幅広なコールテンのズボン

暦の上では立春を過ぎ、幾分陽が長くなってきた。


日頃のステイホームの鬱憤を吐き出すように、人々がこの自然公園の四方八方へ繰り出し、静かにそして、それぞれが気を配りつつ思い思いに過ごしている。

だが、元気いっぱいの子どもたちにとって、そんな世の中のナイーブさはお構いなしだ。

それで良いと思う。

有り余った力を爆発させ、躍動感のあるフォームで一人の男の子が群衆を縫うように走り去っていった。


それから間も無く、大きな吐息が今にもマスクからこぼれ落ちそうな老人男性が後ろから大股歩きでやってきた。

子ども用のジャンパーを脇に抱えている。

そうだ、きっとさっきの男の子の祖父だ。

仕舞い込んだシャツの裾が少しだけズボンからはみ出している。

.....。



自粛で散歩の回数も減ったのだろうか。

久しぶりの外出なのかもしれない。

庭いじりの綿パンではないのだろう。

きっと自宅で待っている老妻に「あんた、せっかく孫とでかけんだからさ、いつものズボンはやめときなさいよ」と言われたに違いない。



気持ちの良い柔らかい日差しにネイビーのコールテンの濃淡が反射し、その風景に目を奪われる。


水筒を取り出し、お茶を口に含む。

喉が潤う、美味しい。

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