今、「医療崩壊」以外のことも考えなければならない理由


新型コロナウイルスと向き合っている、全ての関係者の皆様、感染のリスクと向き合いながら現場に立ち続けている臨床現場の皆様に深く感謝申し上げます。多くの人達のいのちを守り、社会システムが機能するためには「医療崩壊」を防ぐことは最も重要です。一方で今、医療崩壊以外のことも考えなくてはこの状況を抜けることはできません。今回はいくつかのデータを見ながら2点について共有したいと思います。

1.軽症者の隔離とサポートの重要性

高度医療機能を重症者に優先的に割り当てる、マスクや防護服を医療提供者に優先的に割り当てる、医療提供者の体調管理をサポートし休暇を十分に確保する、大きな負荷をともなう仕事に対する手当を行う、こうした対応は必須だと思います。一方でこうした取り組みの中で、在宅など病院外の療養に移行した軽症患者への対応も重要です。

接触経験LINE

図は昨日(4月24日)、神奈川県が会見で示したLINEパーソナルサポートの分析結果です。左側の図が示しているのは「身近な人の中で新型コロナウイルスの陽性と診断された人がいるか?」という質問に対する回答別の発熱割合です。外出自粛が強く打ち出されたことにより、家庭内接触の機会が増え、同居者の発熱リスクが大きく上昇しています。これは東京都において割合が少なくなったとはいえ、経路の追えている感染者においても同様に傾向が見られています(http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3961513.html)。LINEの地域別の分析でも、4月以降は発熱者の分布はエリア内に集積する地域が多く、他のエリア外に大きく拡散はしていません。これは自粛の1つの効果だともいえますが注意するべき点もあります。

中国においても封鎖の初期では家庭内感染が増加しました。強力に封鎖を行った武漢の事例をみてみましょう。(https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2764658…)。

武漢の推移

図が武漢における感染の推移と対策です。家庭内検疫を行っている間は、新規感染者数は横ばいになっており、感染拡大からはピークアウトできていませんでした。

軽症者の自宅待機は、先に挙げた家庭内感染だけでなく、症状悪化に対する対応の遅れ、買い出しなどの対人接触が避けられないなどのリスクをコントロールすることが簡単ではありません。さまざまな要因が背景にあるので一概にはいえませんが、武漢においては隔離政策に切り替えた後に減少に転じています。また隔離施設における対策を徹底した韓国でもピークアウトに成功したことを考えると、軽症者への対策も注意すべき事項です。日本では、医療崩壊をさせないために、重症者に病床を空けるという点に注意が向けられていましたが、軽症者の隔離とサポートという観点からも対策を考えることは必要です。

今後はPCR陽性者だけでなく、発熱症状などの関連症状がある人々についても対策を行うことは重要です。1ヶ月前のLINE調査でも、発熱症状があっても休むことができる人は半数しかいませんでした。

画像3

陽性患者さんを働かせることは論外ですが、発熱などの症状がある人が社会的距離をとって療養できるようにサポートすることは、全ての働く場、暮らしの場において考慮すべき事項です。

2.見えない感染とどう向き合うか?

図1の左側が示しているのは、「身近な人の中に陽性者がいる人」と「身近な人の中に陽性者がいない人」の発熱割合です。4月の頭までは、陽性者との接触経験を自覚している人の発熱割合が高かったのですが、4月中旬からはほとんど変わらなくなっています。保健所に関わる方々からも、東京都では経路不明といっても”話したくない”というケースよりも、”全く身に覚えがない”というケースが増えているという話も伺っています。こうした状況では3密がそろうリスクの高い環境を避けるだけではなく、社会的距離を十分にとった行動を行うことも不可欠であるといえます。

この数日に公表されたデータの中では、いくつか考慮すべきものがありました。

無症候者へのPCR

上記は、慶應大学病院が無症状の入院患者に対して行ったPCR検査の結果です。67人中4人、およそ6%の患者さんが無症状でも新型コロナウイルスに罹患していました。入院患者という偏った母集団であり、またサンプルサイズも少ないことから6%という割合を日本の現状として考えることは限界がありますが、これまで見えていなかった日本の現状を把握し、警戒する視点として考慮すべき結果です。

またニューヨーク州で行われた抗体検査の結果も無視できません(https://www.cnn.co.jp/usa/35152892.html)。一般住民調査の結果、既に14%の人々が抗体を持っている可能性があるという結果でした。これは積極的に検査を行っていたニューヨークであっても実測の10倍以上の感染率だったという事を示しています。ただ調査の方法や抗体検査の精度にも不明瞭な点があり、現時点でこの報告のみで、事実として考えるのは早計です。また「これが事実であれば、新型コロナウイルス致死率は相当低いのでは?」というような見方もできますが、警戒しなければいけない点もあります。ニューヨークの調査が事実を示していた場合に問題となるのは、”想定以上の感染力”と”医療システムを破壊する重症者の数”です。また、ニューヨークの14%の人々に免疫があったとしてもそれがどの程度の期間持続するかは不透明ですし、持続したとしても集団免疫にはまだ遠く、第2波、第3波でパンデミックが発生すれば依然相当数の死者が発生します。こうした状況を踏まえて日本の現状はどうなのか?現時点では十分なデータはありません。抗体検査の精度の課題を踏まえた上で、多角的なアプローチで状況を把握することが必要です。

では今、どのように行動すれば良いのでしょうか。ある臨床現場では、i.プライベートであっても食事は1人でとる、ii.休憩中は人の方を向かずに壁を向く、iii.周囲の人も自分も新型コロナウイルスに感染しているという前提で常に生活する、という厳戒態勢で行動を行っています。ここまで気をつけても感染を防ぐことは簡単ではありませんが、患者さんの為にも様々な現場で日々対策が講じられています。感染リスクが高まる中でも働かなくてはならない、臨床現場を初めとする多くの方々の取り組みに敬意を感じていますし、継続的なサポートが必要です。

一方で、私を含む現場以外の立場では何ができるのか?それはやはり社会的距離をとり、今はできるかぎり家にいることです。感染経路が見えない間は、様々な行動制限の中で感染を押さえ込むしかないのです。そうした中で世界は行動制限のトライアンドエラーを繰り返し、新型コロナウイルスに対するエビデンスを積み上げています。このようなデータに基づいて、各分野で行うべきリスク管理、可能な社会活動、そしてその先にある新しい日常(New Normal)を皆様と考えていくことが出来ればと思います。

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