで自己紹介を入れたとのこと。会場に集まった参加者の様子を観察して「空気が堅そう、全員が知り合いではなさそう」との雰囲気を感じ取ったからだそうです。

確かに全員が話したことで、張り詰めていた雰囲気が少しだけ緩んだように感じました。場の空気でさえも「設計」というファシリテーションで変えられることを実感することとなりました。


◆ファシリテーターとは何だろう?

冒頭の「ファシリテーターの役割とは?」という質問から本編が始まります。いきなり発言を促され、参加者は少し固い表情。

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しかし、講師の櫻井さんが「なるほど、管理するイメージですね」と発言に対するコメントを返していたため、受け入れられている安心感を覚えたのか、どの参加者も堂々と発言していました。

その後、櫻井さんにファシリテーターについての説明いたただきました。

◇ファシリテーターとは何か?
「触媒」である。
単体で存在しているよりも、熟成させ深みを持たせるために存在するほうが価値を生み出せる。ファシリテーターがいることで楽しく終わる、質問されて思わず考えてしまうような環境をつくることができる。

「出汁」である。
全体の中で調和して良い味を出すことができる。
人によって味の出し方は異なるが、前に出すぎるとアクが出る。

また、ファシリテーターは役割が動的に変化するものとのこと。

コントで相手の反応を見てどう振る舞うかを決めるときのように、状況により必要な役割が変わっていくからです。

そのため、状況に合わせて話の方向性を変えられる人はファシリテーターに向いているといえそうです。

◆ファシリテーターの目的

もしファシリテーションを使わずに議論すると、どのようなことが起きるのでしょうか。

起承転結のどこかが抜ける、と櫻井さんは言います。

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例えば「結論が出れば問題ない」と考え、議論していた場合。

結論を出すため、多数決で決めることがあります。確かに多くの人の意見を取り入れることができる方法です。しかし、他の案を支持していた人の考えは意思決定に組み入れられなかったことになります。

一方で「全員が納得する」まで議論をしていた場合。

全員の意見を反映した結論を出せるかもしれません。しかし、そのために何時間も議論していて良いのでしょうか? 長時間の話し合いで、脇道に逸れたり本題に関係ない話をしていたりする可能性もあります。

誰かの意見を取りこぼすことなく、時間を無駄にせずに結論を出す。

そのために使うのが、ファシリテーションです。


◆ワーク:ファシリテーションのトライ

これまでの解説を踏まえ、実践に移ります。
4つのグループに分かれ、グループごとにひとりのファシリテーターを決めました。

お題は「海外で通用するためのリーダーシップについて考えてみよう」です。

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話し合いの方法はグループによって異なっていました。

いきなりファシリテーターが問いを投げ、話し合っているグループ。

一人ひとり考えをメモにまとめる時間をとった後に発表し合うグループ。

どの班も積極的に意見が出ており、場が暖まったところで終了です。

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櫻井さんは、初回のワークのテーマを「参加者の話したいこと」に設定したそうです。その理由は議論の内容が話したいことだとファシリテーションを忘れがちであるため、それを体感してもらいたかったから。

先ほどの話し合いに思い当たる部分があったのか、参加者は少しハッとした表情をしていました。

「議論を進めるため、ファシリテーターはファシリテーションと議論を行き来することで場を俯瞰して見ることが重要です」との説明がありました。

次に「今の議論で自分はどんなことをして、何に注意したのか」をグループで話し合う時間が設けられました。

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「いつの間にか全員でファシリテーションしてましたね」「話したい人は口が少し開くので、見逃さないようにしてました」などのコメントが行き交っていました。

前のめりになって聞く人、発言に対し大きくリアクションをする人、身振り手振りを加えて話す人、メモする人……それぞれが思い思いのかたちで議論に参加していました。


◆ファシリテーターが把握すべき8つのポイント

ファシリテーターが把握すべきポイントはさまざまなものがありますが、8つポイントがあるとのこと。下記に内容をまとめました。

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◇ファシリテーターが把握すべき8つのポイント             
                                   ① 参加者と呼吸をあわせる
議論の場では参加者の特性と相互関係をつかみ、柔軟な対応が必要です。
特性は、「課題に対する知識量・課題に対するベクトルの方向性・性格・バックボーン」の4つが挙げられます。
 
② プロセスをデザインする
効率の良い話し合いをするため、議論の出発点と到達点を明確にすることが重要です。また、話し合いだけでなく休憩を入れるなどの緩急をつけることも必要です。
 
③ 場をコントロールする
議論が迷子にならないように、論点の把握と整理が必要です。「論点を広げる・ 論点を絞り込む・ 論点を深める」のプロセスのうち、どこに該当するのかを確認しながら議論しましょう。
 
④ 合意形成する
意思決定をするには、場全体の合意が必要です。
どうしても納得できない人がいた場合は適宜フォローしましょう。ファシリテーターが「納得していないことを理解している」と伝えるだけでも、その参加者の腹落ち感が異なります。
 
⑤ 修羅場の抜け方
意見の衝突を乗り越えることで、良いものが生まれる可能性があります。
メンバーどうしで意見をぶつけ合うことも良いのですが、決裂する前に止めることが必要です。
 
⑥ 環境設計
集中できる環境を作りましょう。暑さ寒さなどの調整も必要です。
 
⑦ 主体性を引き出す
参加者には、会議を自分ごととして捉えてもらうことが必要です。
誰かのモチベーションが下がって全体に影響を与えてしまう前に、全員が主体的になっているかを確認し、必要に応じてフォローすることが必要です。
 
⑧ マインドセット
常に参加者とフラットであることを心がけましょう。


◆ファシリテーターがおさえておくべき要点①2つの理解


ファシリテーションをするうえで、理解しておきたいことはどのようなものがあるのでしょうか。2つ理解すべき点があるとのことです。

1つめは、内容の理解

これから話し合われる議題の内容を理解しておく必要があります。自分の知らない領域のファシリテーションはできないと考えた方がよいです。

2つめは、ファシリテーションの理解

まず必要なのは、時間とプロセスの最適化です。会議の中で話し合うべき議題を、どのように時間配分しどのような順番で進めていくかを決めます。話し合いの枠組みを明確にしておくことで、時間を有効活用することができるようになります。

さらに、発散と収束の最適化も必要です。議論は発散、収束、決定の繰り返しで結論が導き出されます。議論のフェーズに合わせて、今必要なのは発散なのか収束なのかを判断することが必要です。


◇発散と収束のポイント
 
①発散
意見の量を増やすのが重要なので、判断を保留することが必要です。
「お金がかかるから」などの意見を言うのは、意見の幅を狭める「判断」です。意見を出すうえのルールとなってしまうため、控える必要があります。
量を確保するために集中力を持って取り組みましょう。  
 

②収束
決定するために意見を整理することが重要です。そのため、意見を増やさないようにする必要があります。
意見の構造化と適切なタグ付けができているかを確認しましょう。

内容を理解し、適切なファシリテーションの仕方を理解することで、効率的な議論を進めることができます。


◆ワーク:発散に関する違いの体感

議論の中で、さまざまな意見を出していく「発散」のフェーズがあります。

ワーク形式で、全肯定した場合と全否定した場合の二種類の発散を体感しました。

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まず、全否定のワークからです。

お題は「全員が500円を出して分配する方法」。

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話し合ううえでのルールは下記の二つです。

◇ 「全否定」のルール
① 出された意見をすぐに否定する
② 「いや」「でも」を多用する

誰の意見であっても否定しなければいけないルールの中、最初は少しやりづらそうにしていながらも、「それは嫌だ!」「でも……」といった言葉を多用していました。

しかし、時間が経つにつれて「それではだめだと思う。……でも本当はとても共感しました」と思わず肯定の言葉をこぼす参加者もちらほら。

否定するポイントを見つけるのも難しくなってきたのか、発言と発言の間が少しずつ空くようになってきたところで終了しました。

次に、全肯定のワークです。

お題は「思わず集まりたくなる同窓会」。

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全肯定の話し合いにも二つルールが設けられました。

◇「全肯定」のルール
① 合いの手で皆を乗せる
② 人の意見に乗っかり拡げる

始まってすぐに「いいね!」「わかる~!」「さすが!」というポジティブな声が聞こえてきました。先ほどは肯定する言葉を制限されていたため、素直に共感したい気持ちになっていたのかもしれません。

全否定のワークに比べると笑い声があがりやすい印象も受けました。会話が盛り上がり、会場がにぎやかな雰囲気になってきたところでワークは終了です。


二つのワークを経てチームでワークを振り返った後に、全体で意見や感想を出し合いました。コメントには以下のようなものがありました。

◆全否定について
・否定された意見と似た意見は出せない
・新しい意見を出さなくてはと思う
・質の良い意見を出せた
・議論で当事者意識を持つことができる
 
◆全肯定について
・変わった意見でも、現実的な方向へ考え直すことができる
・雰囲気がポジティブになる
・最初の意見に乗り続けるので、方向転換できない

どちらの場合も、良い点も悪い点もあったことがわかります。

肯定と否定の良いところを活かすため、「まず本気で意見を受け止める」「転換できるように質問する」の二点を気を付けることが重要になります。


◆ファシリテーターがおさえておくべき要点②3つのモード

ファシリテーターと聞くと、ぐいぐいと前に進める人をイメージしがちです。しかし、ファシリテーターは議論の状態に合わせて3つのモードを使いわけると良いそうです。

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1.コンサルタント

「新しい景色を見せる」モードです。

議論で足りていない部分を気づかせ、議論を前に進めます。

例えば新規企画についての議論で法的な視点が抜けていた場合に「このアイデアは法的に問題がないですか?」などの投げかけをします。

2.コーチング

「目指した場所への後押し」をするモードです。

メンバーがそれぞれ別の話をしていたり、議論が繰り返しになっていてなかなかゴールに近づくことができていない状況で使えます。

「今大丈夫?」「今話していることは3つあるね」など、客観的に現状を言葉にして伝えることで現在位置の確認をするきっかけを作ります。

3.カウンセリング

「マイナスからの浮上」をするために必要なモードです。

企画を発表したらクライアントに否定ばかりされてメンバーが落ち込んでしまったような場合に使えます。

「クライアントが否定するのは、もっと良いものができると期待しているんじゃないかな」など、事実を解釈を変えて伝えます

時には現状復帰ができるまで待つことも必要です。

人によって得意なモードと苦手なモードがあるものですが、苦手でも全部できるようになるとファシリテーターとしての幅が広がるとのこと。

櫻井さんは「自分ができることではなく相手が求めているものを出すつもりで使うと良いですね」と3つのモードの説明を締めました。

◆振り返り:期待を超えようとせず、期待を裏切らないことを心がけよう

3時間の講座の終わりが近づいてきました。終盤になるにつれ、会場はどんどん活発な雰囲気になっていきます。

櫻井さんの説明の途中で質問が出るようになり、質問や投げかけに応えるスピードも速くなりました。

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振り返りの時間では、櫻井さんから「山登りのガイドを目指してください」との言葉をいただきました。山登りのガイドもファシリテーターも参加者に干渉しすぎず、ゴールを目指すためのフォローをすることが重要だからです。

最後に「期待を超えようとせず、期待を裏切らないことを心がけよう」との話もありました。メンバーはファシリテーターに期待しているものです。しかし、期待を超えようと無理をするとしんどくなります。そのため最低限求められていることに応えることを目指し、期待を裏切らないようにすることが大切になります。

今回のファシリテーション講座では、すぐにでも使える知識を共有していただきました。しかし「わかる」と「できる」の間には大きな壁があるものです。いざやってみようと試みて、上手くできない可能性もあります。
そんなときこそ「期待を超えずに裏切らないことを心がける」という言葉がファシリテーターの支えになるのではなるのではないでしょうか。

できる限りのファシリテーションをする機会を重ねていけば、きっと少しずつ自分の力をつけていくことができるはずです。

写真撮影:伊賀 有咲

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