現状と理想のギャップからインサイトを探る As-Is / To-Be分析 とは
UXデザインプロセスでは、ほぼ全てのプロジェクトにおいて、ペルソナの設定が不可欠です。このペルソナ設定の詳細度はプロジェクトによって異なり、既に企業が顧客データを有している場合、細かく設定されたペルソナが初期段階から組み込まれていることもあります。
一方、スタートアップなど新規サービスを展開するプロジェクトでは、具体的なペルソナがまだ定まっていないことが多いです。そのような状況では、ペルソナ設定に多くの時間を費やす方法もありますが、プロジェクトにとって真に重要なのは、ペルソナをある程度設定した上で、その仮説を検証していくことです。
私はプロジェクト初期に、サイコグラフィック変数やスタイルを用いた詳細なペルソナ設定を行い、その後 As-Is / To-Be分析 を用いた分析やユーザーストーリーによるインサイトの獲得に取り組んでいます。
今回は、As-Is / To-Be分析の概要とその重要性に焦点を当てて紹介します。
そもそのペルソナ設定をする理由はインサイトの統一のため
ペルソナ設定の重要性を理解するために、まずその目的を振り返ります。UXデザインをプロジェクトに取り入れる際にペルソナを設定するのは、仮説を検証する過程で必要なインサイトを整えるためです。
サービスや製品はユーザの課題を解決したり、既存の良い状況をさらに良くすることを目的としています。特定のペルソナに焦点を当てることは、ニーズを絞り込む行為と見え、非効率に思えるかもしれません。
しかし、UXデザインでは仮説を立ててそれを検証する過程で、このようなインサイトを整理することが欠かせません。検証を有意義にするためには、ペルソナを設定し、それに基づいて検証のコンセプトやビジュアルを進める必要があります。
例えば、スマートフォンを使ってタクシーを呼べるアプリを考えるとき、利用するユーザは高齢者から忙しいビジネスマンまで幅広いです。市場でのこのアプリの受け入れをテストする際に、様々な背景を持つユーザを対象にインタビューを行うと、意見の共通点を見つけるのは困難です。
ここで、特定の仮説を設定し、その対象ユーザーにとっての価値を検証していくことが重要になります。ペルソナ設定は、このような仮説検証を効果的に進めるための指針となります。
As-Is / To-Be分析で現状と理想のギャップからインサイトを知る
As-Is / To-Be分析は、ユーザー中心のデザインを実現するための強力なツールです。このフレームワークを活用することで、ペルソナに基づいて、ユーザーの行動の背景にある本当のニーズを明らかにすることができます。
As-Is / To-Be分析とは、ユーザーの「現状(As-Is)」と「目指すべき状態(To-Be)」を対比させ、その差異を分析することで、ユーザーのニーズを深く理解する手法です。この手法は、以下のような優れた点があります。
ユーザー行動の背景を掘り下げる
単にユーザーが何をしているかだけでなく、その行動の背景にある本当の理由や目的を理解することができます。これにより、表面的なニーズだけでなく、根本的なニーズを特定できます。
ペルソナの解像度を高める
ペルソナの設定をより詳細化し、リアリティのあるペルソナを作ることができます。これにより、ユーザー中心のデザインをより的確に行えるようになります。
明確な設計方向性が得られる
ユーザーの本当のニーズ(インサイト)が明確になることで、そのニーズを満たすための具体的な設計の方向性が見えてきます。
As-Is / To-Be分析でインサイトを探る具体例
As-Is / To-Be分析を利用したユーザーインサイトの発見方法について、オンライン英語学習アプリを例に説明します。まず、対象のペルソナを大学生と設定し、彼らが社会に出る準備として英語学習に取り組んでいる状況を想定します。
このペルソナは、TOEICなどの資格試験の勉強と実際の英会話能力の向上を目指しているとします。現在の彼らの学習方法は、複数の参考書や英単語帳、文法の基礎を学ぶ書籍を購入し、持ち歩いているという状況です。
次に、理想の状態(To Be)を考えます。このペルソナは、自分に合った学習方法を見つけ、現在の英語能力と将来必要となるレベルとの間のギャップを埋めることを望んでいると考えられます。
この現状(As Is)と理想(To Be)の間のギャップを特定した上で、英語学習アプリによる解決策を提案します。ユーザーの学習目的や必要なレベルは個人によって異なるため、それぞれの目的に合わせたカリキュラムを推薦する機能を持つアプリが有効です。このアプローチにより、ユーザーは自分の現状と理想のギャップを埋めるために必要な学習を効率的に行うことができるようになります。
この方法を通じて、As-Is / To-Be分析は現状と理想のギャップを見つけ出し、そのギャップを埋めるための具体的な解決策を導き出す手法として機能します。
As-Is / To-Be分析を通してひとつの仮説が作られる
英語学習アプリに関する議論を通じて、大学生が自身の学習目標に合った最適なカリキュラムを求めているという仮説が立てられました。
この仮説は、プロジェクトの初期段階でペルソナを作成する過程で得られる重要なインサイトの一例です。UXデザインプロセスでは、このような初期のインサイトに基づき、コンセプト設計を始めることが一般的です。
プロジェクトが進むにつれて、アイディエート(Idate)フェーズやプロトタイプ(Prototype)フェーズで、利用シナリオを4コマ漫画のようなストーリーボードで描き出すことになります。
このストーリーボードでは、大学生が複数の参考書を持ち歩きながら英語を学習している様子を描き出し、新しいアプリが導入されることで、彼らが個々に合ったカリキュラムを提供され、多くの参考書を持ち歩く必要がなくなるというストーリーが展開されます。
この変化により、学習がより効率的になり、目的に合った最適なカリキュラムの提供が可能になります。
このストーリーボードをペルソナに近い実際の人々にインタビュー形式で見せ、このコンセプトが実際にニーズに合っているか、ペルソナに受け入れられるかどうかを確認していきます。
この過程は、コンセプトがターゲットユーザーのニーズに合致しているかを検証するための重要なステップです。
仮説を検証するために必要な粒度のペルソナ設定が望ましい
UXデザインに新しく取り組む方や、兼務でUXデザインを担当される方は、ペルソナの設定に関してどの程度詳細に行うべきか迷うことがあるかもしれません。
ペルソナが現実からかけ離れてしまうことや、ペルソナ設定に時間をかけ過ぎてしまう場合も考えられます。このような状況での指針は、後に行う検証のインサイトによってペルソナ設定の詳細度が変化することを理解することです。
例えば、英語学習アプリのケースでは、検証したいコンセプトがこの段階で明らかになります。実際には、大学生の日常生活や学習するタイミングなどをさらに詳細に掘り下げてインサイトを深めることも可能です。しかし、どの程度詳細に分析するかは、その検証可能性によって決まるべきです。
プロジェクトにおいてペルソナを設定する際は、UXデザインプロセス内で何を検証したいのかを明確にし、それに基づいてペルソナ設定を進めることが望ましいでしょう。
まとめ
まとめると、UXデザインプロセスにおけるペルソナ設定は、プロジェクトの種類や段階に応じて変化します。ペルソナ設定を行う主な目的は、ユーザーのニーズと課題を明確にし、これらに基づいた検証可能な仮説を立てることです。
As-Is / To-Be分析のようなツールを活用することで、ユーザーの現状と理想の状態のギャップを特定し、このギャップを埋めるための具体的な解決策を見つけ出すことが可能になります。
この過程で得られるインサイトは、プロダクトのデザインや機能改善に直接役立ち、よりユーザー中心のサービス開発を実現します。したがって、ペルソナ設定はUXデザインにおいて不可欠なステップであり、適切な詳細度で行うことが、プロジェクト成功の鍵となります。
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