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#23 羨ましさのさきに

お散歩をするときは、いつもイヤホンをつけている。今日歩き始めると、はずそう、と思った。風が強くて木の葉がわさわさと音をたてている。桜の花びらはひらひら舞っている。お花をじーと眺めて観察しているおばあちゃんがいる。

向こうから2歳くらいの子供を抱っこしたお母さんが歩いてきた。小さな子供を連れてゆったり散歩している(ように見える)親子と出会うと、羨ましい気持ちになる。自分が同じような時期には、早くひとりの時間が欲しいと、もがいていたはずなのに。目の前のお母さんも、もしかしたらいつかのわたしと同じように、ひとり時間に飢えているのかしれない。それでもわたしには親子の姿が羨ましく映る。

いつもなら、もう戻ることはできない時間にきゅーと切なくなっていた。けれど今日はちがった。そうだよ、今の親子関係をめいっぱい隅々まで味わっていこうよ、と。春だ、なんだか前向きだ。

向こうから歩いてきたお母さんとすれ違うとき、思わず微笑む。わたしの目は緩み、やさしい顔をしていたと思う。お互い相手のことは知らない。軽く頭を下げあう。ふと届く笑顔の中には、人の想いが詰まっている。自分がやさしい気持ちで微笑みを届けたことでわかった。

今日イヤホンに夢中だったら、あの親子に微笑むことはなかったと思う。そして、羨ましさの先にある気持ちまでは辿り着かなかったはず。耳がフリーなお散歩もなかなかいいものだな。

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