見出し画像

映画「仮面の男」感想(ネタバレだらけ)

ワクチンの2回目接種翌日の副反応に備え、今日はダラダラして映画を観るぞと決めていたので、フレッシュネスバーガーをウーバーしつつ満を持して映画「仮面の男」を観ました。
面白かった!ので、観ながら騒いでいた感想を備忘録的にまとめたよ。

原作小説『ダルタニャン物語』のオタクなので、原作への言及がかなりあります。


*****

ストーリー展開は原作と大きく違うのに、原作のエッセンスが生きているシナリオだった。
「考え方の違いやそれぞれの守るものの違いによって政治的な立場を異にするも、友情によって互いを援け合う」という、原作『ダルタニャン物語』の醍醐味をちゃんとやってくれててめちゃくちゃ嬉しかった…!何よりもまず第3部時代の三銃士とダルタニャンの姿を見られたことがもう感慨深すぎたな…
銃士隊の衣装がかっこよくて、絵になっていて素敵だった……
青と赤!!そして強い男は黒!!!(馬鹿の感想)

『三銃士』の時代には銃士見習いとしてパリに飛び込み、その後もなかなか銃士隊長になれなかったダルタニャンが銃士隊長として部下を率いている姿を見られて、母のような気持ちになってしまった(母?)
民衆との対峙の場面では、ダルタニャンの毅然とした風体が原作でイメージしていた通りで、やっぱりダルタニャンはカッコイイ男だなと思った カッコいいな〜…!


アラミスとポルトスが冒頭から仲良しで嬉しかった🥰『仮面の男』の中で老ポルトスは持ち前の豪快さを失って死を考えたりするわけだけれど、やっぱり深刻になろうとしてもなりきれないポルトスが好きだし、アラミスがそれを平気の平左でいなしている様子が2人らしい。原作でも第3部のアラミスとポルトスのコミカルなやり取りが大好きなので…(そして、それをふまえて原作のポルトスの最期を思うと、大変に辛い)
(大変に、辛い。)

鉄仮面騒動の原因は、原作と『仮面の男』でシナリオが多少異なるものの、どちらもアラミスがきっかけになっている。陰謀と根回しで権威を欲しいままにしたアラミスの「食えない男」っぷりが健在で、コラ〜!と思いつつかなり嬉しかった。
原作も、コラ〜!と思いながら読んでいた。
女好きを封印し、神学と権威の道を突き進むようになる3部アラミスの、しかし三銃士の中で最年少なだけあってアトスやポルトスよりどこか若々しく、老いを知らない雰囲気、とても好きだったな…

それにしても、フィリップくんはアラミスの陰謀のために突然夢を見せられて、与えられた夢を一夜にして脅かされてかわいそうだよな。アラミス〜(叱責)
特に原作では、もともとは自分の置かれた状況に満足していたにも関わらず、アラミスに唆されて王の栄華を求めるようになってしまうわけで…あの場面は人間の業を感じて凄く好き。
『仮面の男』ではルイとフィリップの演じ分けも良かった。さすがレオ様である。同じ顔・同じ人物なのに、所作の端々でそれぞれのキャラクターが分かって、事情を全て知って観ている側としてはハラハラドキドキさせられた。
わたしは『GHOST WRITER』という舞台でダルタニャン物語を知って原作を読んだのだが、『GHOST WRITER』における2人の入れ替わりの演出は「仮面の男」のオマージュなのかな?と思った。
『ダルタニャン物語』を原作にしてさまざまなオマージュ作品の世界が広がっているので、オマージュ作品同士の関係性を追っても面白そうだなと思った。(沼……)


アトスの描写が原作とはかなり違いつつ、彼の人間性については解釈が一致してして、アトスの生存ifストーリーをみているようで苦しくもあり…有り難くもあり……
原作のアトスについて、わたしは「慈愛の対象」を持たないと生きてゆけない男なのだろうと解釈している。
妻ミレディーを失い、ともすると自暴自棄になるきらいがあったアトスは、銃士時代にダルタニャンという息子のような友(※『仮面の男』では「兄弟同然だった男」と表現されていて微笑んだ)を得て銃士時代を生き延びる。
引退後はラウルという最愛の息子を愛することで生きる楽しみを見出していたわけだけれど、死に向かう息子を見送ってから衰弱し、息子の死を知って息絶えてしまう。
それまでなんとか繋がっていたアトスの命の糸は、ラウルという慈愛の対象を失ったとき摩耗して切れてしまったように思っていたので、『仮面の男』でアトスがラウルの死後もぴんぴんしていて最初はびっくりした。
しかしラウルの死後、ひどく苦しみながらもフィリップに"王の何たるか"を教えていて、『仮面の男』ストーリーでのアトスはラウルを喪ってなお、その哀しみを超えてフィリップに息子に与えていたような慈愛を注いでいるのか…『仮面の男』世界線でアトスが生きてるのは、フィリップという新しい"慈愛の対象"を見つけたからなのでは……と気がついて胸いっぱいになってしまった…
アトス、やはり誰かを愛さないと生きてゆけない男なんだな…と思った。
アトスがフィリップを説得する場面で
「アラミスには信仰、
ポルトスには生命力、
ダルタニャンには忠誠、
わたしにはラウル」
というアトスのセリフがあり、ウワーッとなった
(※ 日本語ではこう訳されていたが、原語だと「〜had 」になっていて、泣いたよ。)


原作とのシナリオの相違は多々あるが、別世界線と思っているのでかなり楽しめたよ!という前提のもとなんだけど、
第3部が原作になっていたのでラウルが出てきて嬉しかった反面、「鉄仮面」をメインにした作品なのでラウルの描写がさっくり終わってしまったのはちょっと寂しかったな〜。「仮面の男」ではルイがラウルの前線行きを命じていたが、わたしは原作でラウルが何巻にもわたってじっくりコトコト外堀を埋められて絶望し、最終的に自ら戦地(=死という"救い")を選んだところが好きなので…
(そもそも何巻にもわたってラウルの精神をめためたにしてくるデュマが異常なんだけど…)
ラウルの精神を壊すことにかけて物凄い熱量を持って描写してくるデュマの拘りを感じるには、やはり原作を読むしかないのだろうと思った(異常なので…)


*****

総じて、原作の好きなエッセンスもりもりでとっても嬉しかった!
小説から頭の中でイメージを作るのが好きだけど、映像にされたものを観るのはやっぱり解像度が上がって嬉しいですね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?