土台人 2
夜はパブになる組事務所に二人の男がテーブルに向かい合って座っていた。
「おい、李(り)」
「へえ、大将」
大将と呼ばれた中年の男は指定暴力団「琴平会」の会頭の蒲生譲二だった。
「お前、きんじっせい(金日成)の手先て、ほんまけ?」
※金正恩の祖父が金日成
「おれは、そんなもんやないです。ただ向こうの工作員に連れてこられて・・・」
一方の青年は在日朝鮮人の李鐘吉(イ・ジョンキル)といった。
「手先やんけ。どこが違うんじゃ!」
蒲生が、声を荒らげた。
「大将かて、朝鮮に金(カネ)送ってますやん」
「別にチョーセンだけに送ってんのとちゃうわい。ビジネスや。ビ・ジ・ネ・ス」
「ヤクの代金ちゅうわけですか」
「せやから、中国もチョーセンもな、あいつらにとっては、わいはお客さんなんやて」
イライラしながら、蒲生は二箱目のタバコに火をつけた。
「大将、ほんで、金明恵(キム・ミョンヘ)のことですけど」
「アキがどうした」
金明恵(きん・あきえ)、通称「アキ」は蒲生の愛人だった。
彼女も李と同じ工作員に雇われた在日朝鮮人の「土台人(どだいじん)」であった。
「今、おれと、いっしょに住んでるんです」
「知ってるわい。手ぇ出すなと言いたいところやけど、一つ屋根の下におったら、ええ仲にもなるやろ。ほどほどにしとけや」
「それはそれとして承っておきます」
ニヤリと李は笑っている。
「なんやな。あらたまって」
「明恵のダチの横山ちゅう女がおるんですけど。そいつを拉致(らち)ることができひんやろかと」
「わけないがな。お前ら、しょっちゅうやっとることやろ?しかし、なんでその日本人が必要なんや?」
「本国では、女の技術者が必要やと言うてきてます。女の技術集団を作るんやとか」
「ふ~ん。アキにやらせたらええやないか。友達なんやろ?」
「嫌やて言うんですわ」
「情が移ったちゅうわけか」
「大将と明恵でなんとかできませんか?来月の九日の未明に福井の三国沿岸に快速艇が着きます」
「わかった。金日成の親分さんには、なにかとお世話になっとるからね」
晩遅く、アジトのアパートにイ・ジョンキルは戻った。
部屋の明かりはついていた。
雨は小降りになっていたが、傘を持っていっていなかったジョンキルは濡れてしまった。
ガチャ
「ジョンキルか?」
ミョンヘが振り返った。
「濡れてしもたわ」
「傘、持っていかへんかったん?」
「うん・・・」
「ごはんどうしたん?」
「東光軒で食べてきた」
「そう・・・」
「姐さんは食べてないの」
「待っててんや。しゃあないな、あたしも食べてくるわ」
「一緒にいくわ。ビール飲みたいし」
「悪いなぁ。つき合わせて」
二人は部屋の明かりを消して、小雨の街へ出た。
アパートから程近い、王将に入っていった。
「チャーハン一つと餃子二人前、ほんでビンビール一つ。あグラス二つね」
ミョンヘが頼んだ。
待たせないのが王将のいいところだった。
客は雨のためか少ない。
タクシーの運ちゃんがスポーツ新聞を広げて読んでいる。
食事を終えて、ジョンキルがおもむろに口を開いた。
「横山って人、どんな人なん?」
「なんでそんなこと訊くの?あの子は関係ないって言うたやん」
「あんな受信機をくれるって、女があんなもん普通、持ってるかぁ」
「なおぼん(横山のあだ名)は、ハムやってんねん。あんたも雑誌読んでるから知ってるやろ」
「知ってるけど、ああいう人が国には必要なんやなぁ」
ミョンヘはジョンキルを睨んだ。
「あんたな、これ以上、なおぼんのこと言うたら承知せえへんで」
ジョンキルは黙り込んで、泡の消えたビールをすすった。
「姐さん、ターゲット(拉致対象)を決めなあかんねんで。来月には船が来るし」
「ほんで、なおぼんがほしいんかいな。安直やな。たいがい」
ミョンヘがビールを継ぎ足しながら言う。
「それだけやないねん。本国の情報部から、その横山ちゅう人の住所やら家族構成やらが届いてるねん」
「ええっ?どういうことなん」
「実は、これ」
ジョンキルがジャンバーのポケットから折りたたまれた便箋を出してきた。
ハングルがびっしり書かれている。
一部漢字になっていて、それが「横山尚子、住所、京都府宇治市・・・」と細かく書かれていた。
化学工学専攻、大学の名前まで読めた。
「それな、彼女が、朝鮮中央放送に受信報告を書いたらしいねん。それで向こうに登録されてて、姐さんの話を総合したら、アタリやったわけや」
「あ~、なんちゅうこっちゃ。なおぼん、あほやなぁ」
「な、姐さん、横山尚子をターゲットに。ええやろ?」
「考えさせて・・・」
その晩、ジョンキルがミョンヘの布団にしのんできた。
大将のお墨付きがあるからと・・・
「ちょ、ちょっと。なにすんの」
「ええやろ?姐さん。もうおれたまらんねん」
「あたしは、蒲生の女やで。わかってんのか?」
「大将は、ええて言うたで」
「あの人・・・ただの都合のええ女扱いにしやってから」
「な、ええやろ」
「もう、しゃあないな。いつかはこうなると思ってたけど、昨日の今日やで」
「一つ屋根の下に男女がいたら自然とこうなるて」
「いっちょまえのこと言うてから。はぁん」
ジョンキルの指がすでにミョンヘの外堀をなぞり、マメを見つけていた。
「い、いや」
「もう、べちょべちょやん。姐さん」
「言わんといて」
「おれのも触ってえな」
ミョンヘは言われるままに、手を伸ばし、硬くしこったジョンキルのオトコを握った。
「あ、熱い。ほんま硬いなぁ」
「大将のとどう違う?」
「若いだけあって、角度がちゃうな。それに長いなぁ」
「そうかぁ?姐さん、舐めさせて」
「うん、舐めて」
ジョンキルの長い舌がミョンヘの毛深い割れ目を探るように舐める。
「うふん、ああん、いい。いいわぁ」
ぺちょ、ぺちょ・・・
汁をしたたらせて、貝のような秘部がうごめく。
「あんたのも舐めたげる」
ジョンキルが上のシックスナインになった。
「おふっ。おおきいな。口に入らんわ」
「下の口に入れよか」
「もう入れて」
「ほな」
体位を入れ替え、正常位でジョンキルがミョンヘを貫いた。
譲二と違って、一気に根元まで押し込まれた。
「うあっ」ミョンヘが悲鳴を上げる。
「痛いか?姐さん」
「ちょ、ちょっとな。やさしくしてえな」
「ごめん」
布団は捲くれ、シーツがよれて、めちゃくちゃになっている。
「うしっ」
「はうっ」
若い男が熟女に乗りかかり、懸命に気を遣っている様は輝くようであった。
「あんた、なかなか逝かへんな」
「まだまだ」
「もう、逝ってくれてええよ」
「中に出してええのか。姐さん」
「ピル飲んでるから、かまへん。譲二ちゃんもいっつも中出しや」
「ほなら、遠慮なく」
バックから突き上げられ、その打ち込むスピードが譲二の何倍も速い。
まるで機械だ。
「ああ、すごい、もう、こわれる。いっくうっ」
「うああ、ああ、姐さん、いく、いく・・・」
びしゃっと奥に熱い噴出を感じてミョンヘも同時に逝った。
折り重なって、二人はしばらく動かなかった。
そとの雨脚が激しくなっていた。
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