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ある日の日本(2)

土塁まで五十メートルくらいだろうか?
その奥はカイヅカイブキの並木になっていて、また小高い人工の丘になっている。
駐屯地の試射場だ。
あたしは、座学で銃器の講義を受けた後、「9mm自動拳銃」を試射させてもらう。
ほかの奥さん連中は、怖がってやらないから、あたし一人の参加となってしまった。

「銃器は火薬の爆発力を弾丸に効率よく伝えて殺傷能力を高めています。横山さん、そのためにはどういう仕組みになっていましたか?」
実弾訓練の教官、伊藤大志三等陸佐が白い歯を見せてあたしに訊く。
「え?あ、はい。弾丸と銃身の密着を高め、ガス抜けさせないことです」
「そうですが、そのためにどういう工夫がありましたか?」
「ライフリングとクロムめっきです」
「そうでしたね。発射された弾丸はライフリングに押し付けられて回転をしながら、マズル、つまり銃口から飛び出て、外気圧と薬室の気圧が等しくなります。ということは爆発のエネルギーがほぼ弾丸に伝達されたことを意味しますね。では撃ってみましょう」
あたしは拳銃を手渡された。
「この拳銃は、スイスのSIG社からミネベアがライセンスを受けて国産化されたものです。陸上自衛隊の制式拳銃です。弾が入っていようがいまいが、銃口を絶対に人に向けないよう、気を付けてください。引き金には指をまだかけてはいけません」
真剣な表情で三佐が言う。
「この拳銃は9mm口径です。だから弾は9mmパラベラム弾を使用します。弾倉は、こうやって」
ロックを外すと、するりと握りの下からマガジン(弾倉)が抜けた。
カチャっと再びマガジンを押し込む。
「全部で9発入っています。まずターゲットに向かい、肩幅に足を開きます…」
最初は拳銃を両手で構えるやりかたを教わる。
片手で拳銃をカッコよく抜き撃つなんていうのは、とても素人にはできないそうだ。
「スライドを、自分がやるように引いてみてください。その前に安全装置のこのピンをずらします」
あたしは三佐の手元を見ながら同じ動作を行った。
「こうすることで一発目の弾丸が薬室に装填されます。同時にハンマーが起こされましたね。この状態で狙って撃ちます。まず自分が撃ってみます。横山さんはイヤーマッフルをどうぞつけてください」
伊藤三佐が構えた。さすがに軍人らしく堂に入っている。
あたしは急いでマッフルをかぶった。
パン…
拍子抜けの軽い音がした。
土塁に砂煙がポッと立った。
「こんな感じで、撃ってみましょう」
「はい」
あたしは、両手で構え、引き金に指をかけた。ドキドキする。
エイッとばかりに引き金を引いた。
ずどっ…そんな感じで腕が反動で上がり、薬莢が横に飛び出して足元に転がった。
弾は上の方に飛んで行ってしまったようだ。
「肩に力が入りすぎだ。それでは当たらないです」
「はぁ」
あたしは、もうドギマギして、何がなんやらわからなかった。
「もう一度撃ってみましょう。もう自動で次の弾が薬室に装填されているので、引き金を引くだけで発射されます。さ、どうぞ。撃ち方、始めっ!」
「はいっ」
今度は落ち着いて狙った。
肩の力を抜いて、足は肩幅に…
腰だめで構えて…
ドシッ…キーン
硝煙が残り、排莢され、今度は前の土塁に砂煙が舞った。
「よろしい。だいぶ良くなりました」
「あ、ありがとうございます」
「残りの弾も撃ってしまいましょう」
あたしは、今日だけで、ずいぶん拳銃を扱える主婦になった。

こんな奥さんが普通に街にいる日本は好きですか?
ほんとうに、こうなってもいいんですか?
自民党の言うように憲法を改めると、おおむねこうなりますよ。

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