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NEKO

終電で帰るいつもの駅。今夜は景色が違う気がした。

自転車置き場に向かう足がふわふわと浮いている。自転車の鍵の番号がなかなか合わない。

酔っている。
と自覚する。
このほろ酔いの感覚は、アルコールのせいだけじゃないことも知っていた。

自転車の鍵を外せたところで、運転は危険そうだった。
自転車を押し歩き、心地よい気分のまま空を見上げると、煌々と輝く満月。

「満月だ。」独り言を口にしてしまった自分に笑う。
私、本当にご機嫌だ。



小さな役だけど名前がついた。台本にもセリフが書いてある。たった3つだけど。

ーだから言ったでしょ
ーそんなんじゃない
ーへぇ・・・

一瞬で過ぎるセリフだけど。

本読みを終えた後、もっとちゃんと練習しようと“あいつ”に声をかけた。

下北沢の外れにある小さな公園で、あいつと二人で練習をした。
観客は野良猫

あいつは缶チューハイを2本持ってきていて、練習の後に二人で祝杯を上げた。

今度の役の話、芝居の話、将来の話、二人でいる時は話が尽きない。

そんなことよりも、私はあいつと話ができていればそれで良い。缶チューハイの祝杯よりもあいつの「良かったな」の言葉だけで酔えたんだ。


満月を見上げて、あいつに送ろうと、写真を撮った。

写真を送った。

「月が綺麗ですね」と添えて。

夏目漱石が“I Love you”を「月が綺麗ですね」と訳したことなんか、
あいつは知らないだろう。



「猫」


1)

帰り道
空を見上げると
大きな満月

「月が綺麗♡」
あなたに送った短いラブレター

既読がつかないままで
あなた きっと
別の人と会話に夢中で
月も見ていない


2)

道端で
猫が声上げる
小さな三毛猫

ゆっくりまばたき
「友達になって」
短いラブコール

通じ合わないままで
あなた きっと
通じ合うことなんてない
道端の三毛猫

悲しいわけじゃない
辛いわけじゃない
ただ
空回りするこの気持ちが

悲しいわけじゃない
辛いわけじゃない
寂しいだけ

ミャオ ミャオ ミュウ
寂しいだけ 
ミャオ ミュウ ・・・ニャオ


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