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ツインレイ?の記録44

9月11日

昔仲良かった子が余命二カ月と聞いた。
彼女はLINEを使わないし、私が異国に来てしまったこともあってすっかり疎遠になってしまっていた。
ただ自分よりも一回りも若い彼女がそんな状況に置かれていると知り、やるせない気持ちになると同時に、これまでもわりと多くの身近な人の死に接してきた自分としては、今会える時に会える時間を大切にしたいという気持ちが強まった。

だから彼にも、あと何回会えるかわからないから、前に教えてもらったチーズパスタの店に行きたいと伝えた。

「そうですね。ぜひ夕食会を設定して行きましょう!チーズパスタは気になります。他のお店も開拓したいですね。この前のお店も良かったですし、行ってみないとわからないことが多いです。何事も経験ですね」

彼の返事はなぜか明るかった。彼はここのところ「開拓」という言葉をよく使う。もとは私が最初に使った言葉だった気がする。

9月17日

この日はこの国の休日だった。三連休だったが、私は特にやることもなく、ずっと漫画を読んでいた。

そして三連休最終日の朝早く、7時前に彼から突然連絡があった。

「昨日までずっと仕事でしたが、本日ようやく休みです。何とか一日だけ休めました。本日ご都合がよろしければお昼ご一緒にいかがでしょうか?」

私は「お昼ぜひご一緒させてください。お誘いありがとうございます。嬉しいです」と返事をした。

彼はなぜかマクドナルドが突然食べたくなったから、マックでいいかと聞いてきた。

そこは私と彼が初めて外で一緒にランチした場所で、あの時は本当に楽しくて、四時間ぐらい一緒にいて、まるで高校生のように彼はずっとしゃべり続けていた。

思えばこの日を境に彼は体調がすぐれない日が続き、なかなか会えなくなったのだけれど、私にとってこのマックは本当に楽しかった思い出の場所で、もし彼もそう感じてくれているならうれしいと思っている。

いつもはわりと高めのお店でごちそうになっているけれど、そういう気楽な感じで会えるのもうれしいと感じていた。

そして、私たちは12時半にマックで待ち合わせをした。

彼の仕事後に会う場合、いつも彼のほうが到着が早く、20分前には着いているのだけれど、この日は私のほうが早くて10分ぐらい彼を待っていた。

彼は時間ちょうどに現れた。

私はいつものように満面の笑みで彼にかけよって「こんにちは!」と言ったけれど、彼は相変わらず無表情で目も合わさず、「注文何にします?」とそっけなかった。

私はチーズバーガーとナゲットとポテトとコーラのセットにした。
「今日は私がごちそうしますよ!」と言うと、
「いや、いいです」とそっけなく言われ、彼は自分の注文もした。

マックがどうしても食べたくなったというわりには、彼はハンバーガーと飲み物しか注文していない。
ポテトとナゲットを一緒に食べましょうと言っても、「いや、いいです」とまたそっけない。

まず、彼は連休も仕事だった理由を話し始めた。
会社でトラブルがあってその処理に追われていたということで、その日も食べ終わって帰ったらまだ仕事が残っていると言っていた。

この連休中にこの国では伝統菓子をプレゼントしあったり食べる習慣があって、私も自分の大学で作ったという大学のロゴ入りのお菓子を彼に一つ持ってきていた。

それを彼に渡したのだけれど、彼も会社やホテルで散々もらっているので、最初は「えーっ」という感じになった。その気持ちはよくわかる。私も大学から二箱もらっているし、学生たちからもいくつかもらっているのだ。

「でも、これ、うちの大学の学生たちで作ったというし、すごくないですか?」

そう私が言うと、彼はもらってくれた上に、その場で食べてもくれた。
こういうところが彼の優しさだと私は思っている。

ただ、私が面接の話をした時に、希望国の大学はほとんどボランティアだと言われたことを彼は気にしていた。

「ボランティアと何度も言われるのは、何かあるなって思います」

彼曰く、人が何度も繰り返す言葉には必ず何らかの意味があるということだった。

「もしかししたら、そこに行っても何も得られるものはないし、こんなはずじゃなかったってこともあるという意味じゃないですか?」

私はそう言われて、

「だいじょうぶです! 私は転んでもただでは起きないし、草の一本でも掴んで立ち上がりますから!」

と得意満面な顔で答えた。

「でも、草一本も何も入っていないところだったら? 今とは全然ちがう環境で言葉も全然通じず、今のように学生に慕われることもなく、授業も思っていたのとは違ったら?」

彼はなおもそう言った。

意地悪だなと私は思ってしまった。

さらに「あなたにとってボランティアとは何ですか?」と面接官に問われた際に私が答えた言葉に対しての彼の反応もひどかった。

「ボランティアといってもそれは一方的なものではなく、自分を発揮して誰かに貢献してそれが誰かの喜びになったら、それこそが私の喜びで、与えることも受け取ることも同価値だって思うんです」

「きれいごとですね」

彼は冷たくそう言った。

でも私は理想を掲げているわけではなく、実際に自分の体験に基づいて言っているのだ。お金にも何もならなくても、私は熱心に若者や学生と関わる。そして学生が少しでも進歩したり、若者たちの力になれることがあったら、それは非常な喜びになる。

彼だってもともとそういう人だ。

だからこそ、まだ会ったこともない私が熱で苦しんでいるときに助けに来てくれたし、この日も話していたけれど、辞めた部下のことも気にかけて連絡をとったりもする人だ。

だからなぜそんなことを言うんだろうと思った。

私は彼に何度か言っているのだが、私の人生のテーマの一つは「無条件の愛」だ。

この日も私は彼に言った。

「私の愛は、何の義務も責任も発生しない。役割も条件も関係ない。そんなふうに人を愛したい」

さすがに直球すぎるので、彼の顔を見ないで言った。

「私にとってあの国はあなたで、魂の直感があった。だから、あなたに軽い気持ちみたいに言われてムカついて、そんなことない!と思って最初の面接ダメだった後も再挑戦したんです」

そう言うと、

「人のせいにしないでくださいよ」

と彼に言われた。

別に彼のせいにしたわけじゃないのだけれど、彼は既婚者という立場もあってしかたないとはいえ、絶対に私の愛を認めない。そんな愛があるわけないと否定されてるような感じだ。

ただ、彼は会った時とは少し変わった気がする。
新しい体験をどんどん積極的にしている。
もともとはそういう人なんだと思う。
身軽で自由、心のままに行動する人。

だけど、会社での地位や家庭、子どもや奥さんへの責任が、今の彼をがんじがらめにしている。私はそう感じている。

だから、収入の話になった時も、確かに彼は稼いでいて将来安泰に見えるけど、私は私で一人だし身軽だし自分一人養うぐらい何とかなると思っていて、それもこの時彼に言った。

「私にとって、収入が高いこととやりたいことができることは必ずしも結びつかないです。前にドイツに行った時、私は着付けができたら、その報酬が往復航空券だったし、泊るところは趣味を通して知り合ったドイツ人の家を泊まり歩いて交通費掛かってないんです」

彼は困惑顔だった。

お互い全巻持っていた漫画が同じだったり、私が話す漫画ネタも知っていたり、実は年齢は8歳ぐらい離れてるのに、同年代かって思うぐらいこういう話は通じ合う。

だけど、私が直感型人間で、常に魂の声に従うし、根拠はないけど何とかなると思っているみたいなことを言い出すと、理系で論理的思考の彼は途端に否定の態度になる。

彼はコーチングなども経験してるし、自己啓発本などは好きみたいだけど、私はそういうのよりスピリチュアル系の本を読んだりしてきたし、若い頃は西洋心理学を学んだりもしたけれど、今は完全に東洋思想寄りというか、多くの思想家の中で私が最も好きなのは老子だ。

彼が社会規範に根付いた孔子思想で生きている人だとしたら、私は宇宙原則に基づいて生きたいと願う老子思想なのだ。

彼は若い頃から安定志向で、今の仕事も収入と勤務場所で決めたと言う。
でもその話を聞きながら、私は思わず笑ってしまった。

「勤務場所で決めて安全と思ってたのが、なんでこの国来ちゃってるんですか?」

本当におもしろいと思う。

私は魂の直感だけでこの国に来たけれど、彼は安定の職に就いた上でのこの国なのだ。

まあ私と違うのは、私はこの国の事前情報が何もなかったけれど、彼は前任者などから情報を集めある程度の予備知識はあったらしい。

そして彼は今回二回目の赴任だ。
前回は十年前だった。

「若い頃のほうが安定志向だったんですが、今は新しいことも経験したいなと思ってます」

そんなことを彼は言った。

だから会社に入ってからゴルフを始めたり、今もこの国で彼の得意なスポーツを教えたり大会に参加したり、その時の話を彼は楽しそうにしていた。

でも、その時の動画を私が見たいといっても、彼はやはり無表情になった。
だんだんわかってきたけれど、彼がそっけなかったり無表情になるときは、困っていたり照れてる時なのかもしれない。

彼は決して女慣れしてないし、真面目で仕事だけやってきたのだろうから、奥さん以外の異性と接する機会もあまりなかったのかもしれない。

だから時々デリカシーに欠けることを言ったり、私に対しての扱いも全然スマートじゃないし雑だったりする。

結局この日も二時間半ぐらいで、彼は帰ると言い出した。
しかも私が話している途中で会話を強制終了させられた。

いつもこうだ。

一緒にいる時、彼は携帯をずっと見ていた。
仕事の連絡らしいけれど、前に私が時計を見るのが気になると言ったら時計を見ることをやめたかれが、今はそんな気遣いすらない。

私は彼といる時は絶対に携帯を見ないし、もし緊急でも、相手が友だちでも「ちょっとごめん」ぐらいは言うけれど、本来は他人に対して気遣いの鬼の彼が私に対しては本当にどうでもいいんだなと思うと悲しくもなった。

外は大雨だった。

それでも彼はレンタル自転車で来ていて、私は彼を見送った。
サドルのところが濡れていたからティッシュを出そうとしたけれど、それも「いや、いいです」とつっぱねられた。

そして、翌日は彼のホテルの会議室で彼の部下のレッスンがあり、新しい学生を紹介するから顔を出してほしいと私が言うと、

「あ、明日は無理です。〇くんと食事行くので」

と私の知らないところで、自分のレッスンをするということを言い出した。

「え、聞いてないんですけど! ずるい!」

と私が言う言葉を背にして彼は無言で自転車で去っていった。

いつも思うけど、私に対して態度が雑すぎる。

毎回別れ際がこんな感じで、たとえ彼が誘ってきた日でも、彼は慌てて帰っていく。

友だち同士でも「またね」とか「じゃ、気を付けて」と別れるのが普通の私にとって、なぜ彼は毎回私を置き去りにしたり、途中で話をぶった切って逃げるみたいな帰り方をするのかと思ってしまうし、また、そんな態度を取られても、結局はそれを許して、「今日はありがとうございました」なんて帰ってからお礼をする自分自身にも腹が立つ。

彼は、会っている時よりもメッセージのほうがまだ感じがよくて、丁寧な言葉で返して来る。

この日も、帰り自転車で帰る途中、雨が強くなり、ずぶぬれで戻ったのでホテルの人に心配されたという内容も加えた返事がきた。

考えてみたらおかしなことだ。

この国ではマックの出前もあって、彼も出前を取ったりするのは聞いている。

それでもわざわざ悪天候で自転車に乗ってまで、私を誘い、マックでランチをした。

気分転換がしたかっただけかもしれないけれど、私を見る目は死んだような目だし、初めてマックで四時間話した時みたいに、少年のような彼ではなくて会社の重役という感じで、あの時みたいにきらきらした優しい目で私を見ることもなく、死んだ目ですねと言っても否定もしない。

なぜ彼が私に会うのかはわからない。

私に対する言動はきついし、扱い方も雑だし、なんだかだんだん悲しくなってきた。

はっきりいって、めんどくさい人だなと思うし、根本ベースは私と似てるけど、考え方がまるで違う。

もしこれがツインレイなら嫌だなぁと思ってしまう。
偽ツインレイだとしても、その後本物のツインレイに会うんだとしても、二度とごめんと思ってしまう。

私は前の結婚がひどかったので、今度こそ本当に幸せになりたいとずっと思っていた。
お互い尊重し、心から愛して愛される関係が昔から理想だった。
だけど、結局自分が自分を大事にしていなかったこともあり、自分を大事にしない人ばかりと付き合い、結婚もDVで離婚。

初めて自分を大事に扱ってくれたと思った男性が彼だったのに、既婚者だし、おまけにどんどん私の扱いは雑になっていくし、一体私と彼の奥さんの違いは何なのかと思ってしまう。彼に大事にされて守られている奥さんはどれだけ素晴らしい人なのか。いや、別に素晴らしくなくたって、世の中にはパートナーに愛されて大事にされている女性はいくらでもいる。

ツインレイって何なんだろう。

それが一体何だというんだ。

結婚以外の方法でツインレイと統合できるとか、そんなこと別に望んでいない。

普通に私だけを愛し、お互い尊重して、思いやれる関係がほしかったし、彼のように愛情深い人に庇護されている奥さんが本当に羨ましいのだ。

だからって略奪したいとか嫉妬に狂うとかそういうのではない。

どうして私には寄り添い合えるパートナーができないんだというその悲しみがあるだけだ。

自分が自分を愛せばいいし、自分で自分を大事にすればいいというのはわかっているけれど、好きな人に雑に扱われるのは本当に悲しいのだ。

それでも彼に会いたくて、へらへら笑ってしまう自分が嫌いだ

彼の前でありのままでいられないし、自分らしく振舞えないのだから、やっぱりツインレイなんかじゃないのかもしれない。

恋した自分はまるでバカだ。




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