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旅立つとき

私はフロアの樹脂タイルの模様に視線を落として、ぼんやりしていた。
「スギタチヅルさぁん」
ふと私の名を呼ぶ声が聞こえて、現実に引き戻された。
「あ、はいっ!」
診察室のドアが開いて、眼鏡をかけた看護師と目が合う。
「スギタさん、どうぞ」
私は、点滴ポオルを杖にして待合の椅子から「よいしょ」と立ち上がってよちよち歩き出す。

抗がん剤治療が始まってもう二週間が経つ。最初はすさまじい吐き気を催し、何も口にすることができなかった。
明らかに痩せた…足に力も入らない。点滴だけが頼りの生活だった。
診察室にやっとたどり着くと、柔和な笑顔で、血色のいい梶井先生が迎えてくれる。
「どうぞ、おかけください」「はい」
看護師が席を勧めてくれる。
「どうです?調子は」
「最初よりは慣れましたけど…」「まだ食欲は戻りませんか?」「はあ、アガロリイくらいしか食べれません」「ふむ…」
「アガロリイ」とは、栄養補助食品で、朝夕晩の三食の食事にかならず付いてくるカップ入りの寒天である。

画像診断の結果を見ながら、通り一遍の説明を受け、「変化なし」との診断だった。
胆管にできている腫瘍は大きくなっていないが、肝臓への転移がみられるということで「一勝一敗」というところか。

またフロアで待つ。
「スギタチヅルさぁん」
ああして、フルネイムで名を呼ばれるのは何年ぶりだろうか…
高校時代のある場面がよみがえる。


「はい、そこなところを後藤、読んでみ」
窓際でぼうっとしていた私が、先生から英語のリイダアを当てられた。後藤とは私の旧姓である。
「え、どこだっけ?」
すかさず、後ろの中村真由美が「39ペエジの二行目」とささやいてくれた。
「ice cream」のところを「イセクリイム」と読んでしまい、クラスメイトの爆笑を誘ってしまった。

もう何十年も前のことだ。

戻ると、四人部屋の入り口に見慣れた男の顔があった。
蒲生譲二だった。
そばには奥さんの美智代さん。
あたしが「ママ」と呼んでいるその人だった。

「よっ!どうや」
いかつい顔から発せられた、だみ声が響き、ほかの患者さんが訝(いぶか)しむ。
「あんまり…」
「良うないんか」
「千鶴が、入院した言うから、あたしも一緒に連れてってて、この人に言うたんよ」
「ありがとうございます。ママ」
「ほんまに、心配かけてから」
ママの手があたしの涙で濡れた頬をなでる。

「お前には、いろいろ世話になった。カネのことで困ったら、美智代になんでも言えよ」
「うん、わかった」
「あんた、ご主人はどうしたん?」
体の不自由な旦那のことを、ママは言っているのだった。
「ダンナの両親がみてくれてる」
「そうか。ご健在なんやな。それだけでもよかったやん」
「うん」

あたしはこれまで入院の経験がない。
旦那の入院には何度も付き添ったが。
だから、勝手はわかっていた。
しかし、体がこうも動かない経験はなかった。
どこか病人を蔑(さげす)んでいたあたしに、その辛酸を舐めさせてやろうという何者かのしわざなのだろう。

「ほなら、いくわな。また来てあげるしね」
ママが名残惜しそうにあたしの手を取る。
「うん、ありがと」
「ちづ、お前らしないで。弱り切ってるやないか」
「病気やもん、しかたないやん」
二人は、去っていった。

昼から塾の和多田先生が生徒を二人連れてやってきてくれた。
「杉田せんせ、どうなん?しんどいの?」
あすかちゃんがベッドをのぞき込んで訊いてくれる。
「だいじょうぶや。ちょっと弱ってるだけや」
「ほんま急でしたね」と、和多田先生。
「せんせ、これ」
佐藤翔太がはにかみながらあたしに何かを差し出す。
将棋の駒だった。
「桂馬か…」
翔太が、「桂馬の高飛び」と口ずさみ、
「歩のえじき」と、あたしが続けた。
また涙が頬を伝うのを感じた。
「翔太、将棋、強なったか?」
「うん。まあまあ」
「ちゃんと勉強もすんねんで。お笑い芸人はそれからでも遅くないから。ロザンなんか京大出てはんねんで」
わかってんのか、どうかしらんけど、翔太はうなずいてくれた。
「こんど、ゆいとすみれも一緒に来るからね」
と、アスカちゃんが約束してくれた。

三時頃、けいちゃんが来てくれた。
あたしに将棋を教えてくれた師匠や。
あのころまだ中学に上がったばっかりのおぼこかった(幼かった)女の子がもう十七の娘さんになって。
「おばちゃん…あたし」
手を握って嗚咽をもらす。
「なんやのん。けいちゃん。あたしは大丈夫やで」
「そやかて」
「お母さんから聞いたんか」
「うん」
彼女の母親には正直に伝えてあった。
あたしは、けいちゃんのさらさらの長い髪を撫でながら、
「あの大雨のときの避難所のこと覚えてる?」
「うん」
あたしたちは避難所で知り合ったのだった。
あたしが勉強を教えてやり、代わりに将棋を教わった。
「あんたには結局、一勝もでけなんだ」
「ううん。おばちゃんは強なった」
「ほうかぁ。うれしな。師匠にそう言われると」
「うわあん」
「泣きな。べっぴんさんが台無しや」

泣きはらした顔で、けいちゃんはしょんぼり病室を出て行った。
その後姿をあたしはずっと見送っていた。

辞世の句を作らなあかんな…
なんとしょうか?

あまりの痛さに、未明に起きてしまった。
ナアスコオルのボタンが届かない。

看護師の堤(つつみ)さんが駆けつけてくれた。
「どうしました?杉田さん」
「痛いんです」
「今日からタアミナル・ケアの病棟に移れますからね。点滴に痛み止めを入れましょう」
「ありがとうございます」

救急車のサイレンが遠くからだんだん近づいてくる。
ここは救急指定病院でもあるから、当然である。

点滴のルウトをつけているので、堤さんがそこに輸液バッグを取り付け、点滴柱にぶら下げる。
痛み止めを注射器でその輸液に足してくれる。

あたしはパジャマを着ずに病院が支給してくれる病衣で過ごすことが多い。
ルウトが引っかかるのでパジャマは邪魔だからだ(うる星やつらの曲であったな…)。

手術を受けない選択をしたあたしは、ロスタイムを宣告されたサッカア選手だった。
ピッチには焦りとあきらめがあった。
負けているのだ。
同点ならまだしも。

主治医は「遅すぎた」といい。
あたしは「それでいい」と言った。

かつて『大江戸捜査網』という時代劇がテレビであった。
「死して屍(しかばね)拾う者なし」とは、そのドラマの有名なフレエズだった。
隠密同心の心構えを言うているのだ。
公儀で動く隠密が、不幸にして敵に殺されても、だれもお前の亡骸(なきがら)を始末する者はいない…
そんなことをすれば組織が危うくなるからだ。
隠密は隠密らしく、密かに死んで土に帰るのだ。

あたしも拾ってもらわなくていい。
そうだ、密かにだれかに埋めてもらえないだろうか?


朝が来て、私は終末期病棟(ホスピス)に転院した。
ホスピスではお風呂の日が決まっていて、女性は火木土の三日なのだそうだ。
点滴用ルウトにラップを巻いて、お風呂に入る。
車いすでも入れるように大きな間口になっていた。
あたしは歩けるんで、関係ないが、末期になればもしかすると車いすで入ることになるかもしれない。

風呂から上がって洗面でドライヤアを使って髪を乾かしていると、神原弁護士が来てくださった。
「杉田さん、蒲生会長から聞いて来ましたよ」
「せんせ、すんませんね。こんなとこまで」
「お気持ちはお察ししますわ。まだ若いのになぁ。つらいでっしゃろ」
「あのね、せんせ、ほかでもないんやけど、遺言を旦那に書いてやりたいと」
「わかってます。おそらくそういうお話やろと思ってました。だいぶ悪いんでっか?」
「もう、長くないですわ。頭がはっきりしているうちにね、作っとこと思って会長の奥さんに話してたんですよ」

ベッドサイドではなんなので、談話室を借りて弁護士と話すことにした。
「土地一筆とその上の建物は千鶴さんの名義なんですね。すると、法定相続人が旦那さんしかいたはれへんから、ほっといても旦那さんのもんになりますけどね。尚子さんには兄弟とかいはれへんでしょ」
「一人っ子です」
「親御さんもすでに他界されているし…尊属はみな亡くなられてますもんね」
「あのね、だんなは体が不自由やから、その、後見人が必要やと思うんです」
「ああ、それはそうですね。旦那さんの親御さんとか、いらっしゃるわけでしょう?」
「高齢だし、妹さんがいてるんですけど、遠いとこに住んでますしね。ここはひとつ、神原先生にお願いできしませんか?」
「成年後見人をあたしに依頼されるということですか?わかりました。そこまで信頼されて、弁護士冥利に尽きますわ」
「せんせしかいませんもん。回り見渡しても」
「蒲生会長にも言われてるんですよ。杉田さんの家族をちゃんと面倒見ろとね」
「よかった。ほんでね、家に親から受け継いだ本がやまとこさあるんです。あれをね、和多田澄夫という学習塾の先生に譲りたいんです」
「ほう…その和多田さんはそのことをご承知なんですか?」
「一応、お話してあります。喜んで引き受けてくれはります」
「動産の一部、書籍だけを和多田澄夫氏にお譲りすると遺言書に書き添えてもろたらええですわ」
「あたしの預金債権は京都銀行と京都中央信用金庫にある分で全部で、そこから葬式代を出してもろて…あとは神原さんにお任せします。」
事務的な話がえんえんと続いた。
自筆証書遺言を神原氏と作成した。
そのために実印を懐に持ってきていた。

近いうちに、遺言書の確認をするんで、また神原氏にここへ来てもらうことにした。
遺言書は弁護士事務所で保管してもらえるそうだ。

昼食は最近「アガロリイ」しか食べられなくなっている。
あまり欲しくないのだ。

ホスピスの副院長でもある音川真(おとかわまこと)先生が午後に回診してくださる。
クリスチャンらしく、教誨師みたいなお話をされる。
教誨師って、死刑囚の心を和らげる人だから、ふさわしい表現じゃないかもしれないけれど。

「死ぬのは怖いんですよ。この期に及んで…」
あたしが言うと。
「大丈夫ですよ。眠るように旅立てますから」
「ほんと?」
「お薬の量も増えてまいりますとね、昏睡が続きます」
「そっか…」

死ぬということは息が止まることだと、あたしは漠然と思っているのでなにやら息苦しい気がした。

私がそう思ったのを読み取ったのか、音川先生は「窓を開けますか?今日はいい天気です」と言った。
先生が立ち上がって窓際に行った。
いつもより山が近いように見えた。
まったく新緑の季節を迎えたのだ。
そういう時期に旅立つのも悪くはない。

音川先生は、若いのか年取ってるのかわからない人だった。
看護師の入江さんとか、立川さんも病棟の看護師とは違った雰囲気を持っている。
とにかく優しい。
泣きたくなるくらい。
「そんなに優しくしないでよ」
と言いたくなる。

眠くなった。
気が付くと、音川先生はいなくなって、カーテンが薫風に揺れているだけだった。

私は夢を見た。
夫、祥雄(さちお)と知り合ったころのことだ。しかし私はなぜか、入院状態という「ちぐはぐ」な世界だった。

今日もあの人は来るのだろう。
あたしは、痛みにこらえながら、ベッドから立ち上がり、病室の窓の外を見た。
下には、通りを挟んで、病院の駐車場が前方に広がり、西陽に車の長い影が伸びていた。

今は初夏のはずなのに、季節が秋も深まろうとしていた頃に変わっていた。
あたしの命が尽きようとしている暗示なのだろうか。
病の進行は思ったより遅かった。
それが、却って別れを辛(つら)くしている。

結婚を約束したあの人は、それでも毎日、足繁く見舞いに訪れてくれる。
申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「治れば一緒になろう。きっとだよ」
そう言ってくれた。
出会った時から、あたしの運命は決まっていたのに、あたしはそのことを言えなかった。
もっと早い段階で、あたしから、お終いにしておけば、こんな悲しい最後にはならなかったものを。

歳の差だってあった。
あたしのほうが随分、お姉さんだった。
あの人はそれでもいいと言って聞かなかった。
最初は、あたしは本気ではなかった。
虚弱なあたしは、最初から人並みの恋愛など欲していなかった。
だのに・・・

こんな体になって、余命を宣告されているあたしに、あの人は変わらない眼差しを向けてくれている。
それが、辛いのだ。

紆余曲折はあった。
彼のご両親は、年齢差を理由に結婚に反対なさった。

反対を押し切って籍を入れ、体が動くうちは、二人であちこち行った。
楽しかった。
人生でこんなに楽しいことはなかった。
しかし、その時間もすぐに尽きてしまった。
あたしは、倒れ、救急車で運ばれ、彼は予期しなかっただろうが、あたしには予想通りの宣告を受けた。

ふと、窓の下を見慣れた彼の車が通って、駐車場に曲がっていった。
あたしは、それを目で追い、彼が車から降りてくるのを見守っていた。
来てくれれば、うれしい。
メリハリのない病床の生活に、彼が訪れることで、区切りがつく。
夕食までのしばらくの間、何を話すでもなく、彼の声を聞いていると、不安が遠のくような気がするのだ。

花束を片手に、彼が駐車場の中を歩いて、こちらを見上げる。
あたしの姿を認めたのか、その花束を振る彼。
くったくのないその表情に、あたしの目は濡れてくる。
あたしは力ない手を上げて、合図した。

四人部屋は、みな末期のがん患者だった。
独特の匂いがある。
あたしも臭うのだろうか?
看護師が動けない患者の下(しも)の世話をしている。
カアテンで仕切られているが、臭いは充満してしまう。
コオルが鳴っている。
いろんな電子音が遠くで鳴り止まない。
看護師の人数が足りないのか、なかなかきめ細かい世話をしてもらえないのが実情だった。

「やあ」
「来てくれたの?毎日は、いいのよ」
あたしは、ベッドサイドに掛けて、彼の訪(おとな)いをよろこんだ。
「これ、買ってきたんだ。今日は君と出会った記念日だから」
そうだったっけ・・・
あたしは、まったく失念していた。
そういえば、秋だった。
「ありがと」
あたしは、素直に喜び、また目頭が熱くなるのを覚えた。
空の花瓶に彼はさっさと水を汲んで、オレンジのバラとかすみ草の花束を挿しこんでくれた。
「いい色ね」
「だろ?おれのセンスもなかなかだろ?」
「うん」
あたしは、笑みを返した。
もう、次の記念日にはあたしはいない…
きっと、いない。
真っ暗な世界に、あたしは旅立つのだ。
そう思うと、無性に泣けてきた。
泣いちゃいけない。

「どうしたの」
彼の暖かい腕が肩を抱く。
「なんでもない」
「寒くないかい?今晩は冷えるそうだよ」
「うん、病室は暖かくしてくれてるの。あなたは、風邪ひかないようにね」
「ああ」

「わたしのことなど、もう気にしないで、あなたは、あなたの道を歩いてほしい」
松山千春の『旅立ち』の歌詞が頭をよぎった。

そうだ、あの歌は、あたしのことを言っているのだ。

真っ暗な中、遠くでアラアムが鳴っている。
私は昏睡のまま旅立とうとしているようだ。
いつも、あたしは、祥雄のそばにいるわ。

祥雄と私は職場結婚だった。結婚とともに私は退職したが、夫の上司や部下を良く知っていた。その夫がくも膜下出血で倒れたとき、彼らは同情的だったけれど、本心はとても困っていたに違いない。

「もういいから」私は夢の世界に戻っていった。夫と私の立場が逆転している世界へ…
このままだと、みんな疲れて、まいってしまうわ。
会社の砂田部長さんも、表向きは物分りいいようだけど内心では、私の介護で休みがちなあなたのこと、良く思っていないみたい。
部下の山下さんと萩野さんもあなたの分の仕事を押し付けられて、弱っているわ。
このまま、あたしの看病のために、お仕事を犠牲にしたらあなたの立場はますます悪くなる。
だからね、もういいよ。

あたしは、もう、もとのあたしにはもどれないの。
ほんと、ありがとう。
母さんと父さんのところに行きます。
ひとりぼっちじゃないから安心して。

そして…
祥雄さん、あなたは、まだ若いから、いい人見つけて、新しい人生を送ってね。

私は夫に感謝の気持ちを使えたかったからこんな夢を見ているのだろう。現実は、その夫はもう私のことなど高次脳機能障害で認知できないでいる。それが悲しいから…

最初は、あなたが、地味なあたしを、映画だの、遊園地だのに行こうと誘ったのよね。
「変な人」と、あたしは思ったわ。
だって、そろそろ四十前の、あなたより九歳も年上のあたしに、熱心にアプローチしてくるんだもの。
でも、いつもあたしが喜ぶことを考えてくれていたのよね。
あたしは、結婚なんて諦めていたのに。
それなのに…

そしていつかのクリスマス…
あなたは、はにかんで、プロポーズしてくれた。
うれしかった。
貧しい家に生まれたあたしに、あなたは「サンタクロース」になって来てくれたのね。

子供はできなかったけれど、その分、二人の時間が濃密だった。
だから神様が妬いて、二人を引き離そうとされたのかもしれないわ。

さあ、あなた。お別れよ。
ありがとう。


ふと目が覚めた。夢の中の夫は健常なころの姿だった。今は、脳溢血で右片麻痺の状態だというのに。
これが夢なのかうつつなのか判然としなかったが、それだけが確かだった。

ところが私は、病室の天井から「私」を眺めている。
昏睡する「私」の隣で、車椅子に座った夫が舟を漕いでいる。いつ来てくれたのだろう?一人では来られないはずなのに。

突然、バイタル機器のアラームがけたたましく鳴った。
「うん?」
夫が目を覚ます。
看護師が駆けつけてくる。
心拍のグラフが平坦になりつつあった。
音川先生も駆けつけてきた。
「ちょっとすみませんよ」
ベッドの脇に先生が入る。
聴診器を胸に当てる。
「ちづるさん!しっかり。聞こえますか?」
向かい側から、看護師が「私」の耳元で叫ぶ。

苦しみから解き放たれた今、わたしは、翳(かげ)りのない空の下に立っていた。

一朶(いちだ)の雲もなく、大地は丈の短い草に覆われ、どこまでも続いている。

風はわたしをよけて流れている。

わたしは、しかし肉体を備えていない。

ここでは、そのようなものは用をなさない。

もっとも肉体は、ぼろぼろにされ、無残に引き裂かれた。

かえって清々したわたしだ。

飛ぶでもなく、浮かぶでもなく、漂うわたしは、確かに「立って」いる。

足で立っているのではない。

心で立っているのだ。

玉を持つ心…

風はわたしをよけていく。

光はわたしの影を作らない。

(おしまい)

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