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定幅図形(ルーローの多角形)

機械工は金属加工(NCや旋盤、ボール盤など)の技術もそこそこ知っておかねばならない。
正方形の穴を開けるという一般には「難題」と思われる技術があるが、これは断面が「ルーローの三角形」になっているドリル刃を回転させて開ければ、ほぼ正四角形の穴が開けられる。
「ほぼ」と書いたのは四隅の角に「アール」がついてしまい、直角には切れないからだ。
この動画を見てもらえれば、なぜそうなるのかがわかっていただけるだろう。

このおむすび型の三角形はルーローという機械工学の先生が機械要素として応用したからである。
図形自体は初等幾何学でなじみ深い、正三角形の一辺を半径とし、各頂点を円の中心に作図した三つの円周の一部が描く図形である。

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私がCADで描いてみた、この「おむすび型ABC」は、定幅図形にカテゴライズされる曲線図形だ。正三角形ABCの各頂点は円A、円B、円Cの中心でもある。ゆえにこの「おむすび型ABC」の周は各円の半径が描いているので「定幅」なのだった。
ところで、代表的な定幅図形は円である。
円は直径が最大径(当たり前だが)ゆえに、その直径より少しでも小さい円の穴なら絶対に通り抜けられないので、マンホールのふたに応用されるのだった。
ところが、そういう性質の図形は円に限らないことが上の作図でもわかる。
つまりルーローの三角形に始まる「ルーローの多角形」は、みなそうであるからだ。
各頂点からもっとも遠い点までを半径にして円弧を描いているからそうなるのだが、気づいてほしいのは、必ずルーローの多角形は奇数頂点正多角形であることだ。
たとえば「ルーローの正方形」は存在しないのである。
奇数頂点の正多角形だと頂点の対辺を挟む二つの頂点までの距離を半径とする円弧が描けることが大事なのである。
そうするとその挟まれた対辺の外側を円弧が通る(外に膨らんだ多角形になる)から。

ルーローの多角形をマンホールのふたにすれば円と同様にぜったいに落ち込まない。
ただ円のほうが作りやすいから、マンホールのふたはたいてい円であろうし、穴にふたをはめるときに向きを合わせないといけないからだ。
珍しい事例で、イギリスの「50ペンス硬貨」はルーローの七角形になっているそうだ。

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この硬貨の特徴は、自動販売機の中でひっかからないということだ。
つまり円形と同じく定幅図形だからである。
それなら別に円形でいいではないかと思うが、デザインだから文句を言っても始まらない。
無駄におもしろい利用法だ。

ルーローの三角形に話を戻すが、この形状は先ほどのドリルの例以外に、産業上の利用がいくつかある。
クルマ好きの人なら「ロータリーエンジン」だと即座に答えるだろう。
マツダが実用化した国産エンジンでもある。
マツダ「コスモ」に搭載されていた。
「ルマン耐久レース」でも1991年に総合優勝を果たしている。
ルーローの三角形のローラーが吸気、圧縮、点火(爆発膨張)、排気と一回転で終え、その回転運動を軸に取り出しタイヤを回すのだ。
一種のカムである。
この機構はエアコンなどの圧縮機(コンプレッサー)などにも応用されている。
静音性に優れているのだった。
最近ではパナソニックがお掃除ロボットの形に応用して、なるべく部屋の隅をくまなく密着して掃除できるようにしている。
「死角に強い」形なのである。

工学のすばらしい成果ではなかろうか?

私が手伝っている塾の生徒が「国道の標識はルーローの三角?」と質問してきた。

標識

ウィキに図面が出ていたので調べてみたが、一見、ルーローの三角形に見える。しかし、一辺が450㎜の正三角形はよいとしても、その辺の曲率半径が600㎜に指定されている。ルーローの三角形であるためには、一辺の長さと曲率半径が等しくならなければならない。そうでなければ定幅とならないからだ。

ここまで、読んでいただいた殿方、萎えさせてごめん。


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