研究ツールとしてのDynalist②―アウトライナーの使いみち
こんにちは。前回の記事ではDynalistを中心に、アウトライナーについて説明してきました。今回は、タイトル通りDynalistがどのように研究に使えるか考えてみたいと思います。
論理的に文章を組み立てようと思ったとき、アウトライナーで事前に文章の模型を作って論理の流れを点検することで、分かりやすく適切な文章に近づけることができます。
こうした機能を持つDynalistが論文やレポート執筆の際に有用なのは自明のことかと思いますので、今回は論文執筆以外の観点からDynalistの使い方を考察してきます。
単純に文章を書くこと以外に、アウトライナーにはどのような可能性があるのでしょうか。
〇資料整理
たとえば、ある論文を書くときに1950年代の日本における結婚観について調べる必要が出てきたとします(例はテキトーなので、実際にどんな資料が出てくるのかは分かりません)。
とりあえず手軽にやろうと思ったら、各種データベースで閲覧できる新聞記事などから調査に入ることでしょう。あるいは『婦人公論』や『婦人画報』といった女性誌の目次を追いかけていけば、必要な記事が見つかるはずです。
また、「結婚観」のようなテーマなら先行研究ですでに調査・分析がなされている可能性が高いので、論文や学術書も読むことになるかと思います。
なんやかんやで論文や記事を入手できたら、次はそれを整理しなくてはなりません。「片端からとりあえず読んでみます!」だと、あとから「えっと、あれってどの記事に書いてあったっけ?」とか「いろいろなことが言われていたのは分かったけど、何がポイントだったのかよく分からん」とかいう問題が発生するからです。
丁寧にやるなら、まず読んだ記事・論文の情報をEvernoteにメモしていき、タグをつけて後々のためにデータベース化しておくのがいいでしょう。あとから引用できるように、少しでも気になった文章はしっかり引き写しておきます。
しかしEvernoteに書き込んだだけでは、まだ断片的な情報の集まりがそこに存在するにすぎません。どんな情報同士がグループを成すのか、どんな順番で説明すれば読み手に伝わりやすいのか。集めた情報を構造化してく必要があります。そこでDynalistを使ってみます。
雑ですが、Dynalistで情報を構造化した体のアウトラインを作ってみました。このように整理をつけてみることで、記事同士のつながりや例外的な意見などが可視化されていきます。
僕は昔同じことをアナログでやっていました。適当な大きさのカードにアイデアを書きだし、手で並び替え、どのようなつながりがありそうかくっつけたり離したり……。
それも悪くはないのですが、デジタルでやった方があとから振り返るのが楽ですし、カードが散逸してしまうこともありません。
アウトライナーの強みである「文章の構造化」という機能は、情報整理でもいい感じに活躍してくれるのです。
※なお、アップデートでEvernoteでカード式表示ができるようになったという噂を耳にしました。また、scrapboxなどはカード式表示が売りのデジタルノートです。そのあたりの使い心地については、今後試してみてからここで書きたいと思います。
〇アイデアメモ
レポートやレジュメに関する思い付きを、最初からDynalistにメモしてしまうことでアイデアの位置づけをはっきりさせてしまおうという案です。
「最初から」と書いたのは、思い付きの類はメモ帳とかEvernoteにとりあえず入れてから、活用できそうか待つというパターンもありえるからですね。実際、自分の研究全体に関するアイデアとか、ふと思いついた単発のアイデアとかはDynalistでの構造化が難しい場合も多いので、Evernoteとかに入れとくのがいいんでないかとは思います。ただどこに書くにしても、「一元化のテーゼ」は守りたいところです。
逆に、すでにある程度の情報が集まってかたまりになってきているようなトピックに関しては、積極的にDynalistを使って追記していくことでどんどん膨らませることができます。
たとえばこれは、いつか書きたいと思っている「数を数えること」に関するnote記事のメモです。思いついた順に項目を付け加えることで、それぞれのトピックがある程度かたまりを成し始めました。本当は展開して下の階層もお見せしたほうがいいと思うのですが、これから書く記事のことですので一応上位階層だけの表示としています。
アイデアを単発で終わらせないためにも、トピックを立てて育ててあげるのはけっこうお勧めです。学生の方なら、レポートのアイデアなんかもこれでゆっくり膨らませることができます。
Dynalistはスマホアプリもありますので、出先でもすぐにメモできますよ。
〇タスク管理
千葉雅也さんやTak.さんがこだわって追及しているのがアウトライナーでのタスク管理です。「また千葉雅也かよ!」と言われるかもしれませんが、実際千葉さんはかなりツールの使い方にこだわりを見せており、それを積極的にTwitterなんかで公開しているので、登場回数が多くなるのも仕方ないのです。ホントホント。
Tak. いわゆるタスク管理アプリは使っていますか。 千葉 いえ、通常の業務はぜんぶWorkFlowyでやっています。以前はOmniFocusを使っていたんですが、Tak.さんも言われていたようにOmniFocusはもともとアウトラインプロセッサ指向で発想されていたはずなのに、だんだんそうじゃなくなってきていた。あるタスクについて補足的にメモをしていくことでサブタスクが自動的にできていく、そういう使い方が必要じゃないですか。でも(OmniFocusだと)それがやりにくい。 (『書くための名前のない技術 case 3 千葉雅也さん』Tak.・千葉雅也、Kindle位置373)
※ここで言われているOminiFoucusはタスク管理アプリです。あるタスクに対して関連タスクをまとめていくことができるのが特徴です。
千葉さんは各アウトラインをフォルダ分けしないというWorkFrowyの特性を使ってそれぞれのタスクをフラットに並べることで、仕事と日常をシームレスにつなげるという使い方をしています。ですが僕にはちょっとそういう使い方ができていないので、「あるタスクについて補足的にメモをしていくことでサブタスクが自動的にできていく」という部分に注目して考えてみます。
Dynalistはアウトライナーの特性上、あるタスクに対して積分化と微分化を促します。つまり、そのタスクがどういったタスクの下位分類に入り、どういったタスクを下位分類として持つのかを考えながらタスク管理することになるのです。
たとえば、書評を書く場合で考えるとしましょう。自分のなかでは「書評を書く」というだけだったタスクですが、下位分類を考えていくとさらにいくつかのタスクに分かれていきます。抽象的だったものが具体化されると言い換えてもいいです。
さて、本を手に入れて読むことができ、実際に書評を書く段階に入ってきました。実際に本を読んでみると、「書く」という作業の中に具体的にどのような内容が必要なのかわかってくることでしょう。それもタスクの中に落とし込んでいきます(アウトライナー的な使い方)。
「難問は分割せよ」と偉い人も言っていますが、このようにタスクを砕くことで一つ一つのタスク処理がスムーズになり、どれくらい時間がかかりそうかも見えてくるのです。
〇まとめ
今回は人気のアウトライナー、Dynalistについて考えてきました。全体を貫くキーワードは「構造化」です。文章の流れを構造化することで執筆をスムーズにするだけでなく、アイデアメモやタスク管理に応用することで、マクロとミクロの行き来を容易にしてくれます。
僕はまだやっていないのですが、このDynalistの性質を最大限活用できるのは研究計画を立てるときだと思います。「芥川龍之介における先行作家の影響」のような抽象的なテーマをどんどん砕いて細かくしていくことで、どんな作業をすればそのテーマを深めていくことができるのか明確になるでしょう。
これに限らず、Dynalistにはさまざまな応用の可能性を感じます。今後もいろいろと模索しつつ、より有益な使い方ができないか追及していくつもりです。