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「スタートアップ」を取り巻く環境の変化と転職動向

ベンチャーキャピタルJAFCO(ジャフコ)で大企業とスタートアップの協業を促進するミッションを担っている西中孝幸と申します。

 

新卒からベンチャーキャピタル(VC)に入り、これまでに大企業側の視点とスタートアップの視点、双方を見てきた立場から、今回は「スタートアップ」とその周囲を取り巻く大企業や就職希望者との間でどうしてミスマッチが起こるのか?という課題を考えていきたいと思います。

 

あくまでも私の経験に基づく考えであり、絶対の答えというわけではありません。むしろ、スタートアップ企業の当事者や手を組みたいと考えている大企業側の方、そしてこれからのキャリアパスにスタートアップへの就職・転職を少しでも考えている方と一緒に、課題の解像度を高め、改善策を一緒に考えて頂けたらと願っています。

 

「スタートアップ」を取り巻く環境の変化と転職動向

 

スタートアップという言葉が市民権を得てきたのは、2015年ごろだと思います。それまでのスタートアップへの転職イメージは、いわゆる「雇用条件が悪く、経済合理性の観点だけで考えると、転職先としては選択肢に入れづらい」存在でした。

 

つまり、何が何でも成し遂げたいことがある人以外にはハイリスクすぎて割に合わないキャリアパスだったのです。経済合理性よりも自らの挑戦を優先する、ある意味クレイジーな人たちだけが飛び込める世界だったといえるでしょう。

 

ところが、2015年頃から情勢はだんだん変わってきました。JAFCOのようなベンチャーキャピタルをはじめ、スタートアップに投資するエンジェル投資家も一般的になったため、スタートアップにとっては資金調達がしやすい環境がある程度整ったのです。

 

そうすると、ほとんど利益が出ていない初期のシード段階でも社員にある程度の給料を出せるスタートアップが増えてきました。その結果、スタートアップへの転職を検討している人の層も変化しています。

 

最近目立つのは、広告代理店や総合商社、大手メーカーなどいわゆる“安定している”と考えられてきた業界の方々からの転職相談です。その背景には、次の3点の理由があると考えられます。

 

・日本市場の縮小に伴い、産業的に今後の伸びが期待できない

・自社内で将来のロールモデルを見いだせなくなってしまった

・今後選択肢がなくなっていくことを考え、将来に漠然とした不安がある

 

この3点はいずれも関連しあっていますが、総じて「新しいキャリアを作っていかないとだめだ」という危機感を持ち、今後のキャリアパスの見直しとしてスタートアップを視野に入れているケースが大半です。

 

スタートアップの資金調達成功や大企業とのオープンイノベーションが定期的にプレスリリースなどで報じられる中、以前と比べてスタートアップへの印象は大きく変わりました。

 

ある種のバズワードになった「スタートアップ」に対して、憧れを抱いている人も増えているように思います。

 

では、そもそも「スタートアップ」とは何なのでしょうか?

 

「スタートアップ」の情報格差

 

「スタートアップ」という言葉の知名度は近年非常に高まりました。しかし、残念ながらその多様性については、あまり知られていないように思います。

 

スタートアップという言葉を聞いたとき、あなたはどんな会社を思い浮かべるでしょうか?たとえばメルカリやラクスル、freeeなどをイメージされる人もいるかもしれません。

 

そういった既に上場を果たしたスタートアップ企業であれば資金調達額や実績がわかりやすく、得られる情報量も豊富なため、多くの人の認知を得ています。

 

しかし、実際のところ、未上場のスタートアップを見れば次の4つのフェーズに分けられます。それぞれの段階に応じて、企業の置かれている状況も全く異なるのです。

 

GLOBIS CAPITAL PARTNERSの野本遼平さんがわかりやすく図解されていたので、以下に引用させていただきました。

引用元:スタートアップの成長ステージ(GLOBIS CAPITAL PARTNERS)

 

私の所感では、大企業の方の傾向として、これから成長していくフェーズである「シードとアーリー」、そして上場を目指していく「ミドルとレイター」という大きな2分割のくくりでスタートアップを認識しているケースが多いように感じます。

 

たとえばシードであれば、コンセプトやアイデアを商品・サービスに落としていく検証段階ですから、ほとんど売上が上がっていないケースも多々あります。

 

そういったシード段階のスタートアップと、仕組み化はできていないものの売上実績は立っているアーリー段階を同じ「スタートアップ」の共通認識で話してしまうと、気づかないうちに認識のズレを生んでしまいます。

 

スタートアップの当事者からすれば、自社のフェーズがどこにあるのかを正確に見極めるのは難しいですし、そういった分類にさして関心がないケースも多々あります。したがって、スタートアップが発信する情報だけでは、その会社の正確なフェーズを把握しづらく、余計に認識がズレやすくなるのです。

 

スタートアップの多様性は、それだけにはとどまりません。スタートアップの特徴として、トップや経営チームの価値観やビジョンが会社そのもののあり方を決定付ける傾向が強いといえます。

 

そのため、スタートアップの社風や意思決定のスタイルを本当の意味で理解しようと思うのであれば、相手の経営者の考え方や感じ方もリサーチする必要があります。

 

ところが、こういった「あいまい」な情報を発信するスタートアップは多くありません。リソースが少ないシードやアーリー段階ならなおさらでしょう。

 

大企業とのオープンイノベーションでもいえることなのですが、スタートアップへの転職希望者がうまくいかなかったケースの本質的な原因の一つは、重要なのに発信されないこういった情報の格差だと私は考えています。

 

スタートアップとのよりよいマッチングのために:情報格差を減らす方法

 

スタートアップに転職して失敗したという人の話を聞くと、大きく分けて2つのパターンがあるように思います。

 

・自分が想定していたキャリアとのズレが大きかった

・会社自体が思ったほど成長しなかった

 

組織として安定しているレイターの段階ならともかく、シードやアーリーなどのフェーズのスタートアップに飛び込んだ場合、入社前のイメージと入社後に直面する現実のズレは大きくて当然だろうと思います。なぜなら、市場の変化や顧客のニーズに合わせて、日々変化し続けるのが、彼らにとっての「当たり前」だからです。

 

自分がやりたいと思っていた事業が頓挫することもあるでしょう。場合によっては、会社そのものが潰れるケースもありえます。

 

それを「失敗」と捉えるのか、それとも「経験」と捉えるのかによって、スタートアップへの転職で得られる成果が変わってきます。

 

就職とは、人生の時間を投資し、ときにお金も投資する行為です。スタートアップへの転職を考えるのであれば、人生の投資先を決めるために慎重なデューデリが求められます。

 

つまり、目に見える情報だけではなく、それこそその会社や事業が苦境に立たされたときに、それでも一緒にやっていきたいと思える経営者やチームを選ぶための念入りな情報収集が必要なのです。

 

このポイントは、私たちVCが投資先のスタートアップを決めるときも同じです。どんな事業でも100%成功することはありえません。だからこそ、仮にその事業がうまく行かなくても、その先まで一緒にやっていきたい相手かどうかが重要といえます。

 

価値観や考え方といった「あいまい」な情報を集めるために有効な方法を、私なりの観点から2つご紹介します。

 

1つ目の方法は、自分が転職を考えているスタートアップの経営者層に「なぜその事業をやっているか?」を尋ねてみることです。

 

この質問のコツは、「なぜ始めたのか?」という立ち上げの動機ではなく、「なぜこの事業を選んだのか?なぜ起業という選択肢を選んだかのか?」という意思決定の背景をしっかりとヒアリングすることです。

 

この質問の答えを深堀りしていくと、相手の価値観や意思決定のクセをうかがい知ることができます。

 

そのインタビューで得た相手企業の考え方が、自分の価値観や優先順位と合うのかどうか、本当に納得できるまで精査することをおすすめします。

 

たとえば、同じような事業内容のスタートアップだとしても、それぞれ優先順位は異なります。

 

とにかく売上と実績を出し、組織を拡大して社会に対する影響力を強めていきたい企業もあるでしょう。売上はある程度出しつつ、あえて組織は広げずに、社会的な課題へのアプローチに優先してリソースを注ぐ会社もあるでしょう。

 

いい悪いではなく、それぞれの会社の価値観によって、数年後のビジョンが全く異なるのです。自分の中にある基準ともし土台の考え方がズレた会社に入社してしまうと、お互いにとっていい結果にはならないでしょう。

 

そのようなミスマッチを防ぐためにも、事前の情報収集はしっかりと行いましょう。

 

2つ目に、そのスタートアップに出資しているVCの担当者にヒアリングするのも有効な方法でしょう。

 

VCの側からしても、スタートアップの理念や考え方の部分までしっかりと理解した上で戦力になってくれる人材が加わるのは喜ばしいことです。VCへの相談というとハードルが高く感じられるかもしれませんが、人生の投資先を決めるデューデリの最後の後押しであれば、喜んで協力してくれる人は多いでしょう。

私のように、スタートアップの人材支援を担当しているVCの人であれば、特に相談しやすいと思います。たとえば、私であればMatcherで就活相談を受け付けていますし、他のVCの方でも、積極的に相談の場を設けている人も多いです。

VCの担当者へのアクセスが難しい場合は、利害関係のない中立的なポジションにあるキャリアの専門家にアドバイスを求めてもよいでしょう。求人紹介を受けている人材エージェントやヘッドハンターの場合、どうしても紹介手数料の兼ね合いから、客観的な視点に欠けてしまう可能性があります。よりニュートラルな意見を取り入れたい場合、たとえばこのようなサービスがあります。

スタートアップへの転職を検討している人の意思決定をサポートする面談サービス「ISHIKETTEI」

ホームページを見ていただくとわかるのですが、実は私も一部関わらせて頂いています。ただし、関係者だからという色目を抜きにしても、スタートアップ転職を考える人にとっては有意義な支援サービスだと考えています。今なら先着20名は面談無料で受け付けているので、気になる方はぜひ利用してみてください。

どの方法を取るにしても、自分なりに調べてみてから、というのが前提にはなりますが、スタートアップについての適切な理解を深め、今後のキャリアを見直したい方への支援は近年徐々に充実し始めています。 

私たちVCもこれから、スタートアップと皆さんとのよりよいマッチングのために、さまざまな情報発信やイベント・企画などを行っていきたいと考えています。

日本のスタートアップがさらに活性化し、より多くのオープンイノベーションを世に生み出していけるよう、これからも尽力してまいります。


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