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安宅(あたけ)水軍抄

日置(ひき)の湊(みなと)には太鼓の音が響き、いつになくにぎわっていた。
日置川の岸には水干姿の若衆がひしめき、沖合の一点を見つめている。
その視線の先には、巨大な軍船「安宅船(あたけぶね)」が舳先をこちらにむけて浮いている。
その脇に小ぶりの関船(せきぶね)が二艘控えていた。

今日はこの安宅船「龍泉丸」の進水の斎行の儀が執り行われているのだった。
関船や快速船の小早(こはや)とは違い、安宅船は箱型で楼閣を中央に持ち、さながら海上の城だった。
周囲の鎧板には無数の狭間(ざま)が穿たれ、まさに要塞である。
熊野別当から神官たちがよこされて、本日の斎行を取り締まり、高らかに祝詞(のりと)が述べられ、その声は海風に乗って海岸の群衆にも聞こえた。

その群衆の中に、三好鱶太夫(みよしふかだゆう)隆景(たかかげ)と十河陣出太郎氏家(そがわじんでたろう うじいえ)という二人の若者がいた。
二人のそばに、産み月を迎えた妊婦が二人寄り添っていた。
津名(つな)と水門(みと)の姉妹だった。
その腹の子は隆景と氏家の子だということはわかっているが、どっちがどっちの子なのかは誰にもわからなかった。

三好隆景も十河氏家も熊野水軍の一派、安宅(あたけ、あたか、あたぎ)水軍の大工方(だいくがた)で、普段は造船の仕事をしつつ、安宅氏の悪党として、沖合を通行する交易船を取り締まり、帆別銭(通行料)を徴収する役回りもさせられており、その際には返り討ちを被ることもあり、普段から剣術や槍術の稽古に余念がなかった。

今日の進水式は隆景と氏家の仲間たちが手掛けた「龍泉丸」の晴れ舞台だったのだ。

ところで、両人とも「三好氏」「十河氏」を名のっているが、実際に三好水軍や十河水軍の血筋の者かどうかはあやしいものだった。
鱶太夫は日置川の河口で産み落とされた親のない子として安宅氏家人(けにん)が養育し、幼いながらも歯が鋭く鱶のようだとしてそのあだ名がついた。
十河氏家の方はというと、やはり安宅氏具足方の陣出久家(じんでひさいえ)が、当時可愛がっていた十四、五の白拍子(しらびょうし)を犯して産ませた子で、淡路の十河氏に養い子に出されていたことから十河の姓を勝手に名のっていたにすぎない。

二人は「フカ」と「タロウ」と呼び合うほどの幼馴染で、いつも一緒に行動していた。
歳はともに十八になる筋骨たくましい青年であり、酒をよく飲み、よく喰らった。
そして酔えば、話は女のことばかりだった。
何を隠そう、フカもタロウも女を抱いたことがなかったのである。

水軍などというものは、男ばかりの集団で、衆道はあっても、それは女を抱く代償であり、それゆえに女への欲望はつのるばかりだった。
二人も、物心がついた時から覚えた「かはつるみ(自慰)」をし合うことに飽き飽きし、それよりも男として女を孕ませるということを渇望していた。
先達から「はよ、里の女に子を産ませて来い」と尻を叩かれながらも、できずにいた。
その上、先達たちに、衆道を強いられ尻の穴が開いたままのような感じを隠せなかった。
「なんとか、女を抱きたいわなぁ」
「ほんまじゃ」
夏の夕方、二人は船の材を担ぎながら、そんな泣き言を毎日のようにこぼしていた。
紀ノ國は「木の國」とも呼ばれるほど銘木を産したので、早くから造船で他国に聞こえていたのである。
飯尾の集落に差し掛かったとき、十五、六の女の子がたらいに水を張って水浴びをしているのを見つけた。
少女は誰も見ていないと信じているのか、一糸まとわない姿だった。
「おい」フカがタロウにめくばせをする。
二人は、材木をそっと地面に下ろして、夏草の陰に身を潜めた。
「お、おれ、ちんぼが立ってきたで」
「おれかてじゃ」
その若鹿のような肢体は、透き通るような白い肌で覆われ、珊瑚色の乳首がなまめかしく濡れて光っている。
唇は茱萸(ぐみ)の実のようにふくらんでいた。
すると粗末な板葺きの家の奥から年のころは二十半ばの、これまた豊かな胸をした女が出てきて何やら娘に話しかけている。
その女も素っ裸だった。
「おわ…」ごくり…
唾をのむ音が、互いに大きく聞こえた。
「フカよう、犯(や)ってまおか」
「だいじょうぶけ?旦那とかおるんとちゃうか?」
「ここの家は、たしか女しかおらん」
「タロウはなんで知ってるんや?」
「あの、姐(あね)さんと茶ぁをしたことあんね」
「はぁ?もう、つばつけたんかいな」
「いや、ちがう。昼のあんまり暑いときでよ、おれがこの辺でばてとったら、あの姐さんが白湯(さゆ)の冷たいのをもってきてくれたんよ」
「ほへぇ。ほな話は早いで。行こら」
二人は、材木をそこにほったらかして、女たちの板葺きの家に向かって土手を下った。

「あら」
恥ずかしそうに、着物で隠そうとする姐さんが、
「あんたは、この前の」
「おうよ」
とタロウが笑顔で旧知の仲のように答える。
行水の少女が、肩を自分で抱いて胸を隠すようにしておびえたようにうつむいて震えている。
「いやあ、あんたらがあんまりきれいなんで、おもわず来てしまったわい」
「お兄さんがた、あたしら水浴びから上がりますんで、ちょっとお待ちを」
「そのままでええで。わしら、ちょこっと姐さんらとええことしたいなと思ってよ」
女の表情が一瞬、曇ったが、
「この子はかんべんしてやって。まだおぼこやから」
「それは、まあ、そやなぁ」
とタロウがフカを見る。
フカも「ああ」と言って同意した。
女は、自分が犯されることを覚悟してしまったみたいだった。
そうすることで身の安全を守る術を心得ていたのだろう。
そして幼い妹を守る事にもなることを。

夕暮れが訪れ、灯明が焚かれた。
少女は奥の間に引っ込んでしまい、女が夕餉の支度をして、男二人をもてなす。
なけなしの酒をふるまわれ、程よく酩酊した二人はめくばせしながら、
「姐さん、名前はなんていうねん?」
「津名(つな)と…」
「あの子は?」とフカが訊く。
「妹は水門(みと)と言いまっす」
「あんたら、親はいいひんのけ?」
「二年(ふたとせ)前に死にまいた」
「ほうけぇ。あんた旦那は?」とタロウが言い、杯をあおって口を拭う。
「おりましぇん」津名が答えた。
タロウは居住まいを正して、津名に向かって、
「姐さん、ややこ(赤ん坊)欲しないけ?」
津名の眼が引き締まった。ついに来たかという感じだった。
フカもその表情を真剣なまなざしで見ている。
「ほ、ほしいです…」
津名が口を開いた。
誰の子でも、子を宿せば安宅水軍から養ってもらえる…
「兄さんらは、水軍の出ぇですか?」
「いかにも。なぁ」
とタロウがフカに振る。
「ああ。御館様から大工方をおおせつかっとる」とフカ。
津名が安堵した風で、お辞儀をし「お情けを頂戴いたしたく存じまする」と額づいた。

「あのな、つなとやら、ミトはまだ、あれか?」
フカが尋ねる。
もう大人かと訊いているのだった。
「あれも、こないだ、月のものがおとずれましたところで」
「ほな、いけるな。うまくすれば二人分の御手当がでるぞい」
しばらく津名が考えるように押し黙った。
すると、障子が開いて、水門が幼い顔を出して「姉さ、あたしもお情けもらいてぇ」
「ほう」と喜びの声を上げたのは鱶太夫のほうだった。

安宅水軍では、安宅城下の日置の女を孕ませ、子をなすと母親に養育のための銀子(ぎんす)やら米やら魚を与え、子が男児なら十(とお)で水軍に召し上げられ、女児ならそのまま母の元に留め置かれる。
そしてゆくゆくはこの女児が水軍の子孫をもたらすのである。
召し上げられた男児は水軍の兵として厳しく育てられる。
鱶太夫隆景も陣出太郎氏家もそうして水軍の飯を食ってきた男たちなのだった。

女も、食い扶持を与えられるのならと、よろこんで体を差し出した。
女は十四ぐらいから、三十路ぐらいまで、いや四十路近くでも食い扶持欲しさに水軍の男どもに秋波を送るのが日置の女なのだ。
ゆえに、安宅城下の女は特定の亭主を持つ者は少ない。
みな、女は子を産むために生きていた。

鱶太夫がおぼこの水門(みと)を組み敷いていた。
その隣で、津名が太郎氏家にまたがって腰を振っている。
「つなは、経験があるんか?」と氏家。
「ええ、まあ」
「ほんまはな、おれは、ないんじゃ」
「ようござんす。あたしがお教えいたしましょ」
そう言って氏家にまたがっていったのだった。

こっちは、鱶太夫隆景も初めてで、水門も初めてである。
これは、どう見てもうまくいきそうになかった。
「あ、ああ」
鱶太夫が、蛙のような水門の腹に精汁を放ってしまった。
「鱶太夫様、そのまま、そのまま」
腰を振りながら、姐御肌の津名が氏家の上で振り向いて声を上げる。
「津名さんよぅ。こりゃしばらくできんわい」と、しょげる鱶太夫だった。
「フカさん、まだ若いんやから、すぐできますって。みと、拭いてさしあげて、お口でしゃぶってあげな」
「ええっ?」
頓狂な声を上げたのは水門のほうだった。
着物の裾をたくして、その先で水門は腹の子種を拭き取り、尻もちをついて坐っている鱶太夫のまたぐらに顔を近づける。
まだ、精汁でぬらぬらと灯明の光で光っている一物をつまみ、周囲の毛を押さえて匂いをかぐようにして、水門は顔をしかめた。
ひどい臭いなのだ。
精汁だけではない、何日も洗っていない若い男の股間である。
しかし水門は、孕まされたくって辛抱してその柔らかくなった茎(くき)を愛らしい口に含んだ。
臭いは、慣れてくるものらしい。
水門は、その茸(きのこ)のような一物を愛おしげに舐め、だんだんに硬く大きくなって、その小さな口からはみ出すほどになると、むせ返った。
おほっ、げほっ…
「おっき…」
「そうか」得意げな鱶太夫だった。
氏家の物より、長く、太く見えた。
氏家はというと、今度は津名を下にして腰を入れている。
津名は、狂ったように声を上げ「死ぬ、死ぬ」と叫んでいる。
姉の変貌ぶりに水門は驚きを隠せない。
「姉さ、死んじまうんじゃ…」
「死ぬもんけ。あれで、よがってんだ。お前も、死ぬほどよがらせてやんべ」
鱶太夫は水門をころがし、氏家がやるように上から水門を差した、
「ぎゃわっ!」
痛がった水門は悶絶して、死んだようになった。
大きな鱶太夫の肉棒が水門の幼い陰門を裂いて、血をほとばしらせている。
「あわわ」
それでもかまわず、鱶太夫は水門を突き上げ、木偶人形のような少女を犯した。

饗宴は夜ふけまで続いた。
今度は津名と鱶太夫が繋がり、痛みが引いて、むりやり広げられた水門が氏家のやさしい突きにあえいでいた。
「あんさんの、おおきいなぁ」
津名が鱶太夫に乗りあがって、腰を波打たせるように使う。
津名の陰門から、氏家が放った子種が掻きだされて、泡を作って鱶太夫の陰茎にまとわりつき、淫靡な音を立てている。
「うほっ」
氏家が少女の中に果てたようだ。
「お兄様…ありがたき幸せ…」
「ああ、ミトよ…めごい(かわいい)のぉ」
氏家と水門が見つめ合って、そんなことを言い合っている。

「そろそろ姐さん、おれも」
「ああ、鱶太夫、くださるのね。いっぱいくださるのね」
「つなぁっ!」
音が出るような射精だった。
津名の肉鞘のすき間からほとばしる精汁…
それでも津名から鱶太夫は抜こうとしない。
抜けないのだ。
「おほぉ…津名どの」
「鱶太夫さまぁ」

夜明けまで、彼ら、彼女らの交わりは飽くことなく続いたのだった。

そして今日の佳き日を迎えたのだった。
「つな、良い子を産んでくれや」
「あい」
「みと、おまえもな」
「ええ」
無事進水した軍船「龍泉丸」に手を振りつつ、二人の男と二人の女が岸辺に寄り添っていた。

(おしまい)

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