禍話リライト エーデルワイス
※ある意味「自己責任系」かもしれない話です。
(聞いたり読んだりする分には大丈夫なようです)
四国、あるいは山陰地方の話だそうだ。
田舎の山の中、そんなに深くない場所に廃校がある。校舎が2棟残っており、なかなか雰囲気もある。そこに肝試しに行こう、という話がある若者のグループ内で持ち上がった。
いろいろ予定を立てる内、どうせ行くならそこでふざけた感じの写真や動画を撮ろうという話になった。
そこで何かいい感じのグッズはないかと100均に探しに行ったところ、リコーダーがあったのでとりあえずそれにしよう、ということになったそうだ。
「ところで、誰か何か吹ける?」
「あ〜、当日までに何か思い出しときます」
そうして仲間のひとりが演奏役を任されることになった。
当日、現地に到着し、一行はまずはおふざけは抜きにして普通に廃校の中を回ってみることにした。
理科室、家庭科室、美術室と、その手の話なら定番の教室を一通り見て回り、廃校内をぐるっと回って元の場所に戻ってくる。
そうして戻ってきてあれこれ感想などを話している内に、あることに気がついた。
「あれ? この学校って音楽室、なかったよね?」
理科室や美術室に行った時には、
「ここはガイコツないんだねぇ」
とか、
「お、モナリザだ」
とか、そういう会話をしていた。
学校の怪談といえば音楽室は定番だ。というより、音楽室のない学校というのはあまり聞いたことがなかった。なので音楽室に行ったら壁に貼ってあるはずの音楽家の肖像画を見て、ベートーベンがどうのモーツァルトがどうのと、そういう話をすることになるだろうと予想していた。
しかし、実際にはそうならなかった。その拍子抜けしたような感じ、そこから来る違和感に気がついたのだ。
「普通、どこの学校でも音楽室ってあるもんだよね。ないっておかしいじゃん」
探検した以外にも実は、例えばプレハブのような別の建物があって、音楽室はそっちにあるのかとも考えて探してみたが、しかし廃校にはその2棟以外の建物は存在しなかった。
いろいろ考えたが納得のいく答えは見つからず、世の中には音楽室のない学校もあるのだろうという一応の結論が出たところで、では予定通り準備した例のリコーダーでちょっとふざけようか、という流れになった。
ただ、一行が現在いるのは廃校の入り口付近だ。そんなところで何かしても面白くない。どうせなら一番奥の雰囲気のあるところまで行き、そこからリコーダーを吹きながら戻ってくる。そういう感じでやろうということになった。
一行は再び廃校に入り、2階の一番奥へ向かう。皆でそこまで歩いて行く中、演奏役が指を動かして練習しながら言う。
「いやぁ、思い出してきましたよ。何吹くかは演奏してからのお楽しみ、ってことで」
「なに言ってんだよ(笑)」
そんなことを言っている内に目的地である廃校の奥に着いた。
「じゃ、お願いしてもいいっすか?」
「ハイ!」
仲間に促され、演奏役がリコーダーを吹き始める。
「♪ミー、ソ、レー、ドー、ソ、ファー……」
エーデルワイスである。
「お、できるもんだな!」
「いやぁ、でもここから先はわからないんですよ」
演奏役の言葉に全員ズッコケそうになったが、考えてみれば自分たちも、
「エーデルワイス、エーデルワイス」
の先をよく知らないわけである。
じゃあ仕方ない、ということでエーデルワイスのその部分を繰り返しながら戻ることにした。
「♪ミーソレー、ドーソファー……」
元来た道を戻りながら、エーデルワイスの同じ節を繰り返す演奏役の姿を仲間が撮影する。
「これはこれでバカっぽくて面白いな」
「これ、人に見せるほどじゃないけど、仲間内で見たら身内のノリで面白いんじゃねえかな」
他の仲間がそんなことを言っているその一番後ろで、今回の肝試しの発案者である先輩格にあたる男があちこち写真を撮って回っていた。思い出、記念として、ということらしい。
そのせいで自分が集団から遅れていることに気づき、仲間に声をかける。
「先行ってていいよ。俺、写真撮りながら行くから」
「はいはい」
そうして先輩だけがさらに遅れる形となった。
演奏役はエーデルワイスの最初の部分だけを何度も繰り返しながら、仲間と一緒に廃校内を進んでいく。
「どうもこっから先を思い出せませんねぇ」
そんなことを言っている内に階段に差し掛かった。その頃には撮影をしていた先輩とはかなり距離が空いていた。
「先輩、下に降りますよー」
「うぉーい」
先輩の返事を確認した一行は階段を下ろうとし、踊り場で一旦止まった。そこでもう一度演奏、撮影をしようというわけだ。
カメラを向けられ、演奏役がリコーダーを吹き始める。
「♪ミー、ソ、レー、ドー、ソ、ファー……」
「……やっぱりわかんねぇのかよ!」
その時だった。
『ふーふ、ふふふふー、ふーん』
背後から口笛、あるいは鼻歌のようなものが聞こえた。
聞いた瞬間にそれが何の曲なのか、すぐに記憶が蘇った。何度も繰り返し吹いていたエーデルワイスの冒頭、そこから先の部分のメロディだった。
「ちょっ、先輩! カブせてこないでくださいよ!」
てっきり撮影している先輩がふざけて口笛を吹いているものだと、演奏役はそう思った。
が、次の瞬間、彼は突然走り出した仲間たちに首根っこを掴まれ出口に向かって引き摺られていた。
「ちょっ、行くぞ! 行くぞ!」
「えっ、えっ⁉︎」
状況がわからないまま、演奏役は仲間たちに引っぱられて廃校の外へ出る。
「ちょっと待て待て待て! みんな、隠れよう!」
彼らが出た先は廃校の中庭だった。仲間のひとりの言葉に従って近くの藪に全員が飛び込み、そこで息を殺して身を潜めた。
しかし演奏役からすれば夢中でリコーダーを吹いていたらいきなり引っぱられるわ、そのまま藪の中に引きずり込まれるわで全くわけがわからない。そこで彼は仲間たちに訊ねた。
「えっ、なんで隠れんの⁉︎」
「黙ってろ! 黙ってろ!」
問いに答えた仲間の強い語調も、他の仲間たちの怯えたような表情も真剣そのもので、どう見ても冗談でこんなことをしているとは思えない。
「えっ、はぁ? なに?」
「いや、お前、シャレにならねぇ……、これ、シャレにならねぇぞ……」
震えながら仲間がそう言った、その時だった。
『しぃぃろぉいぃぃ、つぅぅゆぅにぃぃい』
音程のおかしい調子外れな歌声と共に、校舎内から全く見覚えのない女が小走りで飛び出してきた。
夜の暗闇の中、異様なほどに白い顔が目立っていたという。
女はそのまま歌いながら校舎の表へ向かって走り去っていった。
「えっ⁉︎ えっ⁉︎ 今の誰⁉︎」
「お前、アレはダメだ……、アレはダメだ……」
演奏役は何が何だかわからず呆然とし、その周りで仲間たちは全員ガタガタ震えている。
後で話をすり合わせた際にわかったことなのだが、踊り場にいたあの時、口笛だか鼻歌が聞こえると思ったのは演奏役だけで、仲間たちにはその時からずっとあの女の歌声が聞こえていたのだという。
考えてみれば、演奏役だけ違うものが聞こえていたというのは危険な兆候だったのかもしれない。つまり、その時に彼は相手に魅入られていて、仲間に引きずり出されたことで間一髪助かった、というわけだ。
さて、藪の中で息を潜めていた一行だが、あの女がまた戻ってくるのではないか、そう思うと恐怖のあまり全く身動き出来ず、1時間ほどそこでじっとしていたそうだ。
その間、そこには誰も来なかった。
あの女も、そして後ろで撮影をしていたはずの先輩も、である。
先輩の姿は、廃校内のどこにも見当たらなかった。
もちろん、先輩が戻ってこない、廃校内にも姿がないとなった時点で一行は警察へ通報を行なった。
駆けつけた若い警官は彼らの話に対し半信半疑だったが、何しろ山に囲まれた場所である。
女が単なる不審者だったとして、追いかけられて山に迷い込み、最悪の場合そのまま崖から……、という可能性もある。ということで付近の山中を捜索することになった。
仲間たちも全員捜索に参加したのだが、同じく捜索に参加していた地元の年配の男性たちが休憩中にこんな話をしているのを彼らは偶然聞いてしまった。
「この学校、爺さんが昔言ってたアレだよなぁ……」
「新卒か何かの女の先生が頭おかしくなっちゃったってアレだよなぁ……」
その男性たちは、廃校内での出来事については何も知らないはずである。その言葉に一行は再び恐怖したという。
結局、その先輩は今も行方不明のままだそうだ。
……禍話の語り手であるかぁなっきさんは、この話を禍話以前にも何度か他人に語って聞かせたことがある。
すると、話をする度に毎回必ずというわけではないが、奇妙なことが起きるのだそうだ。
例えば、こんな夢を見たという。
夢の中、知らない山の中を歩いている。
道が開けたなと思うと、眼前に建物が現れる。
窓があるのだが中は明かりもなく真っ暗で、近づいて覗いてみてもどうなっているのかよくわからない。
そうした中を覗いていると、その窓の向こうに突然真っ白な顔が現れる。
そこで恐怖と驚きのあまり逃げだす、という内容である。
逃げる最中、背後から何かの音楽が聞こえてきたそうだ。
さらには、こんなこともあった。
この話を仲間に聞かせた日の夜、帰宅後にベランダの洗濯物を取り込もうとした時のことだった。
外から、鼻歌のようなものが聞こえてきた。
学生の多い土地柄なので、夜に酔っ払って歌っている者など珍しくない。が、どうもその歌声が気になる。
ふとベランダから下を見ると、マンションの敷地内の植え込みが見える。管理業者が剪定をサボっているようで伸び放題になっていて、ちょっとした森のような見た目になっている。
その中に、誰かがいる。
かぁなっきさんの住むマンションの近くには葬儀屋があるのだが、その葬儀屋の明かりに照らされ、植え込みの中にいる何者かがこちらを向くのが見えた。
その人物は、異様に白い顔をしていたという。
聞かされた側に何か起こったことは今のところないというが、この話はあまり語ってはいけないものなのかもしれない。
この話はかぁなっきさんによるツイキャス『禍話』 『THE禍話 第一夜』(2019年7月24日)
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/557606326
から一部を抜粋、再構成したものです。(0:42:40くらいから)
題はドントさんが考えられたものを使用しております。
禍話Twitter公式アカウント
https://twitter.com/magabanasi
禍話wiki
https://wikiwiki.jp/magabanasi/
禍話リライト エーデルワイス - 仮置き場
https://venal666.hatenablog.com/entry/2020/05/31/170308
余談ですが、この話をはてなブログに投稿したその夜(2020年6月1日深夜2時頃)、就寝中に何かに両肩を掴まれて揺さぶられ、息を顔に吹きかけられて(正確には喉の奥に息を吹き込まれて)驚いて飛び起きるという体験をしました。
ただ寝ぼけていただけかもしれませんし、そもそもこの話に関係あるかわかりませんが、もしこの話を何かの機会に誰かに話そうと考える方がおられるのなら、くれぐれもご注意ください。
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