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未来を拓くために、これまでの文化とどう向き合うか?

12月9日に「日本文化の世界発信」をテーマにしたWeekly Ochiaiに出演させて頂きました。”営業終了後の無鄰菴をお借りして、お庭をライトアップする”という贅沢な空間の中で、感染対策を行い開催しました。ここで少し補完したいのは、途中なんとなく対立軸に見えた矢島さんと落合さんの論点は視点を変えると高め合うものだということ、そして「枕草子」の魅力です。

日本文化の世界発信を考える上で「世界に認めてもらうには?」という、落合さんの問いは大切です。「一時期の日本の文化に世界が興味を持っていたのは、GDPという指標で日本が世界を凌駕していたからだ」という指摘は一面において事実です。一方で、世界の価値軸が”ものの所有"から、”Wellbeing”や”サステイナビリティ”などに変化する中では、新しい軸の中で価値を示すことも重要です。

この点については”better Co-being”や、”最大多様の最大幸福”という観点をここで何度かお話してきました。この時、門川市長が示されていたようにSDGsなどの世界の枠組みの中に位置づけながら、それを発展させるものとして、新しい価値を示すことも忘れてはならないでしょう。単に過去の文化を懐古的に振り返るのではなく、未来を拓くものとして向き合うというアプローチが必要になりますね。

太田さんが実践してきた「茶会の見立て」や矢島さんの大切にされている「和える」は、この点を考える上で重要なコンセプトだと改めて感じました。日本の文化を世界へ発信する時に、相手の大切なものを理解した上で、現地の素材や暮らしに見立てて、文化を響き合わせる。例えば和食は、日本で食べるものをそのまま再現することに重き置くあまり、多くの場合、海外での提供においてクオリティを落としてきました。”鮮度を重視し、食材を活かす”ということを考えた時には、現地の食材を活用し、現地と共鳴するものが、その地域で表現されるべき和食なのかもしれません。

異なる文化をつないできたco-creationのアプローチは、過去と未来をつなぐ時にも通じるものがあります。能であれば「生と死が隣り合わせとなる無常の中で、生きることどのように向き合うか」という問いは、文明の転換点を迎えるこれからの世界を考えることにもつながります。また「大名同士がぶつかり合う中で、既存の価値観を超えて人や世界にどのように向き合うか?」という茶の湯の視点も、分断が加速する今、まさに重要となるものです。

そのような背景の中で、最近あらためて素晴らしいと感じているのが「枕草子」です。世界を様々な観点から捉える清少納言の感性は、それだけで圧倒的に美しいのですが、一人ひとりの生きるを響き合わせて生まれる未来社会を考えた時に、1人称を大切にして捉えた世界の体験に、時代を超えたエッセンスを感じています。俗っぽくビジネス的に言えば、DXで考えるべき体験価値の本質やカスタマーインサイトの手がかりを枕草子にみる、、、というようなことかも知れません。

普遍的なものを残そうと意気込んだ芸術作品は、時に時代の変遷の中で、うつろいゆくものを浮かび挙がらせることになります。一方で逆に、ある瞬間の輝きを捉えた枕草子を通して、変化する現在にあっても変わらぬものを体感することもできます。もちろん当時の宮廷の文化や価値観は、現在に照らしてしまうと受け入れがたいものもありますが、そこに生きる人々の感情や感動は通じるのです。

また1000年を超えて枕草子を読む醍醐味は、京都の文化、景色、四季の中で清少納言の感性に触れ、うつろいゆくもの、変わらぬものを体験できることです。枕草子にインスパイアされた後の世の作品との対比も興味深く、特に吉田兼好の「徒然草」との時代を超えた美しい共鳴は、とても読み応えがあります。

これまでの文化が大切にしてきたものをともに大切にしながら、未来を拓くための価値と響き合わせ新しい文化を創る。これから各務さんや佐々木さん、落合さん、そして皆さんと創るTHE KYOTOがその様な場になっていけば良いと考えています。


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