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#21 いつかどなたかへ

息子と外出した。好きな電車に乗り、各駅のメロディを聞くという、だいぶマニアックな時間にお供させてもらった。距離的には移動していても電車に乗ってる時間が長いため、スマホの万歩計は足のだるさの割には増えていない。

ターミナル駅でパン屋さんのイートインでお茶をすることにした。座席はお客さんでいっぱい。パンよりおにぎり派の息子が、この日は食パンなら食べられるから、と。ただお茶したいだけの男になっていた。親に似てきたな。

わたしは、最近メロンパンにはまっていて、パン屋を見つけては買っている。この日もお茶のお供にメロンパンをいただく予定。

気持ちはスタンバイオッケーなのに、席がない。「ねえねえ、席がないから違うところにしようよ、仕方ないって」と息子に言うのだけど「だいじょうぶ、並ぶから」と譲らない。「なによ、いつもパン食べないのにさー」

こんな親子のやりとりを遠くで見ていてくれたのだろうか。

まったくもう、と呆れた顔をしながら目線を息子から客席に戻す。一番奥に座っていた女性。娘でも見つけたかのように、わたしを見ながら手を挙げている。そして「ここ空くから」というジェスチャー。

やさしい。人のやさしさって、ほんっとに染みる。疲れを溶かしてくれる。

「ほらちゃんとお礼言うんだよ」と口うるさい親になり、息子とともにお礼を伝えた。女性は「ぼく食べたいもんね」と息子に声をかけてくれた。お孫さんがいるのかな。お孫さんを想いながら息子を見ていてくれたのかな、そんな想像をする。

やさしい気持ちって嬉しい。わたしもこの女性から受け取った気持ちを、どこかフードコートとか、お祭りとか、あとどこかあるかな。いつかどなたかにお渡ししたいなと思った。

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