第18回書き出し祭り 作者予想検証

 第18回書き出し祭り、タイトルとあらすじだけを見ての作者予想の発表から一週間が経ちました。この間に本文が公開され、twitterでは感想やFAが飛びかっておりますが、企画盛り上げの一助となるべく、この辺りで予想が当たったか否かを検証したいと思います。

 まずは、第一会場から。

18-1-6.
奇天烈卿のヴンダーカンマー
予想:fさん
結果:fさん

 語彙、文体、「奇天烈卿」に対する精霊たちの塩対応等々、fさんですね。エンテナーシュ(あひるの尻)、というネーミングはもうfさんです。ありがとうございました。

18-1-12.
半年遅れのレシピブック
予想:井戸正善さん
結果:井戸正善さん……?
 タイあらから予感した通りの良質の作品で、書籍化作家さんでもおかしくない、と思いました。改行のバランスも過去作に似ているとも感じますが、確信はなく……。傍証として、主人公が六十歳代半ばの男性、というのは好材料でしょうか。井戸先生、過去の参加作品でも「あしでまとい」「使用人の幸福」と年配の男性を主人公に据えており、年齢経験を重ねたからこその重みや渋みの表現がお得意なのでは、と勝手に思っております。
 という訳で予想は変わらずです。

18-1-21.
不死の少女はただ終焉を希う
予想:天崎剣さん
結果:天崎剣さん、だと思う……!
 たぶん合ってる……と、思うのですが。全体的な改行のバランス、文体のほか、ヒロインに見入る主人公の少年の目線や、冒険への憧れ、一話で焼かれる(瀬戸際の)故郷、などはとても天崎さんっぽいと思います。
 物理的(?)な傍証として、
 ・「……、」「――、」という表記のし方
 ・場面転換の記号が「*」一個だけ
 ……辺りは天崎さんの現行の連載作とも合致していますね。
 という訳で予想は変わらずです。


 続いて第二会場に参ります。

18-2-10.
銃を教鞭に持ち替えたアマゾネス達 ~慈育・慈恩の精神を学び舎へ~
予想:トファナ水さん
結果:トファナ水さん
 私、おねしょたって言いましたよね!? トファナさんです、ありがとうございました。

 そして、第三会場を飛ばして第四会場です。

18-4-8.
ニエになるのもラクじゃない!?
予想:志村麦さん
結果:そもそも第三会場だったそうです……

 直近の作品と同じ題材、というだけで安直な推理をしてしまって申し訳なかったです! という訳で、第三会場の作品から再度予想です。

18-3-4.
花失致死

 志村麦さんの作品はこちらではないでしょうか!?
 推理にあたって、志村さんのカクヨムページを改めてじっくりと眺めてみました。その結果気付いたことは下記の通り。

 ・あらすじは必ず段落下げしている(ここを軽視してはいけなかった……!)
 ・ジャンルはホラミスに加えてSFもあり得る
 ・本文は、会話と地の文の間の空行を入れていない
 ・いわゆるネット小説的な長文タイトルはなさそう

 上記に合致する作品は意外と少なくてですね。18-3-12.「ハナレビト」は恐らく作風が違うので除外。18-3-23.「 血と獣の夜の終わりに」が流血描写のテイストが違うので除外。
 ということで「花失致死」を精読したところ、志村さんの過去作品と共通するやや独特な漢字の開き方に気付きました。
 人/ひと、貴女/あなた、何でも/なんでも、分かる/わかる、見る/みる 
 ……等々。漢字/ひらがなでニュアンスの違いを表現する手法は恐らくよくあるものではありますが、傍証としては有力なのではないかと思います。
 また、志村さんの過去作を見ていて、あらすじに「~することに。」という文末が散見されることに気付きました。「~することになった。」と言い切らずに省略することが多いようです。「花失致死」のあらすじにも一か所その文末があるのも好材料なのでは、と……。あと、「因習村へようこそ!」の流血シーンを読み返したところ、「粘っこい血」という描写が「花失致死」と共通していた点も言及しておきます。
 また、心証ベースですが、私が拝読したことがある志村さん作品と本作を比較すると、「性的な変化に対する少女の潔癖な心情」は「穴とピアス」、「同性の相手に対する複雑な愛憎、欲望」は「言わぬが花の乙女なり」に通じるところがある……気も、します! 

 私からの推理は以上です。

18-4-21.
サユリさん、事件です! ~幽霊宇宙船シエロンフラメ編~
予想:本庄照さん
結果:油断した! そっちでしたか……!

 前回の記事にて、本庄さんからのヒントを頼りに絞った……つもりだったのですが、21作品目で「コレダ!」と思った段階で追及の手を緩めてしまっておりました。不覚! そう、本庄さんの作風、および「あらすじの書き方」に合致する作品がまだあったのですよね……。

 はい、本庄さんの「あらすじの書き方」を再掲します。今、注目すべきは「ギミックは隠す」、すなわち「あらすじを読んだだけでは分からない驚きポイントを本文に残しておく」というところですね。隠しギミックがある作品……第四会場に、ありましたね? 「それ言ってなかったじゃん!!」な要素がある作品が……。

18-4-25.
夜の新宿、温めますか?

 という訳で、本庄さんの作品、こちらだと思います!! 琴子さんより後に提出した人がいるとは思わなくて油断していましたね。というか、正々堂々、ヒントに沿ったタイあらだった訳で、ミステリ者の鑑でしたね。
 それでも、タイあら段階だけなら「本庄さんは関東お住まいじゃないはずだし……」とも考えていたかもしれません。ですが、夜の新宿~には下記の一節があります。

今日の新宿の治安は大阪の西成未満

 東京の形容に大阪の喩えを持ってくるのは、関西住まいの方の発想ですよね……! (これはtwitterでfさんのご指摘を受けて気付いたので私の功績ではないです)

 また、前回記事で挙げた本庄さん候補作品(4-1、4-2、4-21)はいずれも一人称形式でした。本庄さんの過去作品を振り返ると、三人称形式で、視点人物からはやや距離を取った語り口が多かった……と、思います(少なくとも「俺はサル山のボスになる。」が反証に挙がるので絶対ではないですが、傾向として)。さらには、改行・空行の処理が本庄さんですね。地の文と会話文の間に空行を入れる/入れないは作者当ての重要な判別ポイントのひとつですが、本庄さんに関しては必ず空行を入れる/入れないという処理ではなく、適度に空行を入れつつ、会話と、(たぶん)意味・動作的に連続する地の文の間には空行を入れない、という比較的珍しい表記をされています。夜の新宿~もそうですね。

 それぞれ異なる・かつ強い個性のキャラクターの対比、会話での掛け合いというかツッコミ合いも本庄さんの作風と合うと思います。ので、予想を修正させていただきます!!

18-4-22.
Dead or TS:RTA 壊滅辺境伯令嬢の三十二人の兄と弟と未だ最愛のお姫様
予想:琴子さん
結果:琴子さん、だと思う……!
 タイあら段階での予想では、主に情報量と位置から推測される提出タイミングの遅さを論拠にしておりました。さらなる証拠を求めて本文を読んだところ、まず、第16回での琴子さん作品「ルゼの喝采、あるいはファランディールの偽典」では地の文と会話文の間に空行が入っていたところ、本作では詰まっていました。ですが、字数を削ろうとしたら行間は真っ先に削るよな、と思うので(本企画の字数はなろう準拠で改行・空白込みで換算するので)、この点は気にしなくて良さそうです。漢字遣いについても、「あなた」「わかる」と平仮名に開くのが共通している一方、「ファランディール」では「かなた」、本作では「彼方」と表記が必ずしも一致してはいないですが、これもまた字数の節約かもしれないし、と思っておきます。

 内容については──文体の品の良さ、説明の段落はあえて設けず、展開や会話の中で少しずつ情報開示していくスタイル、流れるような台詞回しの妙は琴子さんっぽい、と主観的には感じます。
 何よりも、ラスト付近に出てきた「とある一文」(ネタバレのためあえて引用はしません)は有力な証拠になる……気が、しました。書き出し祭りの提出締め切りが近づく中、琴子さんが字数の圧縮に苦労なさっているのを私はずっと見守ってきたのですが、「冒頭4000字のところで切る訳にはいかないのかなあ?」とふわっと思ってはいたのです。見せたい展開・情報があるのだろうとは思いつつ、良い区切りもありそうなのに、と。ですが、本作の「この箇所」を読んで、「確かにこれはここまで見せないと!」と腑に落ちたのです(あくまでも主観)。タイトル回収にもなるところですし、ここが開示されていないと感想も「なんで?」の嵐になることが予想されますし。あれほど頑張るのも納得です。やはりこれは琴子さんではないでしょうか。

 なお、念のため文体をもう少し検証しようと思って、琴子さんの短編を読ませていただきました。「公爵夫人の人魚姫」という作品です。

 あれ……変身、性別に関するギミック、義理の兄妹、既存の形に囚われない関係性、心の強さと行動力を兼ね備えたお姫様──本作との共通項が多いような? 願望により箇条書きマジックに惑わされている可能性もありますが、やはりこれは琴子さんではないでしょうか(二回目)。

 最後に、改めて祭り会場をご案内いたします。

 プロアマ混合の匿名企画、タイトルあらすじと書き出しだけで「続きが読みたいか」を競う「第18回書き出し祭り」は、5月13日(土)まで! 100作の中にはきっと好みに合うものもあるはず──ということで、読んだり感想を呟いたり、作者予想をしたりすると良いのではないかと思います!

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