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消えた光

※この記事には、僕の本当の心の内が表現されているセンシティブな部分が含まれます。ご了承ください。

 


時が止まった闇のドームの中で

………………
一体どこをどう間違えてこんな所に閉じ込められたのだろうか。

僕を囲む闇のドームの中は時が止まっている。
ドームの外にはぼんやりとたくさんの光が動いている。
どうやらドームの外は時がちゃんと動いていて、時が止まっているのは中だけらしい。
しかも、そのたくさんの光は、ドームの外で楽しそうに動いている人々によって、まるでポケ〇ンボールの如く所有されているようだ。

かつては僕もあの光を持っていた。ドームはあったかもしれないが少なくとも僕の周りも時は動いていた。
でも、光を持っていた僕、動いている時の中にいた僕の事はよく覚えていない。
ただ、持っていた光が消えた瞬間、時が止まった瞬間の記憶だけは今でも嫌になる程頭のどこかにこびりついている。

光が消えた理由も、時が止まって今動けないままでいる理由もわかっていた。
全部、僕のせいだった。
そいつらに甘えていたんだ、僕は。
どんな攻撃が来ても、とりあえずそいつらに縋っていればなんとかなる、とかいうなんとも浅はかな考えで、自分自身をいい方向へと変えようとしてこなかった。
当然の結果だった。
しかしいつまでも過去を嘆いている暇は無い、早くこの状態から抜け出す方法を探さねば。
と手段を様々試すが、抜け出す手段は未だ見つからないままだ。

暗い。身体が重い。道が見えない。

絶望と嫉妬

人間は、光を希望とし、それがそれぞれの時という道を照らしている。
光を失った僕に大きくのしかかるのは、まずは当然、絶望だった。
僕が持っていた光の、一度手に入れてもひょんな拍子ですぐ消えてしまう不完全さに。
僕が一番信用していた自分の光、それによって照らされていた僕の時という名の道は、こうも簡単に突然僕を裏切るものなのだったという現実に。
何より、そんな光、時に甘えていた、そしてそれが無ければろくに生きることすらできない自分に。

次に僕を襲ったのは、紫色をした悪魔の火焰のような、嫉妬心だった。
闇のドームの外から見える又は聞こえてくる声はみんなだいたいこうだ。
「昨日は3つリハあって、今日は本番、明日も本番、明後日はリハからの仕事からのまたリハ、あ〜忙しい忙しいぃ〜」
「毎日大好きな友達(恋人)と一緒に過ごしてたくさん騒いで、色んなところでも活躍できて私ってすっごく幸せぇ〜」
毎日何かと忙しい奴らも、友達や恋人と楽しく過ごしている奴らも、随分と能天気に人生幸せそうにしていらっしゃる。
僕には、そんなに忙しくできる程の縁がない、また友達と我を忘れて騒ぐ事もできない、ましてやこんな僕に恋人など存在するわけが無い。
そして、ドームの外の人々の生活についていけるような結果も運も金も性格もスキルも何一つ持ち合わせていない。
なぜ他のみんなはそんなに人生を謳歌できるだけのたくさんの光を持っていて、僕だけがそのような光を持っていないのだろう。
いっその事今一度、あの人たちが持っている光も僕が持っていたものと同じように全部消えてしまって、あの人たちがいるドームの外の時も止まった状態になってしまえばいいのに。

あぁ、このような絶望感と嫉妬心ばかりが育ってしまっては、原因は自分にあるという事をまた忘れてしまいそうだ。

新たな光を掴んで

そんなどうしようもない人間になりかけていた頃、とある演奏会があり、そこに聴きに来てくれた友人から、終演翌日にこんなLINEが届いた。
「前、あなたのインスタか何かで闇落ちしてる感じの写真撮影をしたのを見て、雰囲気合ってるなあって感じたのを覚えてるんだけど、あなたの音って、深いところにありながらも聴く人の心にすっと入ってきて、優しさに溢れてる感じがしました!(中略)ぜひまたグルで宣伝していただけたらうれしいです!」

これを見た瞬間、僕が動けぬまま閉じ込められていた闇のドームの中で、新たな光が僕の目の前に現れた。
古くからの友人が、闇落ちした僕をも肯定してくれた事。
僕の演奏を、聴く人の心に入るものとしてくれた事。
また演奏を聴きに行きたいと言ってくれた事。
それは僕にとってこの上ない救いの光となった。

不思議なものだ。
ひょんな拍子ですぐ消えてしまった光は、またひょんな拍子で僕のものとして目の前に現れてくる。
これでまた僕も動けるようになる、僕を閉じ込めていたドームの中も時が動き始めている。 
闇だったドームの中も、今はほんのり明るい。
またこの光もひょんな拍子ですぐ消えてしまうのではないか、という恐怖はあまりない、代わりに、この光こそは大切に持とうという強い意志を持って、今は歩き始めている。
この新たな光をもたらしてくれた友人には深く感謝、と言うといささか薄っぺらすぎるのでは無いかと思うほどだ。
動けなかった僕に希望をくれ、また前に進めるように促してくれたのだから。
友がもたらしてくれた僕の光なのだから、尚更消えないように大切に育てていこう。
なんて言うと友人は「そこまで話を壮大にしなくても…」と恥ずかしがるだろうか。

僕は目の前を漂う新たな光を確かに掴んだ、そしてポケ〇ンボールの如く腰にしまった。



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