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あの日、奈良で、ご本尊に会えなくて。

 コロナ禍により会社員から無職になった2021年3月。
暇に空かせてネットを見ていると、とある仏像が目に入った。

「この仏様、宇宙と繋がってる!」

もちろん勝手な印象であって、繋がっているかどうかはわからない。というか、そもそも仏様というのはそういうところに繋がっているものだろう。ともかくその仏像を見た瞬間、時が止まったのだ。無宗教であり、日本の伝統芸術や仏像に詳しくない私も秒殺の美しさなのであった。

その仏様とは、奈良県中宮寺のご本尊 菩薩半跏像(伝如意輪観音)なのでした。

中宮寺様の公式ホームページから画像をお借りしました。


学生時代の美術の教科書にも「日本を代表する最高傑作です」と掲載されていたけど、その時は「ふーん」としか思わなかった。でも今はそれが納得できる。インターネットの小さな画像でさえも、人心を掴むこの魅力。肉眼で見る本物はどれだけ凄いのか。

せっかく無職でヒマなのだから、本物を拝みに行くことにした。
折しもコロナによる緊急事態宣言が解除されたのである。

近鉄奈良駅は空いていました。

奈良を訪れるのは18年ぶりだ。あの時は京都に用があり、余った時間での観光だったから、旅の100%が奈良県というのはこれが初めてだ。おお!近鉄奈良線から平城宮跡が見える。奈良時代のテーマパークみたい。ディズニーランドにミッキーのコスプレをして行くように、何かみずらでも結ってくればよかったかな。

目的の中宮寺は宿泊するホテルから遠いため、明日拝観することにして、まずは近鉄奈良駅周辺の社寺仏閣を回った。1回100円で乗れる「ぐるっとバス」が便利でした。



まあしかし、緊急事態宣言が解除されたとはいえ、観光客は多くない。東大寺ですら閑散としていた。大仏殿は拝観できるが、人がくぐれる柱の穴は一時的に塞がれている。
でも、ここは疫病退散を願って建立されているのだから、こういう時にお参りするのはありじゃないかな。令和の祈りが届きますように。


人っ子1人いない二月堂横の階段


二月堂も観光客はいない。コロナ厳戒下でお水取りを終えたばかりだし、きっと安堵の静けさだろう。天平の春もこれくらいのどかだったのだろうか。


古代日本を堪能して駅に戻る途中、心が令和に戻ったのは、北欧の森で出会いそうなかわいいケーキ屋に出会ったからだ。「空気ケーキ」と看板がある。

人気のケーキ屋さんなのですね。



空気っていわれても、そのケーキは、見えるのか?口に入ったのがわからないほど、空気のように軽いのか?店内に入ってみれば、なんと満席。ケーキも売り切れだった。空気はあったが空気ケーキはなかった。

代わりに空気プリンを買って、ホテルの部屋で食べた。ちゃんとお腹が満たされ、味も美味しかったです。


そういえば大阪には「呼吸チョコ」なるものがあるな。「空気」とか「呼吸」とか、関西は目に見えないもので商売するのが上手いのだろうか。見えないものといえば「音」というのもある。そのうち関西は全国に先駆け「音」スイーツを売り出しそう。

さて翌日。旅の目的地、中宮寺に向かう。中宮寺は法隆寺に隣接しているので、まず法隆寺を目指した。好きなものは最後に食べる派だ。

最寄り駅の名は「法隆寺」だった。ここは、まさに日本史の本場だ。




ちなみに町名は「斑鳩町」。




「法隆寺」も「斑鳩」も関東では歴史の授業でしか出てこない単語である。
それが、普通に町名とか駅名って。
箱を紐解き薄紙をそーっと剥がして取り出すような伝統工芸品がここではバンバン普段使いされている、というようなことではないか。この辺りでは、聖徳太子様は伝説の偉人ではなく、リアルご先祖感覚なのか。

いまさらな感じのカルチャーショックだが、修学旅行ではバスで名所のポイントだけを見て回るから、こんなふうに「史実が現代に続いてる、生活に繋がってる感」がピンとこなかったのである。そんな言い訳を考えながら10分もかからず到着した。本来なら、大型観光バスが並ぶであろう駐車場はやはりすっからかんだった。茶屋や土産物店も開いてるのかいないのか店員は見当たらない。境内にも、観光客は数えるほどだ。


南大門から中を臨む。人、ほぼいません。

今日の法隆寺は、静寂という幕に、すっぽり包まれているようだ。

翌日からの「聖徳太子 お会式」の設営をしていました。


見上げると鐘が鳴り、空を飛行機が横切っていった。この瞬間を閉じ込められたらいいのに。法隆寺には、句を読みたくなる磁場があるな。


さてそろそろ、お待ちかねの中宮寺だ。法隆寺のすぐ隣だけれど、引き締まるような気に満ちた法隆寺と違って、ここは、ホッとするような優しさがある。それはやはり、あのご本尊様の影響なのだろうか。


しかし入り口には、私にとって過酷な事実が掲げられていた。



令和2年11月7日〜3月31日まで
御身代わり様特別公開、とある。


御身代わり様とは何ぞや。横文字でいうとレプリカのことだ。日本語って風情があるね。なんて感心してる場合じゃないのよ。本堂の修復工事に伴い本物は福岡県に移られ、九州国立博物館に展示されているという。つまりここにご本尊はいらっしゃらないのである。


なんということでしょう。


ひょっとして奈良ではなく福岡に行くべきだったのでは?


ていうか中宮寺の公式ホームページをがっつり見ておくべきだった。


衝撃と後悔にしばし思考力を失うが、息も絶え絶えに、受付の方に話を聞く。
「お身代わりを拝めるのもまた貴重な機会です。見目、形はご本尊となんら変わりませんよ。」ということだった。もう観念しろ私。ないものはないのだ。


気持ちを切り替えありがたく拝んだ御身代わり様は、超然としたお姿であった。善も悪も超えた大きな優しさが伝わってくるようであった。ご本尊は各地で展示されることがあるけれど、御身代わり様はここでしか会えない。この旅は御身代わり様に会うためのものだったのかもしれない。でも、やっぱり、次回はご本尊を拝観したい。

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