24-25アーセナル展望 ミケル・アルテタ論
今更という感じですが、備忘も兼ねて。
・ミケル・アルテタ論
まず、多少、他人と違う切り口で、アルテタという監督を語ると、アルテタが愛読書に、古代ギリシャ哲学のストア派の本を挙げていたことが個人的に彼の哲学の肝にあると思う。
ストア派、というと難しいが、現代ではストイックの語源だといえばわかりやすいだろう。一口に語れないが、禁欲的に自分の欲望や感情を抑える態度、厳格さが彼の基準にあることは、アルテタのアーセナルを見てきている人には明白だろう。元はたどれば、チームに厳格さをチームに持ち込んで成功したのが、アーセン・ヴェンゲルだったのだから、ヴェンゲルからアルテタという流れは単なる偶然でなく、必然的な流れなのだといえる。とはいえ、11-12シーズンで、文字通りのパニックバイで、セスクの代役としてやってきた彼の加入当初が記憶にある者としては、監督になるとは思いもよらなかった。
個人的に思うのは、冨安のインタビューを見ていると、「やるべきことをやるだけ」というニュアンスがよくあるように思う。それは、彼にもともとあったものなのか、分からないが非常にアルテタ的だなと思う。
・22‐23のアーセナル
23‐24のシーズンに語るにあたっては、遠回りなようだが、その前の21‐22シーズンについて簡単に触れなければいけない。
これまでの解任危機等を乗り越えて、伏兵として優勝争い、2位という躍進を遂げた21‐22シーズンで、アルテタがやっていたサッカーを簡単に言ってしまえば、ヴェンゲル時代の美しいパスワークのポストモダンなアップデート版だったと思う。
ペップから学んだモダンな要素としていくつかアップデートされているが、象徴的なのはジンチェンコの偽SBが起用であったし、そこからのサカ・マルティネッリの若き両ウィングの縦の速さと突破力を強調したサッカーがあった。
ただこのサッカーの限界というのも露呈していたと思う。
それは競馬で例えるなら、逃げ馬のような脆さ。しっかりブロックを組んできたチーム相手に先制できれば圧勝するのだが、逆転する印象はあまりなく、煮詰まってしまうというのが見受けられた。
特にアルテタの師匠と古巣にもあたるマンチェスターシティ相手には、いつも苦戦が強いられていたが、このサッカーが通じないと、決定的な差を見せつけられたのが、33節のシティ戦だった。
https://www.youtube.com/watch?v=o3Dadq-qLpw
・23‐24のアーセナル
23-24のアーセナルにとって、一番大きかったこと、といえばグラニット・ジャカのレヴァークーゼン移籍だったと思う。
ジャカが、アルテタアーセナルにとって象徴的な選手だったことは言うまでもないが、それは戦術面でも、攻撃のスイッチを入れるような役割の選手であり、大きな移籍、離脱だったと思う。
振り返れば、ジャカを売らなければとも思うが、本人の希望もあり、オーバー30の選手をそれなりの価格で売るというのは、いわゆる売り下手が続いたアーセナルにとって大事なことだったはずで、戦術面だけとって批判するのは間違っている。
22‐23のアーセナルは、ジャカの不在に大きく苦しんだ、と言わざるを得ない。アルテタは、ジャカの代わりをどう考えていたかというと、新加入のカイ・ハヴァ―ツでどうにかしようとしていたと思う。しかし、これはあまりうまくいかなかった、いや、ハヴァ―ツは基礎的な技術水準が高いのだが、ジャカのような守備的なファクターやミドルシュート性能は持ち得てないし、よくも悪くも器用貧乏的な感じがあった。
もう一つの課題となったのは、大金を払って加入したデクラン・ライスのアンカー起用。もともと、ウェストハムでアーセナルのようなポゼッションサッカーをしているわけでもないのが原因かもしれないが、アンカーの位置取りが低いことが多く、ライスの持ち運びがや攻撃性能というのがこのポジションに入るとあまり活きなかった。
結局この課題は、慣れもあると思うが、前者はCFでの起用、後者はアンカーではなくジャカの後継のような8番起用が増えたことによって解決したように思う。もちろんこの二人がこのポジションで出ることもあったが、出来ないわけではなく、アストンヴィラ戦のハヴァ―ツの出来などは白眉だったし、慣れも見込める。
このシーズンも結局去年と同じくプレミアリーグは2位フィニッシュなのだが、ビック6相手に負けなしと、内容面は大きく進歩していたと思う。特にシティにシーズン終盤優勝するために、かなり引いた守備をしたゲームはシーズンを振り返るに一番わかりやすいゲームだった。
https://www.youtube.com/watch?v=LS4bYjHVaj0
SNSなどで、散々、塩試合と書かれていたが、この塩化=守備的強度こそ、23‐24のアーセナルが昨シーズンまでと違って、ストロングポイントだった。22-23で言及したような、ハイプレス、ハイテンポで先行意識は相変わらずあるのだが、その先制した点をいかに守るの。かという点に。このシーズンのアーセナルは明らかにフォーカスしていたと思う。
それゆえ、攻撃的タスクを任せられていたはずのジンチェンコの試合出場はかなり減ったし、サリバとガブリエウの鉄壁を誇ったCBコンビはほとんどの試合に出場するという強行的な起用だった。
またいくつかの試合では、ウーデゴールが2トップ気味の位置をとって、ハイプレスをかける役割に回り、黒子的な役割で起用した。それゆえ、リーグ戦のゴール数は、15⇒8と半減している。ウーデゴールの役割を変えてでも、しぶとく粘り強いサッカーを志向していたということだ。
もう一つ強調すべきは、セットプレーでの得点パターンが多かったことだ。これは、セットプレーコーチのニコラス・ジョバーの影響が大きいと思うが、どうしても煮詰まったゲームの時にうまくいかないというそれまでの課題をこれが解決したと思う。ジョバー自体は、21-22シーズンから在籍していたのだが、慣れなのかとてもよくゴールが目立った。ジョバーのデザインはいくつものパターンがあって、おそらく、分析しても足りないのだが、とにかくあの手この手を使って、ガブリエウに当てるというのが目立った。その中で、象徴的なのはホワイトのキーパーブラインド作戦。ノースロンドンダービーは笑ってしまうぐらいホワイトに対して無警戒だったので、上手くいった。
惜しくも届かなったものの、昨シーズンのアーセナルは、明らかに塩と言われようが、守備の面から、課題だった勝負強さを手に入れようとしていたように思う。それは奇しくも、アルテタ政権の初期にあったものだった。
・24‐25のアーセナル展望
これを書いているときは、ミケル・メリーノの正式加入前だが、加入したものとして書いてみる。
カラフィオーリ、メリーノ、いずれにしてもこの二人の新加入選手に共通しているストロングポイントは、高さとパスセンスである。
特にメリーノに関しては、EUROのスペイン代表の劇的ゴールのイメージが直近では強いが、リーグ戦でも高さを生かしたゴールが見られる、控えのオプションとしての高さの役割もできれば、普通にインサイドハーフでのジャカ的な起用もできるこれ以上ない人材だと思う。
ある意味で、代わりに放出となったスミスロウに関して言及すると、スミスロウはどうしてもパスアンドゴーの連携の中で輝く選手であり、怪我もあり出れる機会が少ない中でそうした連携が次第に築けなくなっていったし、今のアルテタが求める守備のタスクなどの中で輝ける機会は残留していても少なかったと思うし、苦しいが仕方なさを感じてしまう。
カラフィオーリは、高さとパスセンスが買われてアーセナルに来たと思うが、偽SBというより、そのまま左サイドバックで、CBのような役割になるのではないかと思う。よく似ていると思うのが、昨季のマンチェスターシティのグヴァルディオルのタスクである。恐らく、シティがそうしたように、ジンチェンコの出番は大きく減ると思う。
よくアーセナルの課題として、CFとアンカーに関して補強が望まれているが、このポジションの選手のほとんどが、異常に高騰化していることは明らかである。その中で、どれだけ効率的な買い物ができるか、というのがエドゥとアルテタのアーセナルの課題としてある。その中で、それ以外のポジションであるこの二人を補強したのは、これまで述べてきたような課題の面からアプローチしたように思う。
・アルテタの課題
アルテタはヴェンゲルから継いだ意匠として、若手好き、若手をを育成してスターに育てあげるという面では、かなり微妙だと言わざるを得ない。これまで、アルテタ期でブレイクした選手は元々の評判があった上で活躍してきたからだ。
というより、時代が進み、若手人材に対する投資が進みすぎているので、同じことはできないのだと思う。
とはいえ、慰留したとはいえ、ヘイルエンドの神童チド・オビの流失、スミスロウの放出といったネガティブな面は目立つ。ただ、この辺もかなり投資していると噂がある。将来的な育成をしながら戦うというのは、アルテタがヴェンゲルのような超長期政権になるには欠かせない要素の一つだ。
ウーデゴールやライスといった年齢的に脂が乗った選手たちで、今シーズンは間違いなく勝ち取らないといけないだろう。
また、若手起用の一つとして、おそらくイーサン・ヌワネリは、今シーズンはかなり起用されるのではないかと思う。今から楽しみの一つだ。
参考文献・動画
https://www.arsenal-monkey.com/?p=91362
https://www.youtube.com/watch?v=iyhZapWV-UA
https://www.youtube.com/watch?v=Hj-VP9bcIw0&t=637s
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