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アビガンの有効性に関する報道について

 まず、NHKで報道された臨床試験についてですが、アビガンの製造元である、富士フイルム富山化学株式会社の実施している治験(臨床試験)ではないことを冒頭に記載しておきます。

 NHKにて報道された臨床試験は、藤田医科大学を中心とした多施設共同研究であり「SARS-CoV2感染無症状・軽症患者におけるウイルス量低減効果の検討を目的としたファビピラビルの多施設非盲検ランダム化臨床試験」です。
 以下にその臨床試験の解説をしていきたいと思います。長くなりますのでまずは記事の概要をまとめました。お時間のない方はこれだけでも読んでいただけると、この試験について要点をご理解いただけるのではと思います。

【この記事のまとめ】

・対象患者はランダムに割り付けられており、対象は日常生活にほぼ支障がない軽症者である。
・有効性はアビガン服用によるウイルス量の消失率にて評価(発熱・咳等の臨床症状の改善などではない)される。
現在約半数の患者について解析され明確な有意差は示されていないが、中間解析という例数が少ない段階であり、現時点では有効性についての評価はできないしする段階でもない。
・試験打ち切りとはなっておらず、特段の重篤な副作用等は生じていないと推察できる。

【はじめに】

5/19夜に、アビガン「有効性判断には時期尚早 臨床研究継続」というNHKのニュースが流れました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200519/k10012436781000.html
 アビガン(一般名:ファビピラビル)には大きな期待がかけられていただけに、そこに水を差すようなニュースだと感じた方も多いのではないのではないでしょうか。
 いつもは薬剤についての解説もしていますが、アビガンについての薬効や副作用については既に各メディアに取り上げられておりますので割愛いたします。(ただ妊婦禁忌については真っ先に取り上げられるものの、肝機能低下患者に対してのリスクについて言及しているメディアがあまりないのは個人的には気になっています。)

上記NHKの記事では
「軽症や無症状の患者86人を対象に入院初日から最長で10日間アビガンを投与する人たちと入院6日目以降に投与する人たちに分けて、ウイルスが6日目の時点で減っているかどうか比較するという方法」で実施され「半分に当たる患者40人余りについての中間段階での解析の結果、有効性の判断には時期尚早のため、臨床研究を継続することとする意見が出されたということです。」とあります。(「」内上記記事引用。一部括弧の表記修正あり)少し掘り下げてみましょう。

【試験の目的】

対象患者は86名で、現在40名余りのデータが解析されています。
試験の目的としては、
①アビガン服用群によりウイルス量がどれほど減少するか(有効性)
②服用開始が遅延した場合有効性に違いはあるか
③アビガン服用による副作用の頻度や程度(安全性)
これらの知見を得ることと言えると考えられます。

詳細情報は下記jrctのリンクをご覧ください。
https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCTs041190120

【対象患者の要件】

・パフォーマンスステータス(PS)が0又は1の患者(下部で解説します)
・同意取得日の年齢が16歳以上の入院患者(性別不問)
・RT-PCRでSARS-CoV2陽性となった患者(検体採取日から登録日まで14日以内)
・ 6日間の入院が可能な患者
・閉経前の女性患者の場合,ファビピラビル投与前の妊娠検査で陰性を確認できた患者
・本人の文書同意が得られている患者
以上の項目をすべて満たす患者となります。

 筆頭に挙げた、パフォーマンスステータス(Performance Status:PS)とは、全身状態の指標の一つで、患者の日常生活の制限の程度を示すものです。(下表参照)

出典:国立がん研究センター「がん情報サービス」用語集
https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/Performance_Status.html
 今回の対象者はパフォーマンスステータスが、0もしくは1ですので、感染はしているものの日常生活にはほぼ支障がない方が対象であると言えます。

【比較の方法】

 以下の二群に患者を割り付けます。どちらのグループになるかはランダム(無作為)に決定されます。またこの試験では服用の時期をずらすことで薬剤服用時の効果を検証するため、偽薬(プラセボ)は使われません。

①アビガン(ファビピラビル)群:入院初日からアビガンを服用(1日目1回1800 mgを2回,2日目以降1回800 mgを2回)

②投与開始遅延群:入院6日目からアビガンを服用(初日1回1800 mgを2回,2日目以降1回800 mgを2回)

【有効性の評価方法】

 メインとなる主要評価項目は、6日目における鼻咽頭ぬぐい液におけるSARS-CoV2ウイルス消失率となっています。
 またサブ解析としての副次評価項目は、1日目から6日目にかけての鼻咽頭ぬぐい液におけるSARS-CoV2ウイルスゲノム量90%減少率と鼻咽頭ぬぐい液におけるSARS-CoV2ウイルスゲノム量推移となっています。
 

 いずれも発熱や咳等の臨床症状が評価の対象とはなっておりません。(主観の入り込む余地がないので、非盲検でもこの場合そう問題にならないかと思われます。)

【考察】

 現在約40名超の中間解析が行われた段階であり、臨床試験においては往々にしてあることですが少ない人数での解析では有意差が付きにくく、有効性の証明は難しいものです。
(非常に学術的な話になるのでここではとても解説できませんがご興味がある方は、検出力&サンプルサイズというワードで検索してみてください)。
 

 しかしながら、中間解析で試験中止となったわけではなく、また安全性の点で重大な懸念が指摘されたということもなく試験継続との結論に至ったようですので、当初の86名の解析が完了するまでは早計な判断は慎むべきと考えます。

(共同通信でもアビガンの有効性についてのニュースが流れましたが、そちらは関係者の話ということであり、本臨床試験についてなのかそれとも別件についてなのかソースとしての信憑性がはっきりしないので今のところは静観が妥当と判断します。)