見出し画像

苦しんだいわき戦、FWエロンの守備における振る舞いについて

6月2日に行われた、アウェイいわき戦。勝利したものの、仙台にとっては苦しんだゲームとなった。


前半6分にデザインされたコーナーキックから左SB髙田のスーパーなボレーで先制し、いわきに攻撃の形を作らせないままに前半を終えた仙台。後半開始早々に追いつかれたものの、FWジョージ(オナイウ 情滋)の強烈な一撃で逆転に成功し、ふたたび優位に立つ。そこまでは良かった。しかし、優位だったのはスコアのみで、その後はいわきの猛攻を受け続ける形となり、GK林の幾度とないビッグセーブや相手のシュートがポストに当たる(仙台にとっての)幸運がなければ、引き分け、もしくは敗戦していても不思議ではない試合だった。


そのように、内容的にはけして満足のいく試合ではなかったが、結果として仙台は1失点でゲームを終え、強敵いわき相手に勝ち点3を手にしている。このゲームにおいて、後半41分に投入されたFWエロンのプレーが印象に残ったので、試合翌日の熱が冷めやらぬ状態で書き記したいと思う。


いわきの猛攻、耐える仙台


仙台が逆転に成功し、2ー1で迎えた後半17分。いわきは左WBの坂岸に代わり、大迫塁を投入する。左足の精度が高く、攻撃において存分に能力を発揮するこの若きレフティに、仙台は苦しめられる。


後半、いわきは3バックの両脇である石田、五十嵐を上げ、丁寧な保持からサイドを起点に仙台を攻略しようとしていた。左CBの石田の対応は2トップの一角であるジョージが担っていたが、石田はある程度自由にボールを持つことができ、同サイドの大迫にスムーズにボールを供給することができていた。


仙台の右SHとして出場していた郷家は中央のスペースを埋めるため、ボランチに近い位置で待ち構えている状況だった。そのなかで、左WBの大迫はタッチライン沿いに立ち位置を取っていたため、仙台としてはマークにつく人間がおらず、大迫はプレッシャーがかからない状態でボールを受けることができていた。大迫の左足の精度は相当に高く、ピンポイントで合わせるアーリークロスが幾度となくサイドから供給されていた。68分の有馬に合わせたシーンはノープレッシャーとはいえ、ここしかないというコースにクロスが放たれており、仙台としては肝を冷やした瞬間だったといえよう。


いわきのサイド攻略の意図は明確だった。いわきは攻撃時、ボランチである山口やシャドーの谷村が仙台の右サイドの奥深くまで侵入し、交代した真瀬と入れ替わって右SBのポジションについていた髙田のマークを引きつけていた。特に山口のポジショニングは嫌らしく、髙田が大迫のマークに向かった際には空いた右サイド奥のスペースにパスを受ける目的で移動し、仮に受けれずとも、ノーマークの山口に対応しようとしたボランチ松下を引き連れてサイドに侵入することで、仙台の中央の守備を手薄にできる働きをしていた。その山口の動きがあり、また大迫が右SBの高田が対応するには微妙な立ち位置を取っていたこともあって、大迫はよりフリーの状態でクロスを上げ続けられる構図が作られていた。大迫を活かすためのいわきの戦略に、仙台は対応が間に合わないシーンが散見された。


75分に西川の決定的なシュートをGK林が防いだ場面は、その思惑が結実した瞬間だったといえる。髙田が大迫に対応するために前進すると、その背後の右奥のスペースに山口が侵入、山口を警戒してマークについていった松下をバイタルエリアから引き剥がすことで中央のスペースが空き、その空間に大迫がパスを供給。松下不在で空いたスペースをCB小出が埋めに行ったことでDFラインにバラつきが生じ、守備が後手後手になり、決定的なシーンを作られてしまった。守護神、林のビッグセーブに救われた場面だったが、チームとしては完全に守備を破られていた。危険な状態だった。


時に、FWの中島が前線からカバーに降りてこなければならないほど、チャンスを数多く作られていた仙台。その後、有馬に代わり、ハイボールのターゲットとなりうる長身FWブワニカ啓太が投入されたことで、いわきのクロス攻撃の意識はさらに高まるように思われた。仙台側としては、いつ守備網を完全に突破されてもおかしくないシチュエーションが連続していた。


FWエロン投入、エロンのチームを助けるプレー


それでも、なんとか猛攻を耐え凌いで迎えた後半41分。松下に代わってSBの内田、中島に代わってFWのエロンが投入された。内田が左SBに入ったことで、事前に途中投入されていた左SB石尾がCBとなり5バックに。空いたボランチのポジションには郷家が入ることで、5ー3ー2に近い布陣となっていた。その交代で入ったエロンのプレーに光るものを感じたので、以下に記しておきたい。


当初、エロンはFWの中島と交代したこともあり、2トップの位置にそのまま入っていた。だが、時間の経過とともにエロンは後半28分に投入されていたFW中山をトップに残す形で右のSH、もしくはWBに近いポジションを取るようになり、対面する大迫をマークする役割を担っていた。おそらくはベンチの指示によるものなのではないかと推察するが、その働きが適切で、また的確だった。


いわきの左サイドで躍動していた大迫に対し、エロンは前進させない、得意の左足で上げさせない適度な間合いを取ることで、攻撃への関与を防いでいた。エロンの対応が良いことで大迫はタッチライン沿いでのプレーが思うようにできず、中央へとボールを戻さざるをえない場面が少なからずあり、その左足が無効化されていた。エロンがWBの位置に下がってからは、大迫がクロスを上げる機会が極端に減少したことからも、大迫封じは成功したといえる。堅実に、丁寧にエロンが守備を行ったことで、いわきのストロングポイントのひとつを抑えることができたのである。


また、エロンは繋ぐ場面とハッキリと蹴って時間を使う場面、その判断の良さが光っていたのも、賞賛に値する部分だった。


89分のシーン、右サイドにてクリアのこぼれ球を自陣で拾ったエロンは迅速に前に蹴ることなく、逆サイドにいた(後半15分に投入されていた)左SH相良を見つけてパスを出し、速攻への筋道を立てた。攻勢だったいわきが前線に人数をかけていたこともあり、中盤にはスペースが生まれていた。マークがついていなかった相良は良い状態でパスを受け、左SBの内田へと繋ぐ。その際の内田の攻め上がりの判断の良さも褒められるべきものだが、クリアと繋ぎの使い分けを明確に行ったエロンの機転が効いたシーンで、最終的に内田が上げたクロスが合うことはなかったものの、いわきをもう一度自陣に押しこむことができた。


一方で、91分のシーンは(カバーする味方がおらず、状況的には最善なこともあって)エロンは右サイドの奥からボールを大きく前に蹴り出すのだが、そのボールもタッチラインを割らない、CBを越えたために相手のGKが触らなければならない適切な長さで、仙台としてはDFラインを上げて一息つく間が生まれ、同時に時間も消費できる、いわばチーム全体を助けるクリアだった。いわきとしては、長身のブワニカ啓太がいることもあり、角度のついたクロスを入れたいところではあったのだろうが、エロンがマークについた後は左の起点になっていた大迫が消されたことでサイドからのクロスが減り、CBによる浅い位置からのロングボールが増える原因となっていた。その一因として、エロンの守備の上手さが寄与していたのではないか、というのが試合を観たうえでの感想である。


チームのために戦える選手


エロンは守備力の高さが特徴のひとつであり、FWでありながらWBに近い位置でのプレーも献身的に行う、いわゆるチームプレーができる選手でもある。守備に関してもガムシャラに走り回るのではなく、巧みな位置取りや適切な状況判断が可能であることからも、知性に優れたプレーヤーであるのが窺い知れる。


助っ人FWとして得点がない状況ではあるが、そのなかでも腐らず、チームのために利他的に戦えるのは間違いなく選手としての強みであり、サポーターとして背中を押したくなる長所でもある。限られたプレー時間であっても全力を尽くし、自己の役目を全うしようとする選手には、拍手を送りたくなる。エロンだけでなく、そうした選手にチャンスが巡ってくることを願ってやまないし、ベガルタ仙台は、そうした選手にチャンスが与えられるチームであるように感じている。チームのために戦い、ハードワークする選手が報われますように。いわき戦のエロンを見て、また同様にチームプレーを遂行する多くの選手たちを見て、その思いは強くなった。


様々な選手の頑張りがあっての勝利


仙台は逆転後、いわきに長い時間自陣に押しこまれながらも耐え抜き、2ー1で勝利した。ボランチの司令塔である長澤に代わって起用された松下の奮闘、名願の卓越したドリブルセンスによる突破の数々、髙田のスーパーボレーにジョージの気持ちのこもった逆転弾、そして、林のチームを救うビッグセーブ連発。様々な選手が勝利に貢献したことは言うまでもない。


だがそのなかで、目立たないながらもチームを助けるプレーを実直に行っていたエロンも、他の選手と同様に勝利に貢献した1人であることに間違いはなかった。苦しみながらも全員で戦い、勝ち点3を得たいわき戦。大きな収穫があったと同時に、改善すべき課題も見つかった意義のあるゲームだった。

この記事が参加している募集

いただいたサポートはベガルタに関する費用として使わせていただきます!