見出し画像

新型コロナウイルス感染症治療薬候補③レムデシビルについて 臨床試験解説PART2

【この記事は新型コロナウイルス感染症治療薬候補の臨床試験を紹介・解説するものであり、特定の医薬品を推奨するものではありません。現在、新型コロナウイルス感染症に有効であるという確かな知見が確立された薬剤はありません。

 今回はレムデシビルの開発元であるギリアド社の臨床試験を取り上げたいと思います。この試験は中等度患者重度患者を対象にした2つの試験で構成されています。尚、より詳しい臨床試験情報は、こちらのリンク(臨床試験ポータルサイト)をご参照ください。
 いままでの解説は文章ばかりでわかりやすさとして正直どうなのかと思っていておりましたので、新たな試みとして表を作りました。

レムデシビル

表の語句の解説
※SpO2(酸素飽和度)
 血液中にどの程度酸素が含まれているかの指標です。新型コロナウイルス感染に起因して肺炎が生じると、空気中の酸素を取り込んで体に酸素を供給する能力が低下し、この数値が低いほど肺の負ったダメージが大きいと考えられます。
※7点の順序尺度
①死亡
②入院しており、侵襲的機械的人工換気またはECMOを装着
③入院しており、非侵襲的換気装置または高流量酸素供給装置を装着
④入院しており、低流量の酸素補給を必要
⑤入院しており、酸素補給を必要としないが、継続的な治療を必要
⑥入院しており、酸素補給を必要としない。継続的な治療はもはや不要
⑦退院
の7段階で、小さい数字ほど悪い状態であると言えます。

 さて、両方の試験の大きな違いとしては、対照群があるかどうかです。
 対照群とは、今回のように対症療法のみを施したり、前回のレムデシビルの解説PART①で取り上げたように、プラセボという有効成分が何も入っていない薬剤を投与したりするグループのことです。

 著名人の死亡例や重症例の報道が多くその印象がどうしても残りがちですが、この感染症の患者さんの大多数は、重症化せずに快方に向かいます。そのため、薬剤を投与したお陰で回復したのか、それとも自然に回復したのかというのは判断が難しいものがあります(報道などで、〇〇を投与した患者の90%が回復!などという記事がありますが、その記事の解釈は慎重に行うべきです)。

 薬の効果を判断するためには、薬を使った人たちと使わなかった人たちの経過を比較することが一番です。しかも両方の年齢や持病などの条件に差がないことが望ましい。そのため、どちらのグループになるかはランダム(無作為化)で決められます。それによりある程度参加者が多くなればグループ間の条件は差がない(正確に言うと、結果に影響を与えるレベルでの差がない)と言えるようになります。

 ただ、もし自分や家族がコロナウイルスに感染し重症化し生命の危機を感じるレベルにまでなった場合、果たして、ランダムでこの治験薬を使えない方に当たるかもしれない試験に参加するかどうか・・・というのは難しい判断になるでしょう。そう考えると重症患者を対象にした試験の方には対照群がないのは理解できます。
 しかしながら、一方では有効性もそうですが、安全性も十分には確立されていない臨床試験(治験)の段階ですので、対照群であれば副作用のリスクはないから安心という考え方もあり、試験をどう計画して進めるかというのは非常に難しいものであると考えさせられます。

 この試験はレムデシビルの有効性やベストな投与タイミングを知るために非常に重要な試験だと思います。結果次第では今後の対コロナウイルス戦略が大きく変わってくる可能性が高いだけに、その経過を注意深く観察していきたいと考えています。