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【対談】オープンイノベーションの「成功」「失敗」とは何なのか?<後編>

スタートアップと大手企業の協業が推進されていく中で、オープンイノベーションの事例における「成功」や「失敗」について議論される機会が増えています。

しかし、オープンイノベーションの「成功」「失敗」の基準とは何なのか?どんな事例を「成功」とみなし、逆にどんな事例を「失敗」と捉えればいいのか、実態に即した定義はまだ出来上がっていないように感じます。


今回は、富士通株式会社で新規事業開発を担当しているアクセラレーター、松尾圭祐さんをゲストにお迎えして、オープンイノベーションの「成功」「失敗」について、一緒に考えていきたいと思います。


前編では、オープンイノベーションの「成功」「失敗」の定義についてどう考えるか、を主な論点としてお届けしました。

前編はこちら→https://note.com/vc_jafco/n/n57e2fda1e7c7


後編では、より大手企業側の視点にフォーカスをしつつ、オープンイノベーションの「成功」「失敗」を左右する要素について議論していければと思います。

大手企業とスタートアップの文化の違いと「翻訳者」


西中:

誰も経験していないイノベーティブな事業に挑むわけですから、当然のことながら、思うようにいかないことは多々あるわけですが、だからこそ大手企業とスタートアップ、どちらも本気でコミットしていないと、なかなか大きな成果には結びつかないですよね。


松尾:

本当にそう思います。僕はよく、大手企業とスタートアップの協業を”お見合い”からの”駆け落ち結婚”に例えるんですが、どれだけ邪魔が入っても志を貫くだけの覚悟が双方にないと、オープンイノベーションは上手くいかないですね。

大手企業側の視点から言うと、スタートアップとの協業は

・トップラインの増加

・業務効率の向上、あるいはコスト削減

・新規領域への参入


などを目的としています。つまり、スタートアップの成長力(Jカーブ)をうまく取り入れながら、自社の利益を急拡大させたいわけです。

ところが、実際のところ、スタートアップとの協業を推進するアクセラレーションプログラムだけでは、図のようなJカーブの成長曲線はなかなか実現できないんですよね。


協業による急成長を狙うのであれば、スタートアップに対して、そして自社のリソースに対して、大手企業側でもリスク覚悟で投資をしていく必要があります。その覚悟ができるかどうかがオープンイノベーションの成功を左右する一つの分かれ道だと思うんです。


私が以前持ち込んだあるスタートアップとの協業による新規事業案の話を例に出してみましょうか。会社役員に事業化を承認してもらう段階で、話し合いは平行線をたどっていました。リスクを許容しづらい役員からは「本当に儲かるのか?」「なんで自社でやらないのか?」という質問の一点張りで、話が先に進まなかったんですね。


最終的には、スタートアップと協業せずに自社で全部やるなら「導入希望の見込顧客を全部捨てる」決断が必要だと言い切った上で、事業化まで押し切りました。ある意味、スタートアップと駆け落ちしたわけです(笑)

そういった覚悟のほか、オープンイノベーションの成功には、大手企業側のコーディネーターの存在も必須だと感じています。


コーディネーターの役割は、スタートアップの先進性と大企業の洗練されたオペレーションやアセットを組み合わせること、そして双方の意思疎通がスムーズにできるように、”日本語を翻訳”していくことです。


それぞれの企業文化を理解した上で、大手企業の戦略の全体像を理解し、関連部署の調整を行い、リスクに対する説明をきちんと行って不安を取り除く。口で言うのは簡単ですが、非常に大変な仕事なので、協業支援をワンストップで行う 「専門部隊」を大企業側に設ける必要があると感じています。


西中:

大企業とスタートアップとの間に”翻訳者”が必要だというのは、私も同意見です。「& JAFCO Meet up」というイベントで以前こんな資料を作ったことがあるのですが、コーディネーターの役割はこれからますます重要になっていくと思います。

オープンイノベーションは未知の領域へのチャレンジなわけですから、私や松尾さんを含めて、当事者はみんな訳が分からないことだらけなんですよね。正直、リスクを挙げだすときりがありません。


リスクに対して不安に思うのは当然ですし、批判自体は悪いことだとは思いません。ただ、批判と合わせて対案がないと、新規事業にアクセルを踏んでいるはずが、なぜかブレーキも同時に踏んでいる状態になってしまいます。


とはいえ、ロジックだけでは人は動きません。なので、コーディネーターを担う人がいかに大手企業が納得しやすいストーリーを提示できるかがポイントなのかなと思うんです。


大手企業の内情をきちんと理解した上で、「なぜこのスタートアップと組むのか」という目的をストーリーの中で説明し、関係者のコンセンサスを得ておく。そうすれば、オープンイノベーションの成功確率はより高まるのではないかと考えています。


松尾:

あとは、大手企業ならではの不確定要素をどうするか、という課題もありますね。たとえば協業を検討する立場の役員がもうじき離任する年齢だったり、人事異動のサイクルが早かったりすると、人の入れ替わりに伴ってプロジェクトが停滞しやすくなります。


あとは営業のモチベーションを考慮した売る仕組みも必要でしょう。せっかくスタートアップと協業して新しい商品を作れたとしても、売上につながらないと意味がなくなってしまいます。営業からすると、普段から売り慣れている商品のほうが展開しやすいですから、新事業の商品を埋没させないための工夫が問われます。先ほど西中さんがおっしゃった「ストーリーの提示」も、営業のモチベーションアップにつながる大事なポイントだと思いますね。


加えて、予算の問題もあります。たとえば大手企業が業績不振に陥ると、ある程度の売上が期待できる既存事業にリソースを割き、リスクが高い新規事業の予算が削られることは珍しくありません。仮に業績が順調だとしても、初期の赤字を許容する必要がある場合、先行投資に対して消極的になるケースもよくあります・


そういった影響を考えると、短期決戦でどこまでがやれるかというのがオープンイノベーションの成功・失敗を左右するキモといえるのかなと思います。

オープンイノベーションの時間軸と「死の谷」


西中:

短期決戦という言葉が先ほど出ましたが、大手企業とスタートアップの間にある時間軸のギャップもオープンイノベーションの大きな課題だと思っています。


たとえば資本業務提携の前段階としてCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)からの出資を受けるケースがありますが、出資を受けた時点でスタートアップからすると協業への期待が高まりますよね。


でも大企業の時間軸でいうと、大きなリソースを動かすために、業務提携や資本業務提携の検討を半年・1年かけて進めるケースもよくあります。ところが、事業展開のスピードを重視するスタートアップの場合、半年・1年もあれば状況が変わっている可能性が高いわけです。


スタートアップの経営方針や戦略・戦術が大幅に変わっていたり、あるいは全く違う企業と提携を進めていたり、といった場合、提携に向けて慎重に計画を練っていた大企業からすると肩透かしを食らったような状態になることもあります。


どちらが悪いわけでもないんですが、スタートアップと大企業の「お見合い」でベストカップルを成立させるのは本当に難しいなと感じています。


松尾:

「お見合い」でよりよい結果を出すためには、大手企業側からの情報開示がポイントの一つだと思うんです。というのも、富士通もそうなんですが、事業を多角化している分、社名だけでは何をやっている会社なのかが見えにくいんですよね。


スタートアップからすると、協業に際して「大手企業と組めば、事業を拡大して売上を増やせる」という期待を確実に抱いているはずです。それ自体は間違いではありませんが、大企業の実態が見えていない中で、期待値だけがひとり歩きしていることが多いように思います。


なので、大企業側の事業をスターアップが理解した上で、「私たちと協業したら、どのくらいのビジネスが作れるのか?」という問いかけをスタートアップが大企業に投げかける必要があると思うんです。


西中:

双方の実態をできる限り理解する、というのは本当に大事ですよね。写真やプロフィールを盛りすぎている「お見合い」が失敗するように、オープンイノベーションの場合も、双方の得意なことや強みだけではなく、苦手なことや出来ないことについてもきちんと共有しておくと、ミスマッチが少なくなります。


とはいえ、特にスタートアップからは言い出しにくい部分だとは思うので、コーディネーターの”翻訳”に期待が寄せられる部分ですね。


松尾:

話は変わりますが、時間軸の観点でいえば、オープンイノベーションによって協業後に一定の成果が出た後の連動性も大きな課題だと思っています。本来であれば、アクセラレーションの先の展開をさらに意識した戦術を考えていく必要があると思うんです。


下の図を見て分かるように、新規事業の開発手法の中では「アクセラレーション」は最もローリスクでチャレンジしやすい方法です。だからこそ、アクセラレーションをきっかけとして、さらに投資や資本業務提携などを進めていくことで、オープンイノベーションの可能性を拡大させていけると考えています。

西中:

松尾さんのおっしゃる「連動性」の視点は、ものすごく重要だと思います。この図でいうと、アクセラレーションから他の領域の間にある白い空白部分が、まさに「死の谷」なわけですね。その「死の谷」を越えていけるかどうかが、オープンイノベーションの本質的な「成功」に大きく関係していると感じます。


非常に大切な課題なのに、まだまだ議論がなされていない部分なので、これから皆さんの力をお借りしながら、一緒に解像度を上げていきたいですね。


非常に奥が深いテーマなので、まだまだ話が尽きませんが、今回はいったんこのあたりで終わりにしましょうか。読者の方からまた質問などが寄せられたら、第二弾の対談もぜひよろしくお願いします。


松尾さん、今日は本当にありがとうございました。


松尾:

こちらこそ、本当にありがとうございました!


文章協力)株式会社SHUUU

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