琵琶湖のそばの少年_大海を知らず

村人たちが生み出す知恵 ー インドネシアの村落で見た住民主導のコミュニティ開発 ー

担当:北野

 新年おめでとうございます!スタッフ北野です。

 very50は、年末年始にかけて開催されたカンボジアMoGの全プロジェクトを無事に終え、帰国早々、次なる春・ゴールデンウィーク・夏のMoGに向けて動き出しました。今年も皆さんと共に、ますますオモシロイ活動をたくさん仕掛けていけたらと思います。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 さて今回は、私が2019年10〜11月、博士論文執筆に向けたフィールドリサーチで訪れたインドネシア・ボゴール県のとある村落の様子をお伝えします。

※博士論文への挑戦については、過去記事にまとめましたので併せてご覧ください。

【博士論文に挑戦しようと決めた理由】
前編: https://note.com/very50/n/n976e42850c9e
中編: https://note.com/very50/n/na7c335bf4d9c
後編: https://note.com/very50/n/ne95142da3647


村人の・村人による・村人のための「エコ・ヴィレッジ」

 インドネシア・ボゴール県は、首都ジャカルタから南へ約60キロ程のところに位置しています。今回のフィールドは、ボゴール県チビノン郡の中にあるいくつかの村落です。チビノン郡はボゴール県の政府機能が集まっている場所で、中心地にはオフィスが並び、近くには大きなショッピングモールもありますが、中心地から少し離れると、伝統的な農村風景や貧困地域が広がっています。

 今回はそんなチビノン郡のいくつかの村落を訪問し、人びとが自主的に展開している「エコ・ヴィレッジ」の活動を見学し、村の人びとからお話を聞かせていただきました。

写真①

 「エコ・ヴィレッジ」の活動は、ボゴール全域の環境をより良くし、美しい村づくりを実現ために取り組まれているものです。ゴミの分別やリサイクル活動、生ゴミを利用したコンポストによる有機栽培農業の促進など、村落各地で様々な取り組みが展開されています。

 ボゴール県政府がこの活動を推進していますが、村落に対する物資面・金銭面での支援はほとんど行っていません。県政府が行うのは、各村落を代表するファシリテーターをセミナーへ招待し、ゴミやリサイクルについての基礎的な情報提供を行うところまで。その後の具体的な活動の運営は、資金確保の方法を考えることも含めてすべて、村の人びとによる自主的な活動に委ねられています。

 今回、村の人びとからお話をお聞きする中で、とても興味深いポイントをたくさん学ぶことができました。その一部をここに簡単にまとめておきたいと思います。

写真②

お互いに助け合う心(「ゴトン・ロヨン」)

 「エコ・ヴィレッジ」としての取り組みは、毎週決まった曜日に各家庭からプラスチックゴミを持ち寄り分別してリサイクル業者へ出荷したり、各家庭で集めた生ゴミを持ち寄って作った肥料を用いて野菜やフルーツを栽培して日々の食糧の足しにしたり、空き缶にペイントをして観葉植物のプランターを作り道路沿いの壁に吊るしたりなど、様々な活動が行われていました。

 人びとの暮らしはだいたい最低賃金あるいはそれ以下の所得水準で、見渡す限り、家や村落も決して綺麗とは言えない、いわゆる貧困地域です。「お金が支払われないのに、人びとが活動に参加するのはどうして?」そんな素朴な疑問を投げかけた私に、人びとが教えてくれた言葉、それは「ゴトン・ロヨン」でした。

 「ゴトン・ロヨン(Gotong Royong)」とは、ボゴール県が位置するジャワ島で伝統的に受け継がれている慣習です。近隣に住む人びと同士や友人、近い親戚などの間で、金銭のやり取りをせずに行われる自発的な相互扶助のシステムを意味します。〔参考文献①〕

 もともと農耕社会での慣習として、井戸堀りや婚姻儀礼、家屋建築などの際にお互い助け合う形で行われていたものでしたが、経済発展を遂げた現代において、特に都市部などでは、実際の慣習としての機能は薄れてきている側面もあるようです。しかし、今回訪れた村では、人びとの中に「ゴトン・ロヨン」がたしかに受け継がれていて、この「エコ・ヴィレッジ」の活動が、村をより良くするためにお互い助け合おうという心によって成り立っているということがわかりました。

写真③

リーダーたちの「三種の神器」

 こうした「ゴトン・ロヨン」の精神を、具体的な活動へと落とし込んでいくときに重要な役割を果たすのが、活動を引っ張っているリーダーです。たいていは町内会の会長さんやその奥さんが率いていることが多いのですが、お話を伺うと、”町内会会長”という立場に物を言わせるだけでは決してない、確固たるリーダーシップの姿が見えてきました。

 何名かのリーダーからお聞きした話をまとめると、3つの重要なポイントがあるように感じました。それは、1)村にとって必要な活動をやるんだ!というパッション、2)良さそうだと思うことをまずとにかくやってみる行動力、そして、3)人びとを巻き込みながら活動を築き上げていく忍耐力、の3つです。いわばリーダーにとっての「三種の神器」です。

 あるリーダーは、県政府から情報提供を受けたあと、村のあちこちにゴミが落ちている様子を見て「これは何とかしなければ」と思ったそうです。そこからすぐに人びとへ声をかけて、毎週金曜に集まり皆で話し合う場を作ったとのこと。皆で集まるようになってからは、人びとから出たアイディアを一つずつやってみて、失敗したら考えて、またやってみて、を繰り返して今に至るのだそうです。リーダーは、活動の更なるアイディアを求めて、県政府のホームページを見たり、SNSやyoutubeなどで事例を調べて共有したりしているそうです。

 村の人びとに話を聞くと、「リーダーが熱心に調べたり活動したりする姿を見て、私達も力になりたいと思った」という声がいくつもありました。リーダーの情熱と行動力が信頼に繋がり、人びとの行動を引き出しているということを実感しました。

 リーダーへのインタビューの最後に、「人びとを活動にうまく巻き込むコツは何ですか?」と質問をしたところ、返ってきた答えは「3S(ティガ・エス:3つのSという意味)」

・・・え、3つのSってどういう意味?

 その答えは、「Sabar, Sabar, Sabar(Patient, Patient, Patient:忍耐、忍耐、忍耐)!」でした。こんな3Sメソッド、リーダーシップに関するビジネス書ではもちろん見たことありませんが、きっとこれこそが、日々試行錯誤をしながら活動を率いるリーダーの本音なのだろうと思います。示唆に富む言葉に深く考えさせられました。

写真④

そこにはやっぱりイブイブ(おばちゃんたち)がいる

 活動を見学させていただいた中で、終始、圧倒されたもの・・・それはここでもやっぱり、イブイブ(おばちゃんたち)のパワーでした。

 村に到着すると、多くのイブイブが、歌や踊りで歓迎してくださって、手作りのお菓子や飲み物を山のように振る舞ってくださいました。また、こちらが質問するや否や(時には質問しなくても)、マシンガントークが始まり、活動のことやその背景を事細かに教えてくれます。こちらから積極的に質問しなかったとしても、大量の情報を喋ってくださるイブイブ。毎度、心から感謝の念ばかりです。一通り話が落ち着くと、決まって「写真撮っていい?」「私も私も!」と、セルフィーによるフォトセッションが始まっていきます。

 イブイブって、どうしてあんなにパワフルなのでしょうか・・(笑)。貧しい地域を訪問したはずなのに、気づけば大量のお土産(手作りのお菓子や揚げ物、プラスティック廃棄物から創られたバッグや帽子、観葉植物、採れたてのフルーツ、etc...)を両手に抱え、帰路についた次第でした。

 イブイブに比べて口数も存在感も断然少なかった貴重な男性陣にもお話を聞くことができましたが、「イブイブはすごいよ、Ayo!(ほら!)と言って、物事を先に進めるんだよ」。人びとがコミュニティ活動を推進する際に発揮されるイブイブのパワーは、これからも私にとって重要な研究課題であると改めて確信しました。

写真⑤

まとめ

 今回の訪問で私が目にしたのは、インドネシアの都市部と比べて決して裕福とは言えない村落において、自分たちのコミュニティをより良いものにしようと力を合わせ、行動し続ける人びとの姿でした。身近なところから世界を動かそうとしている、まさに「自立した優しい挑戦者」たちの姿を見た気がします。

 地元の人びとに息づく”知恵”や”力”については、学術領域においても、たとえばクリフォード・ギアツによる「ローカル・ノレッジ」(=場所に根付くわざのようなもの)、あるいは、ジェームス・スコットによる「メティス(実践的な民衆知)」(=日常的な経験によってのみ獲得される知識のこと)など、多様なフィールドで研究が深められてきています。〔参考文献②③〕

 私の見たフィールドにも、こうした”知恵”や”力”はたしかに存在し、人びとがコミュニティ開発を主導していくにあたっての重要な意義を果たしているように思いました。これからの村づくり、ひいては世界のあり方を考える、一つのヒントになるような気がします。

参考文献:
①セロ・スマルジャン、ケンノン・ブリージール(2000)『インドネシア農村社会の変容―スハルト村落開発政策の光と影』 明石書店
②ギアツ, クリフォード(1991)『ローカル・ノレッジ:解釈人類学論集』訳:梶原景昭他、岩波書店
③Scott, James C.(1998)”Seeing Like a State”, Yale University Press, London
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