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研究ツールとしてのDynalist①―アウトライナーとはどのようなものか

こんにちは。今回はタイトル通り、研究ツールとしてのDynalistについて考えていきます。記事はいつも通り、①と②に分かれています。

Dynalistはアウトライナーの1つで、前回のDropboxに比べると、僕にとって論文の執筆に直接寄与しているツールとなっています。

今回はそのDynalistについて考えつつ、それが研究の中でどのように生かされうるかについて考えてみたいと思います。

〇Dynalistとは

先ほどから述べているように、Dynalistとはアウトライナーの1つです。そしてアウトライナーとは、文章を書くときなどに大まかなアウトライン(枠組み)の作成を補助してくれるツールのことです。

実際にどんな感じが見ていただいたほうが早いでしょう。下記は、僕が教育実習の指導案を作るときに書いたアウトラインの一部です。

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一番上に「いろいろ」とあるのはこのアウトラインが含まれているファイルの名前です。このファイルは、研究用のアウトライン以外の雑多な文章を書きたいときに使っています。

その下に「研究授業」とあるのが件の指導案のアウトラインです。ちなみに教材は、『大鏡』の「三舟の才」です。

※指導教員の方にアドバイスをいただいて構成が変更されたので、実際の授業はこのアウトラインから大きく姿を変えることになりました。

画面上に、それぞれ位置が同じだったり異なっていたりする●がたくさんあります。同じ位置にある黒丸は構成上同じ階層にある項目で、高い位置(横書きなので「高さ」というのは変ですが、左にある黒丸を「高い」ということにさせてください)にあればあるほど階層が上にあります。

たとえばこの指導案だと、「イントロダクション」「朗読」「文法」が同じ階層にあり、それぞれの内部に具体的な授業の展開が書かれています。「イントロ」なら藤原氏の話があり、その藤原氏の話の中で家系図を見るという活動がある、という構成です。

このようにして大まかな文章の枠組みを作っておくことで、実際の論文や資料を書く作業をスムーズにしたり、文脈を整理したりすることができるわけですね。

〇なぜアウトライナーを使うのか

アウトラインを事前に組み立てることは多かれ少なかれ誰もが自然にやっていることで、必ずしもツールを使わなければできないことではありません。

頭の中で文章の構成を組み立てる人もいるでしょうし、紙に書きだして考えてみる人も多いでしょう。デジタルの強みを生かすのでも、wordやメモ帳アプリを使うという手があります。わざわざアウトライナーを使う必要はあるのでしょうか。

この疑問を、2つの部分に分けて考えてみましょう。

①なぜツールを使う必要があるのか

紙に書くなりアウトライナーを使うなり、文章を作る上で外部のツールにまず構成を書きだす人は多いと思います。ではそもそも、なぜ頭の中だけ文章を作るのではなくツール使うことが有用なのか。それを考えてみたいと思います。

文章を書くときに多くの人が、頭の中だけで考えたのではうまく整理がつかないと感じるはずです(文章を書きなれていない人は、頭の中のイメージだけで文章を作ろうとして、結果的に脱線が多かったり文意が明瞭でなかったりすることが多いです)。なぜ頭の中だけだと整理がつきにくいのでしょうか。

意識的にいろいろなツールを試しながら執筆をつづけている哲学者の千葉雅也は、批評家の佐々木敦との対談で次のように述べます。

千葉   まさにそうなんですよ。外部化の問題、あるいは「他者性」の問題 ですが、自分 一人では考えられないことも、他者が介入することで実現できる。それは、人に対して話すという行為を考えると一番明確で、相手は生身の人間なのでリアクションをしてくれるわけです。笑ってくれたり、表情 が微妙になったりするから、自分の話がイケてるのかイケてないのかがわかる。他者との会話のなかで、考えを固められたり、揺さぶられたりする。でも、そこまで強い他者性じゃなくても、ノートに書いたり、アウトライナー に書くということにも、ある種の他者性があると僕は思っています。(千葉 雅也『メイキング・オブ・勉強の哲学』文藝春秋 Kindle版、 Kindleの位置No.861-866)

ツールという「外部」を導入することで、自らの思考に刺激を加え、同時に「有限化」していくことが重要なのだと千葉さんは説きます。「有限化」とは千葉さんがたびたび口にするキーワードの1つで、氏の文脈に則っていうならば、無意味的/偶然的な可能性の切断を指します。ここでは、ツールを制約として働かせることで、自分の思考に限定をかけ、整理をつけやすくすることだと考えてよいでしょう。

Dynalistで言えば、このツールの1つの項目に3行も4行も書くとアウトラインが大変見えにくくなってしまうため、執筆者は項目を長くても2行で書くように要請されます。しかしむしろ、その要請こそが文章の骨組みだけを簡潔に示すことを促し(文章の長さを「有限化」し)、執筆者自身が気づいていなかった核となる部分を明示するのです。

「有限化」の効用を働かせるために、頭の中だけで文章を組み立てるのではなく、一度くらいはその文章を外部に出力してみることがいいのだというわけですね。こうした「他者性」について考えていくことは、たぶんエクリチュールの問題につながると思うのですが、アウトライナーの話から逸れてしまうのでまたの機会に譲ることにします。

※千葉さんの「有限化」はドゥルーズをヒュームの影響のもとで読み解いた哲学書『動きすぎてはいけない』で詳しく解説されています。ただし千葉さんは哲学的文脈を離れ、「有限化」の語を執筆法や勉強法にも広げていきます。千葉さんが「有限化」の言葉をたびたび用いることには、自らの哲学用語の有用性を喧伝するという戦略的な部分も多分に含まれているのでしょう(事実氏は何かの文章で、日本でもフランスの哲学者のように新しい概念を積極的に作って活用していくことが重要だと述べていました)。しかしこの概念の有用性は確かに疑いようもなく、僕自身研究に活用させていただいています。有用性がありすぎるせいで、「接続過剰」になるのではないかという一抹の不安も覚えないではないですが……。

②なぜDynalistを使うのか

これもいくつかの問いに分けて考えることができます。たとえば、なぜ紙に書かないのか。単純に、デジタルの方が構造の組み換えがしやすいからです。紙とペンでは、書き換えが自由にはできません。その代わり、自由なフォーマットで書けるという利点もあるわけですが。

次に、なぜメモ帳やwordで書かないのか。特に、wordにはアウトラインモードという機能もあります。

まず、wordよりもアウトライナーの方がアウトラインとしては使いやすいという事情があります。たとえば、多くのアウトライナーと同じくwordのアウトラインモードでも上の階層だけを表示して、下の階層を閉じることが可能です(画像のバージョンはword2019)。

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こうした機能を使うことで文章の骨格を任意のレベル(章立てのみ、章と節のみ、章・節・節の構成まですべて表示など)で認識することが可能になります。アウトライナーにとっては非常に重要な機能です。

wordでは+のところを押せば下の階層を閉じることが可能なのですが、ダブルクリックしなければなりません。しかも文字列の選択も同時に行ってしまい、もろもろ邪魔です。細かなことですが、アウトラインを書くときに階層を開く/閉じる機能はよく使うので、少しのストレスが大きなストレスにつながります。

また、Dynalistではある階層だけを画面に表示することが可能です。

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この機能によって、マクロな視点から文章の骨格を眺めるだけでなく、ミクロな視点に限定して構造を修正することもできます。顕微鏡の倍率を上げるイメージでしょうか。

これらを含めたいくつかの差異から、wordは実際に文章を執筆するためのツールにして、アウトライン作成はアウトライナーに任せる分業形式の方が諸々の効率がよくなります。

では、なぜアウトライナーの中でもDynalistなのか。もう1つ有名なアウトライナーとしてWorkFlowyというツールもあります。だいたいの機能はDynalistと同じですが、こちらはファイルという概念がなく、あらゆる文章について同じ画面で操作することになります。また、書けるラインの数に上限があります。概して、Dynalistよりもシンプルなアウトライナーです。

僕は行数を気にせずアウトラインを作りたかったのでDynalistを使っているのですが、WorkFlowyの方が制限が強い分「有限化」には向いているとも言えます。事実、千葉雅也さんはWorkFlowyを使っているようですね。

他にもアウトライナーにはいろいろなものがあります。ただ、有名どころはやはりDynalistとWorkFlowyなので、新しくアウトライナーを使ってみようという方はこの2つのうちで自分に合った方を選ぶといいかもしれません。シンプルさを重視するかどうかで、評価が分かれることでしょう。まあぶっちゃけ、好みです。

〇まとめ

以上、アウトライナーとはどのようなものであり、どのように有用なのか説明してきました。

もう一度簡単にまとめておけば、アウトライナーとは文章の構造を整理しやすくするためのツールであり、アウトラインを作ることに特化している分それに関しては他のツールよりも使い勝手のよいものとなっています。

これが論文を含めた学術的な文章を執筆する際に役立つのだということについてはもはや多言を要さないでしょうが、外にもいろいろと使いどころがあります。次回の記事では、そのことについて説明したいと思います。

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